第6話 勇者と従者 2 ―ショウ視点―
(誰だ、こいつ……。妙に
その男の姿をじっと見つめる。
ぱっとは思い出せないが、どこかで見たことがあるように思える。
あれこれ考えていると、また別の女が近づいてきた。
そして、オレを除いた3人が会話を始めた。
「カコ! 君もかっ」
「―――
その会話を聞いて、オレは思い出した。
(そうだこの男、
名前は
この3人は、よく行動を共にしていた。
(くそっ、またこいつらか。やっかいだな……。というか、
一度思い出すと、忘れたかった記憶まで嫌でも思い出される。
―――オレはこの
(あの時の屈辱は、今でも許せねぇ。あっ、そうか! でも今なら関係ない。この世界でならやり返せる! だが、慎重に行くべきだな。今回は失敗できないぞ……)
オレは注意深く3人を観察することにした。
3人の会話を聞き、現在の3人の関係性を理解しようとする。
「カズト、彼女のこと知ってるの?」
(ん?
「……知ってるよ。カコはこの村の人だよ。あれっ、アイナ姉さんは知らなかったっけ?」
(は?
「たぶん、初めましてよね……? よろしくね、カコ」
「そんな……。わたしだけ―――」
(マジで
もしかしたら前世の記憶があるのは自分だけかもしれない。
だとすれば自分はかなり有利な立場にある、とオレは期待した。
その後、司祭が説明を始める。
どうやら、あの青白い光は神核を獲得した
その説明を聞いたオレは歓喜した。
勇者アーガルムと同じ立場になった気がしたからだ。
もちろん今はまだ力が足りないだろうが、勇者アーガルムと同等、いや、それ以上の存在になれる権利を得たのだ。
何もかもが上手くいくこの世界のオレ自身に、怖いものなどなかった。
(
そして、丁度いいタイミングで
「へぇ、それはすごい。勇者か―――楽しみだな、アイナ」
そして素っ気ない態度で返答してきた。
「別にそんなことはどうでもいいです。それよりも、アイナって呼び捨てにしないでください」
その返答を聞いて、オレは我慢できずに声を上げて笑う。
オレは、
大学時代、
最初は無視して
「おいおい、アイナでいいだろう。それとも昔の呼び名でいいのか?」
「そうね。いいわ、アイナで。私もあなたのことは ショウ と呼ぶことにする」
(ほら、やっぱりな。まだオレはこの世界では名乗ってないのに知ってやがる)
「ああ、またよろしくなアイナ」
最後に含みを持たせてアイナに告げる。
アイナは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
司祭との会話も終わり、解散の流れとなった。
このまま何もせずに宿に帰る気はない。
アイナと会話をするため、オレはアイナに近づいていく。
すると、教会の外でアイナがカコに話し掛けているところだった。
「カコ。ちょっと待って」
「アイナ……」
「できれば、後で二人で話したいことがあるんだけど、いいかな?」
「―――カズトは?」
「その、できれば二人がいいんだけど……」
「―――うん、わかった。後でアイナの家に行くね」
「私の家分かるの?」
「うん、カズトの家の隣でしょ」
「そう合ってるわ。カズトの家、知ってるのね……。じゃあ、待ってるから」
会話を終えたアイナとカコ。離れた所でカズトがアイナを待っているようだ。
オレはカズトの方へ向かおうとするアイナを呼び止めた。
「アイナ、ちょっと待てよ」
オレに呼び止められたアイナは、面倒くさそうな態度で応える。
「―――なに? 早くして、カズトが待ってる」
「さっきの自己紹介の時、言ってたよな。カズトとは幼馴染なんだろ?」
「ええ。大切な幼馴染よ」
「付き合ってるのか? この世界でも」
「―――まだ、付き合ってない」
「へぇ、良い事を聞いた。っていうか、もう分ってると思うが、アイナは前世の記憶があるんだよな?」
「ええ、あるわ。ショウもでしょ」
オレはアイナとの会話から、状況を確認した。
アイナとカズトとカコは東村の住人。カコは2人とは関係が薄そう。
アイナとカズトは幼馴染。付き合ってない。
アイナは前世の記憶がある。
前世に比べれば、かなりつけ入る余地がありそうだ。
他に知りたいのは―――カズトとカコに前世の記憶があるのか無いのか。
「なぁ、アイナ。カズトの奴おかしくなかったか? オレのこと知らないみたいだったし。それにアイナとカコへの態度も気になる」
オレがそう問いかけると、アイナは黙ってしまう。
ただ、その表情は何かに耐えているようだった。
オレは出来る限り優しい口調で、さらに追及する。
「アイナ。オレたちは、またこの世界でも出会えたんだ。オレはお前のことが好きだ。今でもな。だからこそ力になりたいんだよ」
「ちょっと、告白とかやめてよ。困る……。それに、カズトがいるんだよ。聞こえてたらどうするの」
「大丈夫。カズトとはかなり距離があるから聞こえてないって。それよりも―――」
「やめて。前世でも何度も断っているけど、私はあなたに対してそういう気は無いの。私はカズトが好きなの。諦めて」
「だったら、なんで付き合ってないんだよ」
「それは……、記憶が蘇ったのがついさっきのことで、それまでは姉弟のような関係だったから……」
前世の記憶が無くても、幼馴染なら互いに惹かれ合ってる可能性もあるか、と思ったが、どうやらそうではないらしい。
「じゃあ、これで二人とも記憶が蘇ったわけだし、恋人同士に戻るのか?」
この問いには返答が無い。アイナは悔しそうな顔をしていた。
ここで本命の疑問をぶつける。
「もしかして、カズトは前世の記憶が無いのか?」
「―――そう。その通りよ。どうして……。私もカコもショウも記憶が戻ったのに、どうしてカズトだけ記憶が戻らないの……」
アイナが弱々しく語るのを聞いて、オレはニヤけてしまわないように注意する。
これはチャンスだ、と思った。今なら
カズトがボケている間に奪ってしまおう。
「そうか……。それは辛いな。まあ、カズトの前世の記憶が戻らないのはしょうがないだろ。アイナのせいじゃない。それに、今後思い出すかもしれないし。また何かあったら相談に乗ってやるからさ」
「だから、やめてって。私はあなたのこと、なんとも思ってな―――」
「おいおい、それ以上言うな。同じ相手から一日に二度は振られたくない」
「あっ、いえ、ごめんなさい」
「もういいって。そういうつもりで相談に乗るって言ったわけじゃないから。ただ、ほらあれだ。オレたち、神核保有者だろ? 今後も関わりがあると思うし、むしろ一緒に厄災に対処することになるんじゃないか。だとすると、アイナが落ち込んでたら世界を救うどころじゃないだろ。だからアイナのためだけじゃなくて、みんなのためでもあるんだよ。分かったか?」
強引な物言い。
だが、効果はあったようだ。
アイナは呆れた顔をしながらも、少しだけ笑った。
「うーん、ちょっと言ってる意味、よく分かんない」
「うるせぇなー。そうだ、今度城塞都市に来るんだろ。オレはあっちに住んでるから詳しいぜ。案内してやるよ」
たぶんこれは断られるだろう。
「結構よ。カズトと見て回るわ」
そして、その後の提案は譲歩を引き出しやすい。
「せっかく誘ってやったのに。これでも都市内で顔は広いんだぜ。じゃあ、せめて今度会った時も少しでいいから話をしようぜ! それくらいいいだろ」
「そうねぇ、まあいいわ。言っておくけど、脈があるなんて思わないでね」
「わかってるって。じゃあ、またな!」
オレはささやかではあるが、確かな収穫を手に、宿へと帰っていく。
―――そう、少しずつでいい。少しずつ、な。
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