14 機嫌が悪い
朝食はライスとミソスープ、温泉卵と鮭、干物の焼いたのと野菜の煮物各種、海苔と各種漬物あと果物各種だった。魔境の主食は米で果物がふんだんに実るし、三方を海に囲まれているとかで魚介類も豊富なのだと聞いた。
ヴァンサン殿下の前に座って、たくさんの変わった料理と格闘する。殿下は箸という二本の棒を持って手際よく食べている。面白そうだし、その内練習したい。
「僕の田舎はお芋が沢山取れるんだ。時々主食の代わりになるんだよ」
「そう言えば田舎に帰ると言っていたな」
「うん、兄ちゃんの結婚式があるんだ。お土産買って帰らないと」
「いつだ」
「一週間後だ」
「フム、私も行ってやろう」
「来なくていいよ、王子様が来たらみんながびっくりして混乱する」
「この際、挨拶をしておこう。ちょっと聞きたいこともあるしな」
「何を聞くの?」
「行ってからでいいだろう。馬車を用意するから勝手に出発するな」
「ニコラとジュールも一緒だよ」
「分かった」
何となく機嫌が悪いような冷たいような気がする。
帰りは転移の魔法で昼前に寮に帰った。ヴァンサン殿下は王宮に行くと言って馬車で行ってしまった。
何か色々疲れたので今日も早く寝ることにしよう、そうしよう。
* * *
学院が夏季休暇に入ると何度かダンジョンに潜ってお金を稼いだ。
ヴァンサン殿下が馬車を出してくださるそうなので、かなり倹約出来て、その分王都のお土産をたくさん買った。
クレマンさんが出発の時間を知らせてきて、翌日迎えが来て馬車に乗る。王都から僕の田舎まで片道三日の旅は馬車が快適で文句なしだ。宿もいい宿を取ってくれて、文句なしだが僕と殿下が同じ部屋なのはどうなんだろう。
「僕はニコラとジュールと一緒の部屋でいいよ」と、言ったらニコラが慌てて、
「いや、エリクは殿下と同じ部屋で、二人同士でちょうどいいから」と逃げる。
殿下が時々不機嫌になるから怖いんだけど。何で怒るのか分からないし。
お宿は高級で部屋も最上級だし、まあ相手はこの国の王子だし仕方ないのかな。
お忍びの旅の筈だけど。
「エリク」
「何?」
「どうしたんだ、ずっと機嫌が悪いが何が気に入らない」
「え、嘘。殿下の方が機嫌が悪いじゃないですか」
殿下は溜め息を吐いた。
「鏡を見てみろ」
指さされて見た装飾された楕円形の大きな鏡には、眉間に縦じわをした僕が映っていた。何て顔をしているんだ、僕は。
「私も似たような顔だな。人のことは言えない」
ヴァンサン殿下が隣に立つ。
鏡の横に立っている燭台の明かりに浮き上がる端正な顔は鏡の中の僕を見ている。
「エリク、とても大事な話がある。だがまだ言えない。君に言えないのは苦しい」
「僕が拾われっ子の事ですか?」
「知っているのか?」
殿下が呆れた顔をする。いつかは言わなきゃいけない事だった。この旅で分かってしまうと思って少し恐ろしかった。僕はどこの誰とも知れない人の子供なんだ。
「何となく、森の中の水場で拾ったって聞いた」
僕の髪の毛は淡い水色で、親戚にも親兄弟にもそんな髪の人はいない。そして、噂話とか人の話とか子供の話とかそういうので何となく分かっちゃうんだ。
「そうか、知っているのなら半分は肩の荷が下りたな」
半分……。まだ何かあるのだろうか。
「僕もう親が何者でも驚かないな」
目の前に親が魔王の人がいるからな。
この人はそれを知った時どう思ったんだろう。王家の子供が魔王の子だとかショックだよな。出来が良ければ余計に。
でも、母親と仲良さそうにしていたし、優しい人なのか。手の中のものが何もかも無くなるって、築いてきたものが根底から崩れ去るって、どんな気持ちだろう。
「何もかも失ったわけではないんだ、私は」
僕の表情で察したのか殿下は話し始める。
「父上も母上も誰も失ったわけじゃない。ただ世界が変わっただけだ。立っていられなかった、自分が信じられなくて逃げ出したかった、卑怯で臆病だった」
ヴァンサン殿下は鏡の中ではなく、横にいる僕の方に向き直った。
「母上が来て魔境に何度か行っている内に、自分の膨大な力はあちらの方に使うべきじゃないかと思うようになったのだ。こちらでは異端だしな、皆に恐れられ、こんな力は必要とされない。かえって世界が乱れる」
昔、魔王は世界を混沌に陥れ、滅ぼすものとされた。今はそんな事は誰も思っていない。魔王は混沌とした人種のるつぼである魔境を統べる者。
この世界には他にも様々な種族が共存しているのだ。この前見た魔族の広間はまさに人種のるつぼだった。
「君の事はまだよく分からないんだ。何が出て来るか。まあ私もちょっと怖い」
殿下が怖いとか、僕も怖くなる。
「でも君は私を受け入れてくれただろう?」
「うん」
「だから私も君が何者でも受け入れよう、ただ」
「なあに?」
「我慢をするのが少し、いや大分辛い」
「僕、別の部屋で寝ようか? ここ続き部屋があるし」
「いや、その方が辛いと思う」
鏡の向こうで殿下が辛い顔をする。僕の背後から手を回してお腹の辺りで手を組む。そして耳に唇を寄せ低い声で囁く。
「君も私も若いのだし、その、少し愛してもいいか?」
うーん。
僕はこの人の事がかなり好きだ。流されてもいいと思うくらいには。
我慢をしていたのか。させていたのか。
「僕はヴァンサン殿下が好きだから、殿下のお心のままに」
「ダメだよエリク。そんな事を言ってはダメだ」
そう言って殿下は僕の首筋やら顎やらにキスをくれる。くすぐったくて殿下に向き直ったら、僕を抱きしめて唇にキスをしてくる。キスが深くなって舌が絡んで、ああ、貪られる様なキス。僕も応えたいけれどそんな余裕がない。
ベッドに連れ込まれて二人で倒れ込む。ころころと子犬のようにじゃれあいながら首筋やら胸元にもキスをする。
そのあとはお互いのものに指を絡めて煽り合いをする。追い上げられて先にイッてしまった。僕のイク顔を見て嬉しそう。口惜しいからお返しにイッてもらおう。
殿下のモノをトラウザーから取り出すと、それはもう立派なモノだった。
ええと、男同士の性交は後ろの穴を利用するんだよな。こんな立派なモノが後ろに入るのか?
少し怯んでしまう。
「エリク、無理をしなくていい」
くそう。そう言われると、かえって頑張りたくなるじゃないか。
両手で屹立したモノを持って、パクリと口に咥える。下手糞なのは我慢して欲しい。自分の気持ちのいい所は相手もいい筈だ、きっと。
先っちょの精液の出る所を舐めて、傘のとこを舐めて、裏の筋も舐めて、口に咥えて傘の所で動かして、舌も使って手も使って頑張る。さあイクのだ。
殿下はあっさりイッてくれた。僕は吐き出されたモノを飲んでしまった。
味は言わないでおこう。でも、何となく嬉しくなったんだけど、それで終わった訳では無かった。
今度は殿下に抱きしめられて沢山キスをされた。キスをする度に服が脱がされて行く。全部脱がされて身体中にキスをされて、殿下も僕のモノを口に咥えて追い上げられた。
「んんっ……、やっ、もうイクッ……」
あああ、殿下の口の中に出してしまった。あああ、飲ませてしまった。
うわあ、どうしよう、もう死ねる。
「可愛い、エリク」
殿下はぐったりした僕を腕の中に抱き込んだ。
「お休み」
ポンポンと頭を撫でられて夢の中に落ちて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます