第21話 発作をなだめるやり方


 感情を棚上げして、作り笑いをすることはできた。平静を装えた。

 けれどそれは、本当にギリギリの薄皮一枚の仮面で。私は時々叫ぶような喉が潰れたような悲鳴のような泣き声が出るときがあった。

 ドラマで見るような「うっ…うぅ」なんて可愛らしい声は少なくとも私には出なかった。もしくは声もなく、ただボロボロと涙が出た。

 発作だった。唐突に、日常のふとした瞬間に、それが出た。

 働いている最中はとにかく仕事に集中してやり過ごした。それでも過呼吸のようになり、幾つかの呼吸法を試し、心をなだめるやり方を作った。

 筋トレと瞑想、あと呼吸法。これが私の心を守る為に、ずいぶんと効果的に機能してくれた。

 今回はこの瞑想、そして呼吸法について書こうと思う。



 瞑想には深呼吸、というより深い呼吸をする方が良い。

 この辺りは専門的な動画がいっぱいあったから、そこを参考にした…の、だが。

 呼吸が浅い、うまく息ができない(そんなことある? ってお思いでしょうが、意識してみるとだいたい私の呼吸は浅く早かったりした、特に発作時なんかは当たり前に)という、瞑想以前に呼吸に集中できないという問題にぶち当たった。

 今は便利な時代で、もちろん呼吸法も幾つも調べることができた。

 その中で、私にもっともあっていたのは、ボックス呼吸法。有名なやつではあるけれど、この呼吸法には本当に助けられている。

 イメージとしては、正方形を時計回りに矢印→が進んでいく感じ。

 正方形の一辺が五秒感覚で、口呼吸でまずは五秒息を吐いて、五秒息を止めて、五秒息を吸い、また五秒息を止める。これを正方形ぐるぐると続ける。

 最初は目を瞑りイメージしながら。テンポが早くなってしまわないように。

 五秒はひとによっては長いかも。私も息を吸うのが苦しい時がある。

 リラックスしている時にはちょうど良いんだけど、呼吸が浅い時はとても苦しい。そしてその苦しさで、自分が今緊張状態にあることを自覚する。

 瞑想は精神を安定させるにはとても良いんだけど、実は瞑想していられないほど切羽詰まっている時もある。

 朝の瞑想でソワソワしてしまうような日は、通勤の車の中でもこの呼吸法をやったりした。あ、運転中はもちろん目を瞑らない。 

 発作時にも有効で、突然涙が出そうになってしまった時には使うようにしていた。



 正直あまりに苦しく、唐突に襲ってくる発作に、何時までこんな状態なんだろう、こんな事がずっと続くんだろうかと、地獄にいるみたいだと思っていた。

 結論として、私の苦しみや痛みを癒すものは、時間しかなかった。

 残酷な真実だけれど、ただただ時が過ぎ去るのを、宥めながら誤魔化しながら待つしかない。

 辛抱強く機会を待てば、気持ちが浮上してくることもある。それを逃さないようにすること。

 時間薬が効いてくるはず、と毎日を積み重ねる。けっきょく、生きていくということは、そんなことの繰り返しなんだと思う。

 その中にも、ご飯が美味しかったり、子供の笑顔を見れたり、綺麗な花が咲いたり、雨の臭いを嗅いだり、温かなココアを飲んだり。幸せがあった。幸運にも。

 生きていく。

 夫のいないこの世界で。

 深く息をしながら。

 苦しみと幸せを噛み締めながら。









 








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