マッスル ドント ベトレイ
大黒天半太
それは私自身への挑戦なのか?
馬鹿な男と、自分でも思う。
王国軍の徴兵によって、先の魔王軍との戦争に、下級兵士として参加してから、すっかり農夫としての自分を見失ってしまった。
広大な平野に布陣した魔王軍の兵士と戦うに際して、こちらも、誰かが丹精込めて育てたであろう広大な耕作地を、踏み荒らさざるを得なかったのだ。
これだけの麦が、野菜が、果物があれば、何人の人間が食い繋げたのか。何羽の、何頭の家畜が、食べられる大きさに育っていただろう。
もしそれを売っていれば、我が家だったら、どのくらい潤ったのか。
我が家のわずかな畑と、毎年雇われて農作業をする村長の畑、合わせたより何倍も広い農地が、半日の
私にあるのは、軍から配布された、お仕着せのお粗末な槍と剣と盾だけ。後は、自らの肉体だけだった。
筋肉は、鍛えれば鍛えただけ、応えてれる。
子供の頃からの、貧しい食生活も、農作業の重労働も、戦場を生き抜くための、筋肉と精神力に変わった。
突く、薙ぐ、払う、奮う、止める。
筋肉が、武器が求める動きを憶えれば、より良く使える。より速く、より正確に。
最初は生き延びるために、途中からは自らの筋肉に乞われ、身体を鍛え、武器・防具の扱いの習熟に努めた。
気がつくと、故郷には3年も帰らず、槍も剣も盾も、より立派なものに代わり、
好き勝手に生きて来た兄(私のことだ)に代わって、父母や祖父母の面倒を見、畑を耕し、自らの一家を支える弟夫婦。弟は幼なじみと結婚して家庭を持っていた。弟の妻も、小さい頃からよく知っている。
たまに帰って来て、飯だけ喰うような兄にも、ちゃんと家族の扱いをして迎えてくれる。甥や姪も、伯父を認識してくれるようになった。
わざわざ毎回農繁期に帰って来て、農作業手伝うなんて、兵士の休みにならないだろう。と、弟は言うが、それを弟に丸投げして放り出してしまった兄としては、せめて忙しい時くらい手伝いたい。
私の筋肉が、農作業を忘れないように。
槍や剣ではない、鍬を持つ筋肉のために。
マッスル ドント ベトレイ 大黒天半太 @count_otacken
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