第9話 相続とか名義変更とかお金とか



 我が家はどちらかと言うと貧乏だ。貧困ではないけれど、お金がものすごくあるわけでもない。

 前に書き綴っていた着物エッセイを読めば、だいたいの暮らしぶりが分かると思う。(お金がないのに着物? いやいや、リサイクル着物ならけっこう楽しめるんですよ!)

 じつは夫は二度転職しており、給料は平均年収を下回っていたことも。

 私はというと。介護職についていたのだけれど、変則勤務夜勤ありの仕事だったので、出産して離職。

 その後、子供に少々アヤシイ気配を感じていたら発達障害が判明。同時期に姑さんが脳卒中で倒れて介護がスタート。この時期が正直、とてもシンドかった。とにかくお姑さんと子供の為に出来る限り動いていた。

 ただ金銭面ではそう不安がない時期でもあった。

 というのも、お姑さんとお舅さんは共働きで、二人それぞれ年金をそれなりにもらっていて、一人息子である夫を大切にしてくれていたから。でもって嫁の私を可愛がってくれていたから。

 夫の実家はもちろん持ち家。後々は夫が相続することになっていた。

 ただ諸々の事情(これ、じつは私、妻側の理由)で、別に家を購入した為に別居だった。

 葬儀の時、夫の親戚一同に購入した家が、私(妻)名義であると知られて驚かれるやら誉められるやら。

 そう、現在暮らしている家は、なにを隠そう私名義の妻資産。ちゃんと婚前に溜め込んでいた私のお金で購入した物件だった。周囲には言っていなかったけど。

 私はもともと物欲がどちらかといえばないほう。仕事と家の往復。あと仕事場がご飯つき(職員が食べてよいシステムだった)ので、一人暮らしでもお金が貯まっていった。

 それに加えて、私が大学に行く為に(けっきょく高卒だったのに)親が貯めていてくれた通帳を渡されていたのだから、そういうことができたのだ。

 この決断が、夫に先立たれるという事態に、ほんの少しだけ有利に働いた。

 夫のローンで購入して死別後チャラに、というパターンもあるようなのですが。なんにせよ、相続税なるものが発生しようもなかったのだ。



 夫の死別での相続で知ったこと。子供が未成年であった場合の相続がとてつもなく面倒だということ!

 後見人をつけないといけない、とか。大切なことですが、法律の知識ってとにかくややこしい。しかし、把握しておかなくては後々が面倒…。

 この手続きや書類がかなり私には大変でした(頭があまりよろしくないので)。各種の名義変更や会社からのお金や生命保険やら。本当ーっに、細々細々とある。

 それから遺族年金の手続き。これも、ものすごく調べた。知恵熱(誤用)が出そうなほど調べまくった。

 同じく一人親制度も。そしてシングルマザーの自立とか、そんなことも調べ、ついでに未亡人の人達がどんな身の振り方をするものか、ブログなんかを読み漁った。ものすごく勉強になりました。

 自分がしっかりしなくては。全部自分でなんとかせねば。そう気負った。

 後々よくもまぁ、自分一人であの全てをさばききったものだと、感心するくらい、私は必死で片付けていった。

 それでもこうしたことが落ち着くには三ヶ月ほどかかったのだが。

 案外一人で色々とできるものだな、と実感した三ヶ月だった。

 一番の不安はお金のことだったが、ざっくりと家計簿をつけていたこと、財産管理を任されていたこともあり、ぼんやりとだがなんとかなるだろうという

予想があった。

 稼ぎ頭の夫の喪失はそれなりに考えねばならないことも多かったが、不思議と経済面では絶望していなかった。

 二十歳の時から親元を離れ、自立して生きてきた。子供がいるとはいえ、それに戻っただけ、と、冷静になれた自分もいた。

 ただこの時の私は子供との生活を軌道にのせることで頭がいっぱいで、本来ならばすべきことを頭から閉め出していた。

 それが後々、私を苦しめることになるのだけれど。でもやはり私の性格上、現実問題を片付けることを優先するしかなかったのだった。












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