第42話 新たな単語

 

「勉強しなきゃ……」


 元カノの突然の別れもあったが、今は12月で冬休み前の期末テストがある。

 僕は地元の図書館で期末テストに向けて勉強をしていた。家にいるとふゆ姉のゲームや、はる姉のお節介で安心して出来ない。

 前の前期テストは4教科赤点だったので今回は二週間前から計画を立てて進める。


「やっぱり英語は苦手だな。よく分からないや」


 英語の参考書を片手に授業でやったことを復習する。いかんせん頭に入らない。異文化の言葉をなぜ、学ぶのか。日本に一生いたら使わないのでは?一生日本に住むわ!そんな言い訳じみた言葉が頭を埋め尽くす。


「だー!ダメだ。主人公のジュンがなんでこんな世界問題を友達と話すんだよ!ゲームの話をしてろよ!」


 真面目すぎるジュンとその仲間たち、それに相反する僕。ため息が出る。


「家庭教師やってあげようか?」


 そこに現れたのは、数ヶ月ぶりのストーカー金髪の女見た目とは裏腹に流暢な日本語を話す、


「えーと、どちら様でしたっけ?」


 印象は強いけど、肝心の名前を覚えてない。


「クレア……よ」


 彼女は少し残念な顔をする。いや、待ってよ。会ったのは数ヶ月前でその髪と顔のストーカー行為は印象深いけど忘れるよ。僕が彼女を作ってからは、一切姿は見てないし。


「クレアさん……でも、結構ですよ。自分の力でなんとかします」


 それに変な要求されたら怖いし……。


「大丈夫……大丈夫!あっきー、英語を使えるようになりたくありませんか?色んな人と話せるようになりたくありませんか?」


 海外には、さん、くんの敬称の文化が無いとは聞くが名前をいじって呼ぶのは文化なのか?


 でも、彼女が言う後半の言葉はとても魅力的だった。自分が海外の人間と話す姿を想像すると内心カッコいいと思ってしまう自分がいる。


 え?さっきまで、海外に行かず日本で一生暮らすとかほざいてた?古い!年功序列、終身雇用の廃止が決まっている今。外資の成果主義!即戦力の人材!グローバルに進まないと!


「その英語とか話せるようにはなりますか?」


 クレアさんは、数秒を考えた末に言う。


「That depends on how much effort you put in.」


 とてつもなく良い発音で、なんで言っているかわからなかった。


「なんて言ったの?」


「さあ? 努力してわかるようになりなさい。それじゃ、受けるのね」


「一応了承するけど……。てか、最初はこの教科書の範囲教えてくださいね!」


「All right!」


 彼女の教え方は、最初は僕が何を知らないかを調べるテストをしてそして圧倒的な単語不足を指摘した。

 その後、図書館で単語帳の本を借りてその本に載っている全ての単語を覚えるように言われた。


 予定表には英語は一時間勉強!と書いてあったが、今日は丸一日英語に使ってしまった。別れ際にクレアが言う。


「教える代わりに条件があるんだけど……」


 僕は戦慄した。このストーカークレアにとんでもない要求をされると思ったからだ。


「私が英語を教える代わりに、あっきーからは私が知らない日本語を教えてほしい」


 僕はほっとした。


「そんなことなら、全然いいよ」


「じゃあ、このAOKANについて教えて。一文字での漢字はBlueで二文字目が分からないんだけど……。具体的に教えて欲しいな!」


 青姦……。


「知らなくていいです!」


 彼女は僕の強目の言葉を震えながら喜ぶ形で受け入れていた。あれ、この人やばい人?


「わかりまひた、おおと、All right」


 今日、僕は最後に『分かりました』=『All right』を覚えた。
















 TSUTAYAから最新の映画を借りて家に帰る途中、私はあきがいないかどことなく目で探してしまう。


 TSUTAYAの中でも、その間の通り道すらも。

 会ってもたぶん、何も出来ないのに、たぶん私が突然別れたからあきは悲しみにうちしがれているから。


 そこで図書館に目が行く、そこの入り口から楽しげにあきとそれに会話する金髪の女が出てくる。


 私は初めて失ったものの代償知る。もし、あの時別れてなければあの隣は私だったかもしれない。もっと言えば、私の家で恋愛映画をラブラブで見ていたのかも知れない。

 大学の結果をちゃんと見ていれば、こんなにも悲しい想いをしなくて済んだのかもしれない。


 私はあきに声をかけず、自転車のペダルの漕ぐ速度を上げる。そして、家に帰り最新の映画を一気見して決意する。


 金持ちになる。あきを驚かせるんだ。私と別れたことを後悔させる。


「別れてすぐに他の女にイチャつくお前が嫌いだ!!」


 本心半分、驚き半分、嫉妬混ぜで私は叫んだ。


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