第12話 この国におけるひとり親への手厚さ



 この日本という国は、ある意味で母親に優しく、ある意味においてひどく手厳しい。

 母性神話というのは、幻想である。と、少なくとも私は考えている。

 けれど、かつて子供だった私達はこの幻惑を振り切ることがなかなかできない。なんなら、私の中にはまだ『お母さん』がいて、それが私を「どうして貴女も母親なのにちゃんとしないの」と叱りつけてくる。

 お母さん、という幻想は、自分の中に、周囲の環境に、この国の文化に確実にあると思っている。

 それが故に、母親というラベルは優しくしてもらえ、かつ厳しい目を向けられがちなのだと思う。



 夫が亡くなった時、葬儀社の女性スタッフから「この国は母子に優しいからきっと大丈夫よ」と言われた。そしてそれは本当だった。

 シングルマザーへの支援はわりと手厚いと思う。私もひとり親家庭等医療費助成金の制度にはずいぶんと助けられた。

 自分がシングルマザーになったと自覚した時、最初に感じた不安はやはりお金のことで、自分が働けなくなったらどうしよう? ということだった。

 諸々の事情で実家を頼らないと決めていたけれど、子供が頼れるのは私ひとりだけだった。私の事故や病気が致命的になると分かっていた。

 早い段階でひとり親への支援は調べあげていて、私はすぐにでも医療費助成の申請をした。

 だっていつどうなるかなんて分からない。備えなければ、と考えた。

 ちなみに保険はかけていない。保険会社に月々払うお金を堅実に貯めておけば良いだけのはなしだから。そして知識をつけて、いかに出費を押さえるか、の方が重要だと考えていたから。

 仕事の方もわりと早い段階で週五日の勤務に契約を変更できたので、遺族年金とあわせれば、暮らしていく目処はたった。

 ちなみに、お恥ずかしい話だが、この時の私は非課税世帯だった。

 まぁ、夫の扶養に入っていて、その範囲内でのパート契約収入だったから、そりゃ当然そうなることではあるのだけれど。これがものすごく肩身が狭い気がした。

 どうしようもないことで、当然こうなる事態で、実際にお金には困るわけで有り難かったし、頭では今まで善良にこの国の民として生きて尽くしてきたので権利があると分かっている。

 のに、すごく申し訳ない気持ちになった。あぁ、生活保護申請しない人の気持ちがとても分かる………。

 なんていうのか、情けないというか、恥ずかしいというか、惨めが一番近いのか、ともかくそんな気持ちが湧いてきて、うぅ………と勝手に凹んでいた。

 ただ、なんのかんので最終的に開きなおるまでがセットという、ガッカリする図太さも持っているので。

 しかも、その状態から抜け出すには最低二年は費やした方が良いとの見通しまでついてしまう、ちゃっかりさもあったので大丈夫。

 一応、言い訳をグダグダすれば。共働きをできる環境ではなく、それなりに介護や子育てを頑張ってきたんです、専業主婦してた時もありましたけど、働けるようになったら、扶養内とはいえ働いてたし………。

 はい、言い訳です。やっぱり、手に職はつけておくべきだったかー、と痛感した。けれど、ここから立て直していくっきゃない。

 腹をくくって色々奔走してみたら、生活がそれなりに回っていくようになった。これは正直な話だが、運も良かった気がする。

 この国のセーフティネットに引っかかったことは、私と子供にとって有り難いこと。この国ってなんのかんので良い国だなぁ、私も早くちゃんとしないとなぁ、と感謝した日々だった。 









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