彼とわたしの田舎暮らし

カエデネコ

もっと好きになる

 彼は都会で普通の会社員をし、わたしは小さな会社の事務員をしていた。付き合って3年目の春、スタバで季節限定の桜のフラペチーノを飲んでいた時だった。


「俺さ、今度、田舎に帰って農業しようと思うんだけど、一緒に来てくれない?」


 これがプロポーズ!?驚いたけれど、脳天気なわたしは美味しい野菜が食べれるなら良いやと思い、深く考えずにオッケーした。


 それが昨年の春のことだった。今は夏。わたし達は農業一年生の夫婦だ。


「おーい!サトちゃん、もう行くけどー!?」


「待って!日焼け止めっ!日焼け止めしないとだめなのーっ!」


 軽トラのエンジンをかけて待っているコウくん。彼の方は日焼けなんて気にしていない。こんがり焼けて健康的だ。しかも前よりガタイも良くなり、筋肉もついた。来たばかりのころは、毎日『痛い、体中痛い』と、サロンパス貼って、筋肉痛と戦っていたのに……。


 後ろに日焼けガードのついた麦わら帽子をわたしはかぶる。コウくんはキャップ。ク○タと農機具メーカーの名前入り。……前はニューヨーク○ンキースだったんだけどなぁ。


「おはようございます!」


「タカイ夫婦、今日も元気だね!」


 そう営農組合の人達に言われる。農業初心者の私達は自分たちで始めるより農業の会社に入り、まず勉強することにした。


 良い人たちばかりで、親切に一つ一つ教えてくれたり、採れたての野菜やたまご、肉などをくれたりし、かなり家計も助かっている。


 夏野菜がメインの今、朝から収穫をする。その後、道の駅に出すものを袋詰めする。


 暑さと日差しと大量の汗をかきすぎて、疲れはMAX。夜は形や大きさが悪いと言ってもらった野菜を簡単に料理して終わる。


 今日のメニューは茄子とピーマンの揚げ浸し、そうめん、トマトとツナのサラダ、きゅうりの浅漬け、お肉は焼いただけ。


 調味料はシンプルにオリーブオイルや塩などでも野菜が新鮮だから十分これで美味しい。食べると甘みと香りがある。


「いつも、変わり映えしなくてごめんね」


「肉あればいいよ!美味いよ!」


「コウくんは前よりよく食べるようになったよね」


 そう?と笑う顔もカラッとした夏の日のように明るい。毎日楽しそう。


「なんか今更だけど、一緒に来てくれてありがとう」


「きゅ、きゅうに、ど、どうしたの!?」


 真顔で言われドキドキする。


「いやー、サトちゃんは都会生まれ都会育ちだから、めちゃくちゃ毎日しんどいだろうと思ってた。それなのに何も言わないしさ……」


「日焼けは気になるし、近くの大きいお店は一時間かかるけど、それ以外は、けっこう楽しんでるのよ。食べ物もすごく美味しいし、みんな良い人だし。わたし、黙っていられない性格だから、無理なら、すぐ言ってるわよ」


 ありがとうと何度も言うコウくんを微笑みながらみつめる。

  

 本当は筋肉がついて逞しくなった彼をわたしは昔よりも、かっこ良くなったと思っているし、もっともっと大好きになっているのだった。

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彼とわたしの田舎暮らし カエデネコ @nekokaede

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