第18話 勇者奪還作戦 2 ―ハルローゼ視点―
従者カゲムネからの報告で、
―――ユーメィ・ミランダ・リズベットの3名の勇者が行方不明、その従者6名と同行していた騎士団を合わせた15名の死体を発見したと伝えられる。
その日の午後、領主から呼び出された。
城塞都市アーガルムの領主家は、バララシア王国から辺境伯の爵位を
だが、都市内にある領主家の館は、その権威にしてはこじんまりとしていた。
庭も建物も管理が行き届いてこそいるが、豪華さや威厳を感じさせる装飾品のような
実用性のみに重点を置いている内装は、実直な領主の
領主の館の応接室に通される。
そこには、領主と、それ以外の者が2人いた。
「ハルローゼ様。急な呼び出しをして申し訳ない。こちらへどうぞ」
出迎えたのは、城塞都市アーガルムの当代領主ハザン・アーガルム。
可もなく不可も無なく、と評されるハザンは、あまり印象に残るタイプではない。 だが、失策らしきものもしない安定感がある。
そういう点では、最低限の信頼はできる。
「失礼します。ハザン様、今回の呼び出しは、北の樹海での件でしょうか?」
私は席に着くと、さっそく本題に入った。
「そうです。ですが先に皆様の紹介をしましょう。こちらの男性は勇者ショウ様。 こちらの女性は勇者カコ様。そして、勇者ハルローゼ様です」
私たち3人の勇者は、顔を見合わせる。
カコは知っている。
ショウとは初対面だった。でも、名前は知っている。なぜなら―――
「ほぉ、これが『31人の勇者』の上位3人か。ハルローゼは初めてだな……。良い女じゃねぇか。気に入ったぜ」
ショウがじろじろと見てくる。その視線は、私の顔と胸を
私とカコとショウは、従者枠が4人。現状トップの枠数だ。
領主が私たち3人を呼び出した理由が見えてきた。
私はショウを無視して、話を先に進める。
「それでハザン様。私たちに
「うむ。さっそくだが本題に入ろう。北の樹海の調査のため遠征隊が組まれていたが、その足取りが途絶えていた。捜索部隊を派遣していたが、今朝になってその隊から報告があった。死者15名、行方不明者5名。死者の中には勇者の従者6人が含まれており、行方不明者の中には勇者ユーメィ・勇者ミランダ・勇者リズベットの3人の勇者がいる」
既に知っていた私とは異なり、初耳だったのかショウとカコは目を見開いていた。
「勇者が負けたのか……」
「それは分からない。確実なのは、死体の周囲は激しい戦闘の
さっきまで軽薄な笑みを浮かべていたショウは、真剣な顔つきで聞いていた。
ずっと黙っていたカコが口を開く。
「行方不明者の手掛かりは何かありますか?」
「―――特にない。だが、食料などの荷物もほとんど無かったことから、持ち出された可能性がある」
私は2つの可能性を
「行方不明者が持って行ったか、敵が奪っていったか……」
「奪われた可能性の方が高い。5人だけで運べる量ではないのでな」
となると、ユーメィたちは敵に捕まっているのかもしれない。
死んでいなければ、まだ助けられる。まだ大丈夫、と自分に言い聞かせる。
そこで、ハザンが少し言いにくそうにしながら
「それで、行方不明者の5人のことなんだが……実は、全員女性なのだ」
「えっ……」
「今回の遠征隊は勇者3名、その従者6名、騎士団11名の計20人だったが、その中で女性だったのが勇者3名と騎士2名の計5人でな。この5人が行方不明者なのだよ」
呆然とする私をよそに、ショウとカコが話始める。
「―――ああ、そういうことか。女は戦利品だな。こりゃあ、もう救い出してもダメかもな」
「他は放置して女性と荷物を持って帰ったってことは、モンスターとかじゃない。 事前の報告にあった亜人の噂、本当かもしれないわね」
「亜人か……。けっ、南西の砂漠地帯なんかよりも、こっちの方がずっと面白そうじゃねえか。カコもそう思うだろ?」
「そう? わたしはどっちもどっちよ……」
「お前は、あいかわらずだな。病気の母親以外に興味ねーのかよ」
「それは感謝してる。でも、その話はここではやめて……」
「わかったよ。―――それで? 領主様は、俺らに何をさせたいんだ? 救出か?」
まるで
私はカコやショウのように冷静ではいられなかった。
「そうです、ハザン様。彼女たちを救出しなければ!」
「ああそうだ。ユーメィ様・ミランダ様・リズベット様の3人は、いずれも従者枠が2人だった。その方々が戦闘で後れを取って従者が全滅していると考えれば、それ以上の実力を持つ勇者様で救出部隊を編成するべきだ。どうだろうか、引き受けてはもらえないか」
領主の提案に、ショウは―――
「いいぜ。だが、昨日まで遠征に行ってきたばかりだ。少し休んでからにするぞ。久々に都市の女も抱きたいしな。従者候補者だって新しい奴が補充されているだろ? そいつらも試してみないとな!」
カコは―――
「―――命令なら行くけど……。どっちでもいいなら、わたしはパス」
ショウは直ぐに向かう気はなさそう。カコはそもそも行く気が無い。
―――なら、私が行く。こんな人たちに任せておけない!
「私が行きます。ユーメィたちは私が救ってみせます」
「そうか、ありがとう。では、ハルローゼ様には準備ができ
他にもいくつか確認した後、私は明日出発することになった。
話し合いが終わり、応接室から退出すると、ショウに話し掛けられる。
「ハルローゼ。どうだ、これから食事にでも行かないか?」
「結構よ。明日の準備で忙しいの」
「そんなこと言うなよ。せっかく勇者同士で会えたんだ、仲良くしようぜ」
ショウの大きな身体が遠慮なしに近づいてきて、肩に手を伸ばしてくる。
それを
「―――離して」
少し焦りながら言う。
身体能力では
そこにカコが割って入ってくる。
「離してあげて、ショウ」
「カコか……。用が無いならどっかいけよ。オレはハルローゼに話がある」
「ハルローゼの方は嫌がってるでしょ」
「だからこそ面白いんだよ。邪魔するな」
「やめてあげて。それに、わたしがショウに話があるの」
「お前が、か。なんだ?」
ショウが私の腕から手を離して、カコに向き合う。
「―――カズト。召集されてるよね?」
カズト……。 誰のこと? 召集ってことは勇者かな。
「―――らしいな。2週間前くらいに召集されたらしい。オレはずっと南西の砂漠地帯の調査のために遠征してたから、まだ会ってないぜ」
「そんな長い間遠征してたの? まったく帰らずに?」
「ああ、オアシスに街があるからな。そこを拠点にしてて、ずっと都市には戻らなかった」
「そう……。じゃあ、本当に会ってないのね」
「なんだ、カズトに何か用があるのか?」
「いえ……」
「ここでは、あいつとはそんなに
「そうね。村にいた時、少し話したことがあるだけ」
「あいつは前の記憶が無い。もうオレらとは違うぞ。それに、今頃従者とよろしくやってんだろ」
「そうかな……。でも、アイナは―――」
「いや無理だろ! 勇者同士じゃあ、どうにもならねぇ。アイナだって
「―――そうね」
「にしても、異性の勇者同士でこんなに会う機会が無いなんて予想外だぜ。お陰でアイナにまったく会えねぇ。オレが唯一会えるのは、お前くらいだ。お前の母親の面倒をオレの家が引き受けているからだけどな」
「うん、いつもありがとう」
「いいぜ、これも何かの
そう言うと、こちらの返答も聞かずに、ショウは去っていった。
私は2人の関係が気になって、カコに尋ねる。
「カコ、ショウと仲いいのね」
「昔からの知り合い、かな」
私の知るカコは、
だけど、ショウと会話している時は、普通の少女に見えた。
カコの年齢は15歳と若く、小柄な体型であることも合わせて、まだ幼なさが残っている。
同じ従者枠が4人であることからライバル視していたが、彼女の新たな一面を見た気がした。
「そうなんだ。それでカズトって誰? あなたとの関係は?」
「―――どうでもいいでしょ。それより、本当に行くの? 女性が
「行くわよ! 分かっているから、行くの! ユーメィたちを助けなきゃ」
「そう。じゃあ、気をつけてね」
それだけ言うと、興味を無くしたかのようにカコは去っていった。
後になって、カズトの話題を避けられたことに、私は気づいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
生い茂る木々の中を
代り映えの無い景色、日の光を閉ざした暗い密林の中。
救出部隊を率いて私は進む。出発してから、もう3日目。
今回の部隊は、合計12名。
私と従者4人、騎士5人、そしてアイナとフェイクト。
人員は最小限でいい。
荷物持ちとか伝令とかで、ある程度の人手は必要なため、騎士には付いてきてもらっている。一応、万が一を考えて全員女性の騎士。殺されるよりはマシだと思って。騎士本人がどう思っているかは知らないけど。
従者枠2人だった勇者が3人捕まっていることを想定すると、中途半端な
なので、私と私の従者だけで行く気だったが、アイナとフェイクトが強引についてきた。
途中でモンスターとの戦闘があり、アイナとフェイクトに何度か任せてみたが、 アイナは想像以上に弱かった。
もちろん、アイナも神核保有者なのでモンスター相手に余裕で勝てる。普段からモンスター討伐をしていたのかもしれない。それくらい手慣れていた。
でも、少し動きを見ていれば、力の底もある程度わかる。
それが想定していたよりも
従者1人の勇者がここまで弱いとは思わなった。
むしろ、アイナよりもフェイクトの方が強かった。こちらは良い意味で想定外。
フェイクトはハーフエルフ。エルフの血が入っているので、そのお陰かもしれない。
自分の
こんなことありえるのかな?
ユーメィが心配だ、と言って強引に付いてきたのに、下手すれば足手まといになる。
元々アイナのことを嫌っていたので、あの2人はいない者だと思って捜索することにしていた。
樹海を真っすぐ進み、さらに北にある山脈の
そろそろ樹海を抜けるくらいまで進んでいた時、私の従者であるカゲムネが姿を現した。
「ハルローゼ様、ここから少し離れた場所に洞窟を発見しました」
「そう。誰かいそうな
「間違いなく、誰かがいます」
「やっと手掛かりを得られたかな。当たりだといいけれど」
「ご案内します」
まずは、救助が最優先。
女性が捕まっている。予想通りなら、ひどい状況のはず。
だから、救助が済んだら―――全員、殺す。必ず。絶対に。
遠目に洞窟が見えた
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