第9話  義父、アレイン

 王は、ロウィーナに砂漠での二人を占わせ、無事にカットラー・オアシスに到着したと知ると安心して帰っていった。

 どうしても、砂漠での行方が分からなくなって、心配してロウィーナに助けを求めたのだ。

 ロウィーナの居所などは、ずいぶん前から知っていたらしい。

 それは、ロウィーナにとっても同じことだった。王都にいる限り、王はいつか会いに来るだろうと思っていた。


 王家に迎え入れるために……


 最早、王に意見出来る者などいなかった。

 王妃が亡くなって、五年以上たっていた。

 そういえばと、ロウィーナは思った。

 帰り際に変なことを言っていた。


「そなたは、もう余の手の届かぬ所に行くのか」


 と、ため息混じりに言っていた。

 興味がなかったので聞き流していたが、何の事だろう?


 父王が帰ってから、その事が気になったが、それよりも今は妹のロジーナの確保が先である。

 王子と伴って、オアシスに行くなど自由にさせ過ぎたと反省した。


「誰か、来ていたのか?」


 その声に我に返った。

 聞き覚えのある声だったが、今ここで聞いてはならない声だ。


「父さん!?治療院はどうしたの?」


「んなもの、退院だよ。退院だ。これからは、俺が働くからな、こんな辛気臭い裏路地なんか住んでないで、もとのレジーばあさんの屋敷に戻ろうぜ」


「あの家は、売ったわよ。それより今は、ロジーナが家出中なの。ロジーナは、私が探すから、父さんは職探しをしてよ。お金はありませんからね。お金になりそうな物もありません!!お酒を飲んだら、治療院に逆戻りよ」


 金髪の美丈夫の義父のアレインは、良く口の回る義い子にあんぐりした。

 もともと手先の器用だったアレインは、小さな工房で働く職人だった。

 たまたま、市街地で見つけた女が、身重なのに馬車の前に身を乗り出そうとしていたのだ。

 思わず助けてしまったが、その女は、20年前に結婚のために宮廷を辞した占術師の娘であった。


「年々、セレアンに似てくるな」


「娘ですもの」


 ロウィーナは、急いで身支度をすると、アレインにしばらく留守にすることを伝えて出ていった。

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