第23話  裏路地の一日

 王は、威厳を持って主張を変えてくることは無かったし、アレインももう言い返す気力も無くなってしまった。


 あれは王の娘だと、王がはっきりと認めている。

 そんな娘に手を出せば、不敬罪で、処刑されかねくなってしまう。


 アレインは、背中を丸めて裏路地の家へ戻って来た。


「お帰りなさい、父さん」


 声がいつもより幾分低く聞こえたが、この落ち着きのある喋り方はロウィーナの方だ。

 アレインは安心した。


「お前は、いつまでここに居られるんだ!?」


 アレインが言うと、彼女は大層驚いて目を丸くしていった。


「私は何処にも行かないわ。ここで占いをやって父さんと暮らすの」


「本当か?」


「はい、だゕら、父さんもお酒に逃げないでね?」


「約束するぞ!!」


 2人は肩を抱き合って泣いた。


「じゃあ、私はお客様を待たせているから、夕食は出来てるわ。」


「ロウィーナ!!」


 彼女は、ピクンとして立ち止まった。

 そして、ゆっくりとアレインの方を振り返る。


「なんでしょう?」


 この口調は、間違えなくロウィーナのものだった。


「ロジーナの奴は何処だ!?」


「知りません!!王家に多大な迷惑をかけたので叱ったら、プイッと出て行きました。数日したら戻るでしょう。いつものことです」


「そ、そうなのか?」


「はい」


 ロウィーナが、あまり自然な事のように言うので、アレインはロウィーナの言う事を信じてしまった。

 あながち嘘ではない。

 ロジーナの外泊は、日常茶飯事であった。


 ロウィーナは、仕事部屋に戻って大きな溜息をついた。


《本当にやっていける!?》


 ロウィーナが座った机には、曇った水晶が置かれていた。

 おばあ様が愛用していたという水晶。


 ロウィーナは、覗き込ん視た。

 途端に、曇りが晴れてみたことも無い景色が映った。

 全てが銀色に輝く森。

 噂に聞く、東方の神殿のある場所なのだろう……

 ロウィーナは、そう理解した。


 簡単な、探し物をしてくれと、2人の客が来ていたので、それに対応し客が帰る頃には、夜も更けていた。


 アレインは、酒を出して睨めっこをしている。


「料理酒と睨めっこしないでくれます!?今度、アル中になったら細工職人の仕事も出来なくなるのをお忘れなく」


「辛らつだな、セレアンに似てハッキリ言う娘だぜ」


「そんなに、飲みたいのでしたら、稼いでくださいな。そのお金で、料理酒ではなく、高いお酒をかったらどうです?」


「!!そうか!!ロウィーナ!!お前は頭が良いな」


 ロウィーナは、かつて言われたことを言ってみただけであった。

 そんなに、気が付かないことなのか?


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