第11話
放課後。俺はアルナス王女達とお茶会に来ていた。
リッチな校庭の東屋っぽい所で、優雅なティータイムだ。テーブルにはケーキや紅茶、そして傍には王女殿下お付のメイドさんが控えていた。
「ネンドウ君、今日は来てくれてありがとね〜」
アルナス王女が言う。この人は今まで会った人の中で一番ゆるい。
ルミエールさんより余裕のある感じがして貫禄がある。
こんなゆるふわな方でもバリバリ王族なので、失礼があった瞬間メイドさんに殺されるのは俺の方なのだが……俺の隣にはノインが控えていた。
俺は王族を前にしてもそこまで緊張するような人間じゃない。
どちらかと言うとノインの存在、いや『
「いえ、お誘い頂いてとても嬉しいです」
ノインの中での優先順位が『俺>王女』だった場合、アルナス王女が俺に失礼なことをした瞬間ワンチャン王国と『
俺・ノイン・アルナス王女の周囲には異様な緊張感が漂っていた。
「お昼は学園長室が爆発? しちゃって大変だったわね〜」
「そうですね〜」
どういう処理がされたのは分からないが、昼間の学園長室爆発は「問題なし」と判断された。
喧嘩でよく校舎の一部が吹っ飛んだりするから、今回もその類だと判断されたんだってさ。
魔法が使えるぶん異世界はスケールが違うね。
さて、このお茶会に誘われた面子は4人。
俺、ノイン、そしてルミエールさんとゴドリック君である。
本来ここにいるべきなのは俺とアルナス王女とルミエールさんの3人なんだけど、ノインとゴドリック君は王女の許しを得て茶会に参加していた。
俺とゴドリック君はすっかり仲良しになった。
さっきゴドリック君が突然謝罪してきて、なんのことかよく分からなかった俺が「俺達友達じゃん」と言ったら目を潤ませながら喜んでくれた。
そして偶然通りかかった可愛い女の子に同時に目を奪われて、思わず一緒に吹き出して。
それからは肩を組んでガハハと笑い合えるくらいの仲である。結局男は単純だよね。
「アルナス王女。私がこの場にいて良かったのですか」
「んもう、ゴドリック君と私の仲じゃん。ネンドウ君がオッケーなら私もいいよ〜」
「はっ、ありがたき幸せ」
こんな感じで、ゴドリック君はアルナス王女の前だと畏まるらしい。
普段は俺様キャラなのにしっかりしてるのポイント高い。
「ネンドウ君。貴方を呼び出したのは他でもないの」
「はい?」
「大したことじゃないわ。入学試験でお父様の顔を彫る面白い子がいるって噂になってたから、単純にお話を聞きたかったのよ」
「こ、国王のご尊顔を彫ったのはお前だったのか……恐れを知らぬ男だな」
ゴドリック君の「お前」呼びに殺意マシマシの顔をするノイン。この子ヤバい。
俺はノインの背中に手を回して耳打ちする。
「俺とゴドリック君は友達なんだ。くれぐれも変な気は起こさないでくれよ……?」
「……は、はい。……あの、ち、近い……です」
「ん? あぁごめん」
嫌がるような素振りを見せたので離れると、ノインは髪を耳にかき上げながらモジモジとしていた。
よく分からないノインの行動に疑問はあったが、俺の思考を遮るようにアルナス王女の声が割り込んできた。
「ねぇネンドウ君。先生方は貴方が魔力無しでミスリルを曲げたと言っていたけれど、それって本当なの? 良かったらその力を見せてくれない?」
ゴドリック君とルミエールさんとノインの顔が強ばる。
ゴドリック君は剣術の授業で俺が魔力を纏えないことに気付いているだろうし、ルミエールさんは前々から俺の力のことを知りたがっていた。
2人とも俺の超能力が気になっているのだ。
ノインは……なんだろう。力を見せびらかすなって思ってるんだろうか。
王族のお願いを断り切れるはずもなく、俺はテーブルの上にあったスプーンを手に取った。
「あんまり見せたくないんですけどね」
マジックした時のビックリ度が減るから。
「はい」
俺は恐らく銀で作られたスプーンを軽く曲げた。
「「「!!」」」
そのままルミエールさんに手渡してみると、彼女は掘り当てた財宝を取り扱うようにスプーンを掲げた。
「こっ……こここ、これは……っ!?」
「ま――曲がったっ!? ネンドウお前っ、今っ、魔法を使ったのかっ!?」
久々だなぁこの反応。
魔法じゃなくて超能力だよ。
スプーン以外曲げられないよ。
ノインは無言で目を輝かせており、ぺちぺちと可愛らしい拍手をしていた。
これくらいなら見せても良いと判断してくれたのかもしれない。
「ルミエール、貸してくれっ! うッ――ほ、本当に曲がっている……! 幻術じゃない!」
「あ〜待って、それじゃ食べれないでしょ。戻すわ」
「!?」
ゴドリック君が手に持ったスプーンを元の形に伸ばしてあげると、彼は目玉が飛び出すくらい驚いていた。
剣術だけでなく魔法すら魔力を纏わないのか、とか何とか言っている。
「お、驚いたわ。ネンドウ君、騎士団長が太鼓判を押してた通り凄い魔法使いだったのね」
「アルナス王女殿下! この魔法は凄いどころの騒ぎではありません!! 魔法学会に激震が走りますよ!!」
急に三下みたいなことを言い出すゴドリック君。
ノインはフフンと誇らしげである。彼女の中でゴドリック君の評価が上がったみたいだ。
「ネンドウさん、何故わたくし達が驚いているかお分かりですか?」
「知らん。それよりケーキ食べたいんだけど」
「いいでしょう、常識知らずの貴方にも分かるようにお話しておきましょうか。――魔力とは力の源。魔力を使わずに魔法を扱える時点で、貴方は世界の道理を変えてしまっているのですよ。……もしくはネンドウさんが魔法を支配せし精霊よりも上位の存在ということになりますか」
「ならないよ?」
俺は人間だ。
「……いいえ、なります。……その通りです」
ノイン? なに言ってんの?
「というかさ、精霊って何? 妖精となんか違うん?」
「精霊は万物の根源となる魔力や精気を司る存在のことですよ。対して妖精は、自然に宿る魔力や精気が実体化した存在……つまり形があるかないかで区別されますね」
「ふむ」
ルミエールさん詳しい。
「我々人間はその概念的存在である精霊の力を借りて魔法を使わせてもらっているのだ。魔力は精霊とのやり取りの間で消費される」
「ほう」
「ちなみにこういう普通のスプーンにも魔力はあるんだけど、ネンドウ君の魔法は一切干渉してなかったみたい」
「ふむ」
へえ、そういうことか……。
恐縮ですがもう少し噛み砕いて説明してもらうことはできますかね。
「つまりこういうことだな。俺、暁ネンドウは神に近い人間であると……!」
「それは議論が飛躍しすぎです」
「貴方は神をバカにしてらっしゃるのかしら」
「……いいえ、ネンドウくんは神に近しい存在です。……知らないのですか?」
俺は神だって言ったら、ルミエールさんとアルナス王女にクソ睨まれた。
そしてノインが俺を担ぎ上げてきた。
この状況カオスすぎる。
もうケーキ食べていい? 勝手に食べるよ?
「コラ! ネンドウお前、アルナス王女よりも先にケーキを食べるんじゃぁないっ」
「いえ、私は構いませんよ。……これは親睦を深めるためのお茶会。議論が白熱するのも楽しいけれど、もっと和やかな雰囲気でお話したかったのよね? ネンドウ君?」
「そうですよ」
俺はケーキを頬張りながら適当に頷いた。
この4人の会話は昔を思い出すな。
アレだよ。子供の俺をほっといて大人同士で会話が盛り上がってて、暇だから会話に混ざろうとするけど知識不足な上よく分からんから入れなくて結局暇でクソつまんないあの時の感じ。今の状況はまさにソレだ。
「ねぇ、ネンドウさん」
「ん?」
「……貴方はわたくし達にまだ何か隠していますね……?」
バレましたか。ルミエールさん、驚かないでくださいよ?
実は俺……これ以上のことは全然できないんですよ。
「待てルミエール。我々は来週に武闘大会を控えているではないか。ネンドウはそれまで実力を隠しておくつもりなのだろう……これ以上深く聞いてやるな」
武闘大会は出るつもりないよ。
「ですが――」
「ルミエール。お前は自分の持ちうる全ての力を公開しろと言われて、はいそうですかと首を振れるのか? しかも近々戦うであろう相手に?」
「う、それは……」
いやいやいや、戦わない戦わない。
俺戦闘能力ないよ? ルミエールさんもゴドリック君も知ってるでしょ?
あれ、おっかしいな。ゴドリック君、ちょっと前俺のことを雑魚だと理解しつつも基礎練習に付き合ってくれたよね?
もしかして二重人格?
「そうだろう。むしろ感謝した方がいい。ネンドウは武闘大会を前にして、わざわざ手の内を見せてくれたのだ。魔法の一部を知れただけ有難く思うんだな」
ちょっとやめてよ。
全部の力を公開した俺がバカみたいじゃないか。
「まぁまぁ、みんなケーキ食べながら雑談しようよ」
「フッ、まぁそうだな。……そういえば皆、聞いたか? 近々学園都市にスイーツパフェの店ができるらしい。今度一緒に行ってみないか? 俺様の奢りで」
ゴドリック君女子力高くない?
その後は終始和やかな会話が続き、ノインを除いてお茶会に相応しい雰囲気が戻ってきた。
「やっぱり皆さんは武闘大会に出るのよね〜」
「良い成績を残せばそれだけリターンがありますからね」
「ルミエールは出るのよね?」
「もちろんです。ゴドリックさんは……」
「言わせるな」
「ですよね。貴女も出場されるのですか?」
「……ええ、まぁ。……やれることは少ないと思いますが、目的がありますので」
「じゃあ、ネンドウさんもですか……」
「フッ、そのようだ。1回戦で俺様と当たったりしてな」
しかし、何故か俺の武闘大会出場は決定事項のように扱われていた。
こうして長い長い一日が終わり、その夜。
俺の寮室に来訪者がひとり現れた。
「……来ると思っていたよ、アインス」
「お迎えに上がりましたネンドウ様。 『
「あぁ……アレか……」
「はい」
思ってもないことを嘯きながら、俺は彼女の話に頷くだけの赤べこへと変身した。
「アーティファクト、解析が完了しました」
あぁ、その件ね……。
随分と早いんだな、なんて思いながら俺は言葉を返す。
その会話の先に、途方もない衝撃が待っていることも知らずに。
「お疲れ様。誰が犯人か分かったかな?」
「ええ。犯人は恐らくルミエール・ハーフストーンです」
「……え?」
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