第七章 10月

第32話 想い出

「最近、私とあーくんのイチャつく機会少なくない?」


 そうぼやくはる姉。


「何を言ってるの?そんなことないよ」


 語ってはないがはる姉は僕にいつもベタついていく。何か理由を付けて触り何かあるたびに抱きつく。


 僕はそんなはる姉から意識して離れるようにしている。


「はる姉……少し離れて?」


「え?」


 彼女いるわけだからと素直に言ったらはる姉は何をするかわからない。


「昔のアキくんは私に何をされても受け身で答えてくれたのに!それどころか何をするのも付いてきたのに!」


 真剣な表情で言われる。



 ……。



 このくらいの寒い秋だったろうか?小学生の頃、僕は姉二人がいるこの家に来た。


 僕は今の義父と義母をそして緊張した顔をしている二人の姉だった。


「これから、三人でいつも仲良くするんだぞ!」


 そう話す義理の父。この人は仕事で多忙らしい。


「あなた?子どもばかりじゃなくて私を見てよ?」


 義父を睨みつける義母。


「はは、分かってるよ」


 明らかに義父の顔は引きつっていた。そういう関係なんだなっと子どもながら察していた。


「あきくん?私の名前は夏樹なつき はる!とりあえず、私の部屋に行こ?」


「う、うん」


「私は夏樹なつき ふゆ。あっきー。ゲームしよ?」


「ゲーム?なにそれ?」


 姉妹は顔を見合わせて考える様子を浮かべる。


「とりあえず行こ!」


 そう言って二人から手を引かれて部屋に連れられる。


 僕はこの家に入るのは抵抗があった。よく分からない二人の姉、優しい義理の母親、何かと不憫な義理の父親。しかし、本心では実の母親の元に帰りたかった。だから、トイレ行くと言って僕は隙を見計らって家を飛び出ていく。

 しかし、家への帰り方も分からないため近くの公園のブランコに座る。


「怒られたくないな」


 無断で外に出たから怒るだろうな……。


 帰る宛も無いけどあの幸せそうな家よりも実の母親のところに行きたかった。


「あ!あきくんやっと見つけた!ほら、ふゆ!こっちこっち!」


「はるお姉ちゃんみたいに誰もが体力あると思わないでよ……」


 そう言いながら、疲れきった表情で来てくれるふゆお姉ちゃん。


「お父さんとお母さんが心配してたよ?帰ろ?」


「はやく、帰らないとお母さん稲妻みたいに怒るよ〜」


 ふざけた口調でふゆ姉さんは言ったがその言葉は一番聞きたくなかった。


「やだやだ!帰りたくない!何があっても帰らない!」


 条件反射で身が竦む、そして膝を折り手で頭を抱えるような体制になる。頭の中で嫌な記憶がフラッシュバックする。僕のその時の異常性に二人の姉が反応する。


「ごめんね、あきくん。怖いこと思い出しちゃった?」


「嘘だよ!絶対怒らないから!母さんが怒ったら私が怒り返すから!」


 そう言って二人の姉は僕を囲むようになだめてくれた。どのくらい泣き止むのに掛かったか忘れたけど二人の体温が暖かかったのは覚えている。


 その後、僕は二人の姉にべったり張り付くように行動をしていた。二人の姉もそれを喜ぶ形で受け入れてくれた。


 そして僕たちは成長していった。


 後から知ったが、実の母親は一人で子どもを育てることのストレスや仕事の過労で死んだらしい。ストレスの吐け口が幼き頃の僕でたびたび虐待行動があった。

 そして僕を育てる親が死んで居なくなり今の義理の母親と父親の要望で夏樹なつき家に養子として引き取ったらしい。




 ……。




「あの時のあーくん、可愛かったなー」


「はいはい、そうですねー」

 黒歴史まじりの話を思い出すが、もうやめてくれ。僕のライフポイントはゼロよ。


「あっくんゲームしよ?」


「またゲーム?飽きないね」



 母親に未練がないと言ったら嘘になるが、僕には家族がいるから大丈夫だ。

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