魔界最強大魔王、鍛え上げた屈強な体で地上界日本に降り立つも……

明石竜 

第1話

「この世界にはもはや吾輩よりも強い奴はいないようだな」

 討伐に来た筋骨隆々で屈強な勇者達をあっさり蹴散らして来た、とある魔界の大魔王として恐れられている男は退屈そうに呟いた。

「大魔王様の長年鍛え上げて来た筋肉と比べれば、勇者達の体はじつに貧相ですからね。あくまで伝説ではありますが、地上界の日本という場所にとんでもなく強い奴がいるそうですよ」

 手下の一人が伝える。

「そいつは良いことを聞いた」

「あと、日本は丸い形をした、たこ焼きという食べ物が美味いそうです。こんな形の」

 手下はそう伝えてたこ焼きの絵を描いてみせた。

「それはますます興味深い。日本とはどんな形をしてるのだ?」

「こんな形の島らしいです」

「ほほう。ちょっと行ってくるか」

 手下が形を描いてみせると大魔王は即、地上界へ向かいその形とよく似た島に降り立った。

「なんか妙な建物だな」

 そして眼前にあったスーパーに入店した。


「ひょっとして、これがたこ焼きという食べ物か? 確かに美味そうな見た目だな」

 そう呟きながら商品棚をじーっと眺めていると、

「外国の方ですか? よかったら奢りますよ」

 着物姿で髷を結った男に声を掛けられた。

「そいつはありがたい」

 会計後、二人は店外へ。

「俺もカザフスタンから日本へ来て、たこ焼きの美味さに衝撃を受けたんですよ。

大阪のからあげとか、たこ焼きとか好き。おいしいですね」

「確かにこのたこ焼き噂通り美味い! ところできみ、なかなか良い体つきだな。吾輩と戦っていただけるか?」

「ダメです。一般人に手を出しちゃいけないんで」

 着物姿で髷を結った男が柔和な笑みでお断りすると、

「吾輩は一般人ではなく魔界最強の大魔王だ!」

 大魔王は怒り顔でそいつの顔面目掛けてパンチを繰り出す。

「危ないですよ」

 あっさり受け止められ、身動きを封じられてしまった。

「まいった。降参だ。なんという力だ。貴様何者だ?」

「力士です」

「そうか。お前が新たな魔界の大魔王になれ!」

「お断りします。日本の角界の将来を背負ってますから」

 力士だという男は、柔和な表情で丁重にお断りした。


 大魔王は魔界に帰った後、

「噂通り、日本には力士というとんでもなく強い奴がいた。今まで戦って来たどんな

勇者よりも小柄で貧相な体なのに、全く歯が立たなかった。あとたこ焼きも美味かった」

 大魔王は強張った表情で手下達にそう伝えたのだった。


            ☆


「場所前にデー〇ン閣下みたいな仮面のおじさんに絡まれたんですけど良い思い出になりました」

 2023年春場所中、あの男は新入幕インタビューで楽しそうに答えたのだった。

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