カラカル、ジョーズ、高樹さん
川谷パルテノン
ウルルン滞在記
高樹さんはカラカルと出会った。都内某所で。本能的に喰われると悟った高樹さんに出来ることは威圧。それ一択である。カラカルは意外と優しい目つきで高樹さんのほうを見ていた。高樹さんがいけるかもと思った次の瞬間、カラカルに自動車が一台突っ込んだ。不意を突かれたカラカルはそのまま血を流して倒れていた。そんな、と高樹さんは思った。一度失われたものはもう二度と戻らないというのが世の摂理であった。高樹さんは初対面のカラカルの死を哀しく思った。食うか食われるか、そんな丸大ジバンソーセージのキャッチコピーみたいな関係性だった相手のカラカルに対して今や悲しみ以上の感情がない。自動車から降りてきた運転手はサメだった。どういうわけだかサメだったのだ。サメ人間ではない。サメだ。興醒めだった。カラカルへの悲しみはサメの登場で仰天へと変わった。サメは言った。サメなのに言った。やっちまったや、と。高樹さんはサメに近づいて怒鳴った。カラカルを返せ、と。特にカラカルは高樹さんの何かでもない初対面のカラカルだったが一度ジバンソーセージ界に到達した両者であったからカラカルへの哀悼こそが高樹さんの使命感であり、その怒りもまた自然の流れだと言えた。サメは高樹さんを一瞥すると「あんた飼主?」と問うた。高樹さんは返せと同じテンションで違うと口にした。じゃあ関係ないよねとサメは言った。あとは警察とこっちでやるからと。高樹さんには腑に落ちない点があったもののサメの言うことは確かに真っ当な話だった。カラカルにとっての何者でもない自分は無力で弱く、ゆえにカラカルを救えなかった。サメと自分ではカラカルの命の重さが違えど傍目から見れば同じである。サメ同様、高樹さんもまたカラカルの他人だ。他者はいずれの道を辿ろうとも究極他者であるという根源があり、理解などという言葉は幻想である。しかし高樹さんは感じていた。だからといって寄り添ってはいけないのか、と。高樹さんは勇気を出してサメに言った。
「この子の目は優しかったのよ」
先程まで雨など降っていなかったものの虹がかかる。それはとても不思議なことだった。サメは諦めたかのように言った。
「悪かったな」
冬終わりて春来る。なんとなく悲しげな空気が漂ってコーヒー一杯くらいご馳走したい気分がした。
カラカル、ジョーズ、高樹さん 川谷パルテノン @pefnk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます