ルートC  NTR END

第27話 和徒が目覚める 1  ルートC


【補足】


 この段階では、アイナの従者フェイクトがであることを知っているのは、アイナ、フェイクト、ユーメィら当事者の3人以外ではハルローゼとその従者たちです。


 カズトや和徒かずとは知りません。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 




 カズトの内側からが聞こえる。


『ようやく自由になったか。じゃあ、さっさと


 今にも途切とぎれそうな意識の中、俺は―――――



 <ルート分岐>


   A  神核の力を犠牲にして、二階堂にかいどう和徒かずとを否定した。


   B すべもなく飲み込まれ、完全に意識を失ってしまった。


 ▶ C 二階堂にかいどう和徒かずとに主導権を奪われてしまった。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〖 ルートC NTRルート 〗



 ―――ここは、どこだ? どうなっている?


 神核が強制的に解放させられ、封印が解かれてしまった。

 前世の記憶がふたたよみがえる。


 ―――そうだった……。二階堂にかいどう和徒かずとが表に出てしまった。


 身体の自由がきかない。

 周囲は、暗くて何も無い。

 意識が薄れていく。


 カズトという存在が、大きなモノに飲み込まれ、かき消されてしまうようだ。

 このまま抵抗できずに身を任せてしまうと、もう二度と戻れない。そんな気がする。

 でも、どうすればいい? 対抗できるすべを知らない。


 無我夢中でもがく。無駄だと感じながらも……。

 それでも、もがく。何かを求めるように……。

 必死ひっしに、もがく。どうして俺はこんなにも、もがくのか……。


 自分でもよく分からない。

 意識が混濁こんだくし、記憶が混ざり合い、自我が薄れていくにもかかわらず……。


 ―――でも、俺は……。俺には……。


 誰か忘れてはいけない人がいる。

 たとえ俺がどうなろうとも……。けして忘れてはいけない。


 ―――そうだ。俺の、俺にとっての半身のような存在。


 かつことなんて絶対にできない存在。

 それは、和徒かずとか? いいや、違う! あいつじゃない。

 一緒にいるだけで穏やかな気持ちになれる人。

 離れているだけで、苦しくてたまらない人。

 彼女と共に居たい。彼女? 女性……? 最愛の……女性……。


 ―――そうだ! アイナだ! アイナだけは―――――。







 気が付けば、不思議な場所にいた。

 相変あいかわらず周囲は暗い。

 ただ、先程さきほどとは1つ違うところがある。

 それは、目の前の光景。

 これは、何だ?

 何かがうつし出されている。

 前世の記憶からこれと似たような物を思い出す。


 それは―――映画……? そう、映画館にいるような状況。


 目の前に巨大なスクリーンがあって、そこに映し出されている映像。

 そうか……。俺はを理解した。


 この映像は―――カズトの身体を乗っ取った、和徒かずとが見ているもの。


 つまり、俺は身体の支配権を和徒かずとに奪われた。

 そして和徒かずと行動するさまを見せられている。


 和徒かずとの行動は把握できるが、思考は伝わってこない。

 何を考えている? これからどうするつもりだ?

 この状況がいつまで続くかは、分からない。

 見ていることしかできない状況をどうやって改善できるかも、分からない。


「俺に何ができる……?」


 答えてくれる者はいなかった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 カズトと呼ばれていた者が立ち上がる。


 ここは城塞都市アーガルムの北。樹海の中。

 急げば日が暮れる前には都市に帰れるくらいの場所。


 カズトの目の前には『奇妙な女性』がたたずんでいた。

 一切動かずにカズトを見据えている。カズトの様子をうかがっているようだ。


 カズト以外の同行者は皆倒れている。意識を失っているのだろう。

 見つめ合うカズトと『奇妙な女性』。


 どれくらいのあいだ、そうやって見つめ合い続けていただろうか。

 わずか数秒だったかもしれないし、数時間はそのままだったかもしれない。

 やがて、カズトの意識の中に響く声が聞こえてきた。


『まだ、選択の時ではない』


 カズトは不快げに首をかしげる。

 カズト自身にも理解できていないようだ。


 そんなカズトを無視して、風が大きく吹き荒れた。

 の葉が舞い、カズトの視界をおおう。

 カズトは叩きつけてくる木の葉や砂から目を守るように、腕で顔をカードする。


 風が止んで目を開けると、目の前にいた『奇妙な女性』はもうどこにも居なかった。


 あたりは静まり返り、さっきまでの奇怪な出来事がすべて夢だったかのよう。


 カズトはゆっくりと周囲を見渡す。

 そして、何かを考えこんでいるのか、あごに手を当ててしばらくの間、目をつむっていた。


 行方不明だったユーメィを保護し、帰還途中だった一同。

 クズオとその従者2人、アイナ、フェイクト、ユーメィは未だ意識を失ったまま。その場で立っているのは、考え込んでいるカズトのみ。



 それから数分の時が過ぎた後、カズトは目を開ける。


 フッと鼻を鳴らし、呼びかける。


「聞こえているんだろ、カズト。お前に封印されてからは、僕も今のお前と似たような状況だった。行動は把握できるが思考は認識できず、ただ見せられているだけ……。これでな」


 その声に反応する者はいない。それでもカズトは続ける。


「反応なし、か。封印し返さなくても主導権は僕にあるようだ。なにかしらの抵抗も一切感じない。まあ、僕はお前とは違う。封印なんてして自分の神核を制限する気は元から無かったけどね」


 勝手に納得したのか、カズトはうなずくと近くで倒れているアイナに目を向ける。


流崎りゅうざき愛名あいなか……。僕にとってはどうでもいい存在だが、カズトにとっては相当に思い入れのある女だったな。今のうちに殺しておくべきか……」


 カズトがアイナに近づく。

 狙いは頭。カズトが片足を上げる。真下にいるアイナの頭に落とせば、それだけで終わるだろう。


 だが、足を振り下ろす寸前で、カズトは予想外の反発を受けた。

 突然、カズトの胸が苦しみだしたのだ。


「ぐっ、あっ……。ナンダこれ……。がっああああああああ」


 カズトは2歩3歩と後ずさり、たたらを踏む。

 胸を手で押さえながら苦痛にまみれた表情を浮かべた。


「くそっ。カズト、お前か!? 封印していないせいで、僕の行動を制限できるのか……? だとすれば、面倒だ。こいつにことあるごとに抵抗されるくらいなら封印するしかない、か。いや、それでは神核の力の無駄遣いだ……」


 アイナから離れると、カズトの胸の痛みは治まっていた。


「この反発は、アイナに対してだけか? それともそれ以外でも毎回こうなのか?」


 カズトの視線の先には、アイナの隣で倒れているシラソバの姿があった。


「試しにこっちの女を殺してみるか……。いや、アイナに手を出せない以上、ここで下手へたに死者を出すと疑われてしまうか。全滅ならともかく、生き残る奴がいるなら尚更なおさらだな。さっきまでいたあの奇妙な女にすべての罪を着せるという手もあるが……」


 カズトは少しの間思いを巡らせていた。その後、決断する。


「―――いや、やめておこう。まずは、情報を集めたい。僕はこの世界の事をあまり知らないからな。カズトのバカもたいして調べようともしていなかったし。となると……、使えるのはか。そうだな、あいつを堕とせば一石二鳥だ。知識と従者の2つが手に入る」







 カズトが方針を決めてからの行動は早かった。


 意識を失っていた者たちをすぐに起こし、帰還を急がせる。

 気が付いたクズオは、カズトの提案に乗って帰還を優先した。

 前後の記憶があやふやだったが、『奇妙な女性』のことはおぼろげながらに覚えていて、その報告を第一に考えたためだ。



 急ぎ帰還のにつく間、カズトは左右にいるアイナとシラソバに興味を示さなかった。

 その様子にシラソバが不審に思う。だが、帰還を優先しているためだ、ととらえて何も言わなかった。

 それに対して、アイナは居ても立ってもいられずにカズトに声を掛ける。


「ねぇ、カズト。さっきから少し変だよ……。何かあったの?」


 カズトは、アイナの方を見ずに言う。


「―――いや、なんでもないよ」


「そうかな……。私たちが意識を失っている間に、何かあったんじゃあ―――」


「何も無いよ。それよりも、帰還を優先しよう。一刻も早く都市に報告しないとね」


「う、うん。そうだけど……」


 そこでカズトは何かを思い立った様子で、アイナに言う。


「そういえば、アイナは従者を得たんだよね? 後ろにいるフェイクトだっけ?」


「え、ええ……。でも、待って! そのことなんだけど、その話は帰ってから2人で会った時に―――」


「うん、いいと思うよ」


「えっ?」


「アイナの事が心配だったんだ。でも、もう大丈夫だよね?」


「―――どういうこと?」


「君は僕の恋人だ。でも、僕たちは勇者でもあるんだ」


「―――うん」


「だから、勇者としてお互い頑張ろう。この世界を僕たちで救おう。きちんとを果たしてね」


「それって―――」


「アイナは―――僕のこと、信じてくれる?」


 そう言うと、カズトはアイナに笑顔を向ける。

 その笑顔がいつものカズトとは違っているように、アイナには見えた。

 でもアイナにとっては、なんだか懐かしくも感じていた。

 かつてのアイナはこの笑顔が好きだったような……。そう感じていた。


「―――もちろん。私は信じているわ」


「そう、ありがとう。僕も信じているよ」



 アイナは、なつかしさと寂しさ、喜びと不安、相反する感情に揺れていた。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 都市に帰還したその日の夜、カズトは自室にいた。


 クズオが報告をする役目を負い、ユーメィは治療を受けている。

 それ以外のメンバーは休養の許可をもらっていた。


 カズトの自室は、男勇者用に用意された共同住居の一画にある2階建ての建物にあった。

 従者と一緒の生活ができるように、部屋数は多い。

 だが、従者を持たずにいたカズトにとっては、持てあますものだった。


 その自室には、大きなベッドがある。おおよそ独りで使うには大きすぎるサイズ。2人でも大きすぎるほどだ。


 そのベッドに腰掛けているカズト。入浴を済ませており、今はナイトガウンだけを身に着けていた。



 部屋の扉をノックする音がした。事前に来るように伝えていた人物が現れたようだ。


「どうぞ」


 カズトの了承を得て、扉が開く。


 扉の先にいた人物は―――クラエアだった。


「失礼します、カズト様。お呼びでしょうか」


 クラエアが部屋に入ろうとしてカズトの姿を見ると、戸惑とまどってしまった。

 カズトの服装が目に付いたからだ。


「どうしたの、入ってきて」


「は、はい……」


 ナイトガウンだけを羽織はおり、素肌を晒すカズト。

 クラエアにとって、ここまでラフな格好のカズトを見るのは初めてだった。


 部屋に入り、扉を閉めるクラエア。少し緊張を隠せないでいた。


「ん? どうかした、クラエア。なんだか様子がおかしいけど」


「い、いえ、なんでもありません。それで、ご用はなんでしょうか?」


「そう? じゃあ、用件を言うよ。実はね―――僕は従者を得ようと思うんだ」


「えっ、どうして……?」


 突然の物言いに驚くクラエア。

 クラエアにとってはずっと望んでいたことだったが、カズトの心境の変化が読み取れずにいた。


「どうしてそんなに驚くんだい? クラエアは賛成してくれないのかな?」


「い、いいえ。もちろん賛成です。カズト様がそうご決断されるのをずっと待っていました」


「そうか、ありがとう。ずっと気にかけてくれていたよね。随分ずいぶんと心配もさせた。今までゴメンね」


「そんな……私にはもったいないお言葉です。ですが、よろしいのですか?」


「ん? なにが?」


「その……。アイナ様です」


「ああ、大丈夫だよ。アイナと再会して、お互いのわだかまりが無くなったんだ。だからもう気にしなくてもいいよ」


 笑顔で言うカズト。その笑顔にクラエアはドキリとした。

 笑顔になることは今まで何度もあったが、それとは違うようにクラエアは感じた。

 まるで愛する者にしか向けないような、そんな笑顔をしていたのだ。



「―――そうだったのですね。では、従者候補を選定しませんと……」


「うん、そうだね。でも、初めて契約する相手はもう決めているよ。ずっと待たせてしまっていたからね」


「そ、そうですか……。それで、その相手とは……?」


 クラエアは、この後で、さすがに理解していた。

 胸が高鳴っている。顔が赤くなっているのを自覚する。

 一瞬、勘違いかもしれない、と不安になる。

 でも、期待せずにはいられなかった。

 それはクラエアにとって待ち望んでいたことだから。



「クラエア。君を愛しているよ」


「えっ?」


 カズトの言葉は、クラエアとって予想外のものだった。

 あくまで従者にしてもらえるだけで、心はアイナ一筋だと思っていたから。


「そんなに驚かないでよ。落ち込むなぁ……」


「い、いえ、違うのです。愛しているのはアイナ様だけかと……」


「そういうことか。でもさ、クラエアはそれでいいの?」


「私、ですか?」


「そう、クラエアだよ。僕は、クラエアを愛しているんだ。他の人は関係ない。今ここに居るのは君と僕だけだろ」


「で、ですが―――」


「僕は、君の気持ちを聞きたい。君のすべてを欲しいんだ……。駄目かい?」


 そう言って、ベッドから腰を上げると、クラエアに近づくカズト。

 クラエアは抵抗することなくカズトに抱きしめられる。

 抱きしめられた瞬間、クラエアの力が抜けた。

 瞳がうるんで、涙がこぼれ落ちる。

 カズトから目が離せなくなっていた。


「カズト様……」


「―――いいよね、クラエア」


「―――はい。貴方に私のすべてを捧げます」


「楽勝♪」


「えっ、今なんて?」


「ん? なんでもないよ。愛しているよ、クラエア」


「はい! 私もです、カズト様」



 感極かんきわまった様子で目を閉じるクラエア。

 その唇に、カズトはゆっくりと唇を重ねるのだった。





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