第20話  ロジーナの水晶

「はい、これ。王子から届いたわ」


 ロジーナの前に少しくたびれた水晶が置かれた。

 ロウィーナが持ってきたものだ。


「なに?これ?」


 明らかに年期の入った水晶である。


「これなら、未来が視えたそうね?」


「うん。姉さんと父さんが仲良さそうに二人で暮らしてたわ。あのときは、意味が分からなかったけど、姉さんと父さんは、他人てことよね。なら、アリだわ」


 ロウィーナは、頭が痛くなってきた。

 何がアリなのか!?


「これは、おばあさまの水晶らしいわ。

 古い物好きのお城の侍従が、宮廷占術師だった頃のおばあさまの部屋から持ち出したらしいの。後で、大金を払ったそうだけど」


「おばあちゃんの水晶だから、あたしにも視えたのね!?」


 グッと堪えるロウィーナである。

 ロジーナの視えた未来は違っている。

 絶対に有り得ない未来なのだから。


「この水晶の何処の部分で視えたの?」

「この下の曇の少ないところよ。」


 ロジーナは、指を指す。

 やっぱり・・・

 とロウィーナは、溜め息をついた。


「この水晶は、曇ったところに浮かび上がった事が真実なのよ。あなたの視たものは、不確かなものよ。この水晶は、王子がつれ回して悪かったと言う謝罪の意味で持って来てくれたの」


「ユージィン王子が!?」


「まさか」


 シュンと項垂れるロジーナだった。

 この子は、これで本気だったのかしら?と思ったが、直ぐにロジーナは、頭を上げて言った。


「せっかく、綺麗なドレスを着て生活できるチャンスだと思ってたのに~」


 妹のこの発言に、ロウィーナはキレた。

 内緒で出発するつもりであったが、堪忍袋の緒が切れた。


「ロジーナ、良く聞いて」


「なに?姉さん」


「私は、東方の神殿に行く事になったの。あなたと父さんは、連れていけないわ。神殿のお仕事をすることになるのだし、あなた達の世話は出来ないわ」


「待って!!!姉さん!!じゃあ、ここの家賃は?誰がご飯作るの?お金は?」


「父さんがいるじゃない。腕の良い細工職人よ。ちゃんと仕事をさせればそれなりの生活は、出来るわ。こんな裏路地じゃなくて、表通りに家も買えるわ」


「姉さんが見張ってないと、サボるよ。あたしの言うことなんか聞いたことがないんだから!!」


 ロウィーナは、ロジーナの泣き落としに動じること無く言った。


「あなただって、働きなさい。ソコソコ才能はあるのだから。お小遣い位は稼げるはずよ。それでドレスを買うという発想はないの?」


 ロジーナは、初めて気が付いたような顔をした。

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