僕たち、デビューします!
香居
ベテラン司会者が務める、月に2度の歌番組。
長寿番組に名を連ねるこの番組は、もうすぐ半世紀を迎える。時代の流れと共に生きてきたこの番組は、世代を超えジャンルを超え、人々に愛され続けている。
名曲コーナーと新曲コーナーの間に設けられた、新人紹介。これもまた、人々が楽しみにしているコーナーだ。
「まず一組目。ご紹介するのは、こちらのおふたりです!」
女性アシスタントが手で示すと、女性と司会者との間に座っている少年たちにカメラがフォーカスした。
「皆さんこんばんは!」
「僕たち『クッキング・シンキング』です!」
「「よろしくお願いします!」」
カメラに向かってぺこりと頭を下げた後、客席に向かってにこにこする少年たち。その愛らしさに、客席から歓声が上がった。
「ようこそ。今夜は楽しんでってね」
司会者が温かく迎え入れる。
「「ありがとうございます!」」
「君ら双子?」
「はい」
「似てるんだけど、よく見ると違うんだよなぁ」
「そうなんです。だから判別はしやすいみたいですよ」
「たしかにね」
司会者が相づちを打ったところで、女性がふたりの紹介を始める。
「青い衣装の方がお兄さんのシンさんで、赤い衣装の方が弟さんのクツさんです」
「グループ名は、ふたりの名前から来てるの?」
「はい」
「『クッキング』って聞くと、料理? ってなるけど」
「社長がつけてくれました。僕たち、本名が伸筋と屈筋なんですけど、それを語呂が良い感じに変えたらしいです」
「たしかにグループ名のほうが軽やかだね。本名も真面目な感じがして良いけど、やっぱり君らの見た目からしたら、グループ名のほうが合ってる気はするね」
「ありがとうございます。あと、クツは料理が得意なんです」
「あ、じゃあ『クッキング』のイメージは合ってるんだ」
「社長は『ちょっと意外性を持たせたほうが、印象に残るんだよ』って言ってました」
「うんうん。君らダンスしながら歌うでしょ。そこに料理は関係ないから『あれ?』って思うもんね」
「社長もそう言ってました。『あれ? が興味の始まりだよ』って」
「『まずは興味を持ってもらえるのが大事だからね』とも言ってました」
「なるほどね。さすが上腕くんは言うことが違うなぁ」
「上腕さんのデビューも、この番組でしたよね」
女性からのパスに、司会者は「そう」と頷く。
「新人なんだけど、なんかこう圧倒されるようなオーラがあったね」
「私、その当時幼稚園生だったんですけど、なんてカッコいいお兄さんなんだろうって、テレビの前で思ってました」
「あっという間に大スターになったもんなぁ。40年くらい前の話だけど、伝説の人だもんな」
「そうですよね。今でも現役復帰を望んでる声が多いですから」
司会者と女性の会話を、ふたりは頷きながら聞いている。
「そういえば、前回、新曲コーナーに出てくれた『腹筋
話を振られたふたりは「「はい」」とシンクロで答えた。
「同じ事務所の先輩たちっていうこともあるんですけど、仲良くさせてもらってます」
「一番上の腹直兄さんが、僕たちのちょうど10コ上になるんですけど、会うたびに肩車してくれます」
「『筋トレついでだ』とか言いながら」
「腹直くんらしいなぁ」
「腹横兄さんとか、半分呆れながら笑って見てます」
「まぁでも、『腹筋』の4人は皆良い体してるもんな。日頃からそうやって鍛えてるんだな」
「兄さんたちの楽屋にお邪魔すると、筋トレの道具が必ず置いてあります」
「あぁ、前回も言ってたなぁ。『シックスパックが僕らの生命線なんで』とか」
「その回、ふたりで見てました。兄さんたち、やっぱりストイックだなぁって」
「君らは筋トレする?」
「ダンスとか歌とかに必要な分はしますけど、僕たちはストレッチの時間のほうが長いですね」
「ほお」
「良い感じに体をほぐしておくと、ダンスがもっと楽しくなるんで」
「バク転とか、キマるよね」
「ねっ」
ふたりは顔を見合わせ、にっこりと笑う。
客席が盛り上がり、カメラが女性にフォーカスしたところで曲紹介となった。
「さぁ、それでは皆さんお待ちかね、おふたりに歌っていただきましょう。曲は──」
この日、新たなアイドルが誕生した。
僕たち、デビューします! 香居 @k-cuento
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