第10話 積み重ねる日々


 私は一刻も早く、子供との生活を安定させようと必死だった。

 ただそのなかで、心が折れてしまわないように唱えていたことがあった。

 とりあえずは一ヶ月。無事に生き延びよう。それができたらもう一ヶ月。とにかく、生き延びよう。

 日々を積み重ねて、積み重ねて。そうしているうちに、きっとなんとかなる。なんとかできる、と。自分に言い聞かせた。

 私が恐れたのは心が折れること。無気力になること。鬱になってしまうこと。

 冷蔵庫の側面に戒めを書いて貼り付けた。


『やってはいけない7つのこと!

 ①旅行へ行く☆遠出はしない

 ②資格の勉強をする☆ムリしない

 ③大きな買い物☆判断力がないのにしない

 ④夜更かし☆ちゃんと寝よう

 ⑤仕事を辞める☆とりあえず行け

 ⑥引っ越し☆環境を変えない

 ⑦安易な健康療法☆正しい生活を正しくする』


 これは以前、鬱から抜け出す時に教えてもらった七ヶ条だった。

 さらに。


『やるべき3つのこと

 ▪頑張らない。

 ▪判断は棚上げしろ。今は決めない。

 ▪自分を甘やかす。』


 これも見えるところに貼ってあった。

 矛盾しているようだけど、この二つは私の心には良い方向に作用していたように思う。

 少なくとも半年、夏を過ぎるまでは、この二つを守ることとして、なるべく目に入れるようにした。

 それと、どんなに小さなことでも良いので、月々進展できたことをノートに書いた。あと、次の月にやるべきこと、やりたいこと、を書き留めるようにした。

 ノートの表には『人生建て直し計画!! いじでも頑張る!!!!』とでかでか書いた。

 とにかく、日々を生き延びる為の工夫をしながら生きていた。

 余裕なんかなかった。それでも、小さなことを積み重ねて、私と子供は生活した。

 梅シロップを作れた、とか、どうでもいいことから。夫の通帳を全部把握した、とか、大切なことまで。

 細々と進んだこと、上手くできなくて次の月に持ち越しになったことなんかと共に、私達はその時を生きた。

 とにかく生きる。生き延びる。積み重ねる。

 せめて子供が18歳になるまで。できれば20歳まで。耐えよう。

 辛く苦しく、この世界が地獄のように思えても。そこまでは生きて。

 で、そこで「もう無理」と思ったなら死のう。と、決めた。

 決めた以上は、死ぬ気で耐えようと言い聞かせた。

 そこまで頑張れたら、人間として、生き物として、もう良いじゃない、と思った。私は人生の指針の柱を子供にした。

 なんとなく、それが一番私らしく、そして納得できる生き方のような気がしたから。

 子供が健やかに大人になれたなら、頑張った甲斐がある気がした。報われるような気がしていた。

 し、確かに今も、あの子が笑っていると安心する。

 積み重ねる日々に、少しづつ笑顔が増えていってくれたら、というのがあの頃の精一杯の希望だった。











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