第7話 勇者と従者 3 ―ショウ視点―

 アイナと別れた後、オレは村の宿屋に戻っていた。


 東村にある宿屋の中で一番いい部屋を借りているが、その内装は城塞都市の高級宿と比べるとひどく見劣りするものだった。

 昨日まではこの部屋にいると気が滅入めいるばかりだったが、今ではそんな気持ちも吹き飛んでいた。


 このクソ田舎の村に来て本当に良かった。

 成人の儀を受けて神核保有者だと判明したし、何よりもアイナに出会えた。

 自分の人生がよりはなやかなものなると確信できたのだ。

 明日の朝一でここを発つ予定だったが、こうなったらぎりぎりまで滞在しよう。

 そしてアイナを少しずつ落としていって、最後には完全にオレの物にする。

 カズトが腑抜ふぬけている間が勝負―――そう心に誓う。






 夜になって、父が宿に帰ってきた。


 父はオレを見つけると、「話がある」と言って、部屋で二人きりになる。

 明らかに浮かれている様子から、話の内容は想像できた。


「ショウよ、よくやった。お前が神核を得たと聞いたぞ」


 予想通りだ。司祭は口止めしていたが、こんな刺激の少ない村だと噂話くらいしか楽しみもないだろう。今日の出来事はすぐに広まると思っていた。


「ああ、事実だ。ようやく身体が神核に慣れてきたしな。今なら領主おかかえの騎士団すら怖くねえ」


「ほぉ、大きく出たな。だが、しばらくの間は、力をつけることに専念しろ。お前はまだを知らんのだろう?」


 神核の仕組み、だと。神核は獲得して終わりじゃないのか?


「神核の仕組み?」


「ああ、この地での神核保有者と言えば、勇者アーガルム様のことを指すが、そこらの書物に書かれてる英雄譚えいゆうたんには絶対に書かれない秘密があるんだよ」


「へぇ、どんな秘密なんだ?」


「神核を得たお前には必要な知識だ。よく覚えておけ。実はな―――神核は『育てること』と、『分け与えること』が出来るんだ」


 父が得意気とくいげに言う。

 理解できずに、オレが首をかしげると、父は話を続けた。


「ショウは、勇者と従者の関係を知っているか?」


「ああ、従者ってのは勇者の部下だろ? たしか、城塞都市アーガルムの初代領主も元々は勇者アーガルムの従者だったとか」


「それだけではない。5大貴族の初代もすべて勇者アーガルム様の従者だ」


 それは知らなかった。つまり、城塞都市アーガルムの中枢は、すべて勇者アーガルムとその従者によって支配されていたってことか。


「予想以上に従者の権力が強いな。そんなに特別なのか?」


「そうだ。勇者の従者になるということは、それだけ意味があるってことだ。そもそも勇者とは、『神核を有していること』と『厄災から世界を救うこと』でそう呼ばれる。厳密には、厄災から世界を救った時点で勇者と呼ぶのが正しい。だが、厄災に立ち向かう意志さえあれば、その途上であっても勇者足りえる。大事なのは、厄災から逃げないことだ。その使命を放棄すると神核を失う、と言われているから注意するんだぞ!」


 それは初耳だ。今更この力を失いたくない。

 どう足掻あがいても厄災には立ち向かう必要がありそうだ。


「それで、勇者の従者って何なんだ」


「ああ、それでな。勇者は本来1人だ。今回は4人現れたと聞いて驚いたが、歴史上同時に複数現れたなんて聞いたことが無い。だから、本来は1人で厄災に立ち向かう必要があった。だが、それは困難を極めるし、神核本来の力を引き出せていないのだよ。神核は従者がいてはじめてその力を存分に引き出すことが出来る」


「じゃあ、従者は絶対に必要ってことか」


「そうだ。神核保有者は、従者に力をことができるのだ。力を分け与えられた従者はを得る。これは神核ほどではないが、強大なもので、神核保有者に準じた力を得ることができる」


「はぁ? 従者に疑似神核だと。なんでそんな大事な話が英雄譚えいゆうたんとかに書かれてないんだ? 真っ先に記載すべき内容じゃないか」


「―――それには、事情があってな……。あまり表立って広めていい話ではないのだ。下手に広まると悪用される可能性もあるからな」


 なんだ? 何か問題でもあるのか? 

 疑似神核を与える副作用とか、デメリットとか……。


「オレも神核を得たんだ。他人事ひとごとじゃねぇ。教えてくれよ、父さん」


「分かっている。すべて伝えるつもりだ。問題なのは、疑似神核を与える方法なんだよ。簡単に言うとな―――


「なんだ……と。それって―――」


「ああ、勇者と従者は異性同士である必要がある。つまり、お前の従者は女性に限られる。その相手との性行為により、相手に疑似神核を与えることが出来るんだ」


 おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい。

 さ、最高じゃねぇか……。


「従者は何人でも可能なのか?」


「それは勇者次第だ。勇者が強くなれば、神核が育つ。神核が育てば、従者にできる人数と、疑似神核の力も増す。さらにな、疑似神核を与えると、従者の力の一部が神核保有者に還元されるとも聞く。つまり、勇者と従者は、神核を通じてお互いに力を高め合うことが出来るんだ」


「優秀な女を見つけて、そいつと性行為すれば、オレも女も強くなるってことか?」


「ま、まあ、そういうことだな。自身の鍛錬たんれんも忘れてはならんぞ。ただ性行為を繰り返しても意味は無いからな」


「ああ、分かったよ、父さん。オレ、やってやってやりまくってやるよ!」


「お、おい、聞いてるのか? まずは自分の神核を育てることが最優先だからな。神核保有者が強力であればあるほど、従者と相乗的に強くなっていくのだからな。忘れるなよ」


「了解だ! よし、とりあえず、いい女探してくる! じゃあ、ありがとうな」



 満面の笑顔で夜中に宿を出ていくショウ。

 そんな息子の背中を、彼の父は呆然と見送るのだった。






 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 <補足>


 神核―――これを得ると、人の枠を超えた力を手にする。

      様々な手段で強化することが可能(例として修業など、他の方法は今後 

      の作中で)。

      強力になればなるほど、神に近づく。


 神格保有者―――神核を持っている者。


 厄災―――世界の危機。これを防ぐために神核保有者が現れる。


 勇者―――厄災から世界を救った神核保有者。

      または、厄災から世界を救おうとしている神核保有者。


 勇者の従者―――勇者との性行為を通して疑似神核を与えられた者。


 疑似神核―――神核に準じたもの。

        その力は、与えた側の神核の力に比例する。



 <勇者と従者の関係性>


 勇者の神核が強ければ強いほど、①従者の数を増やせる ②疑似神核が強力になる


 従者の力の一部は勇者に還元される(従者が強ければ強いほど、勇者も強くなる)


 性行為の必要性から異性同士のみ(男勇者なら女従者、女勇者なら男従者)


 勇者はいつでも疑似神核を消せる(従者から返上も可能)


 勇者が従者に力を分け与えても、勇者の能力が下がるわけではない

(分け与えると表現したが、イメージとしては劣化コピーして貸してるようなもの)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る