二週目と二日

「国見さんと煤原さんのランウェイを見たい? いやいや、ムリでしょ」

「そこを何とか……anyanの人から見ておくようにって言われてて」

「えー? そう言われてもなぁ、公演の最中に奏音君が観客席に行ったら、気絶しちゃう女の子とか出てきちゃうよ? ああいう場での熱狂って本当にヤバイから、認められないよ」


 安全面としても不可、そうだよなぁ……そうなのか?

 まぁでも、気絶はないにしても、熱狂して襲われるっていうのはあるかも。

 団扇持ってる子で泣いてる子いたもんな、いつの間にあんな子がファンになってたんだろ。

 久しぶりに下駄箱の中も凄い事になってたし、公演の最中っていうのは無理があるか。


「園田君が動画で撮影してるから、それじゃダメなのかな?」

「動画で撮影……してるの?」

「ランウェイの先頭に固定カメラあったの気付かなった? あれで動画撮影してるよ」

「あ、あれ動画だったんだ。じゃあそれを後で見せさせてもらおうかな」

「納得して貰えて良かった。土壇場で奏音君不参加になったら、ブーイングで大変な事になるとこだったよ」


 ふーやれやれって感じの山林君。

 僕がドタキャンなんかする訳ないじゃないか。

 した所で行く場所なんかないし、これぐらいしか取り柄ないんだからね。

 

「そろそろお客さん中に入れますよ」

「高橋さんありがと。それじゃモデルの皆さん、今日も宜しくお願いします!」


 扉の隙間からちょっとだけ目があったけど、ツンって感じに閉じられちゃった。

 高橋さんが長期合宿に行くのって十二月なんだよな……あと一か月半。

 神様、ちょっとぐらい関係改善したいと願うのは、ダメなのでしょうか。

 

『さぁー始まりました栗宮高校パリコレクション! 二日目の今日は昨日よりも公演回数が多いため、途中どこかの回で水着ショーを行いたいと思います!』


 ――きゃあああああああああああああああああああああぁ! 

 ――みず、水着いいいいいいいいいぃ!!!!!

 ――奏音君の水着いいいいいいいいいいいいいいいぃ!!!!

 ――女子は、女子はあああああああああああああぁ!?


『もちろん男女ともに水着になって頂きます! モデルの皆さんも了承済みです!』


 ――あああああああああああああああああああああぁ! 

 ――わああああああああああああああああああああぁ!

 ――ぎゃあああああああああああああああああああぁ!


 なんか歓声なんだか悲鳴なんだか分からないのがいるな。

 水着に関してはむしろ僕達から要望したんだよね、照明が熱すぎるって。


 昨日は二回公演だったけど、今日は午前一回午後二回の三回公演、体力持たないよ。

 水着の時に手にさわやか系の飲み物持っていいって言われたから、それが楽しみだな。


「ったく……水着とか」

「国見さん、嫌なの?」

「嫌に決まってるでしょ、見世物じゃないのに」

「でも、プールの時の水着、結構似合ってたと思うよ?」


 うっすらとだけど、見えてたし。


「確かオレンジ色の水着で、ビキニ系だったよね」

「……見えてないとか、嘘ばっかりじゃない」

「いやいや、色とかは何となく分かるんだって」

「信じらんない、空渡君ってホント最低だよね」


 なんで顔真っ赤にして怒るかな、見えてた物を伝えただけなのに。

 ぷいっとそっぽを向いて、小走りで女子の着替えゾーンに消えてっちゃった。

 代わりに現れたのは元気百倍の煤原先輩だ。


「そらっちー!」

「煤原先輩、え、もう水着なんですか」

 

 ビキニにパレオ、麦わら帽子スタイルで、しかも手にはフルーハワイを手にしてるし。

 完全に夏満喫モードじゃないか、早すぎるでしょ。


「だって、露出高い方がそらっち喜ぶでしょ?」

「いやいや、意味ないですから。観客を喜ばせる方向で動きましょうよ」

「観客が喜ぶ? 水着で開脚とか?」

「下ネタ厳禁です」

「えー、ムリー、七夕から下ネタ取ったら何も残らないよぉ」

「じゃあ消え去って下さい」

「あはは、そういう所も好きだぞ?」

「どういう所ですか……あ、ほら、川海さんが衣装持ってやってきましたよ」

「きゃー! 逃げろー!」


 川海さん激おこだったけど、煤原先輩大丈夫かな。

 何はともあれで始まった一年二組のパリコレクション。

 午前午後共に大盛況の内に終わり、あっという間に文化祭は終了の時を迎える事に。


『本年度、栗宮高校の文化祭功労賞は…………一年二組、栗宮パリコレに決定いたしました!』 


 みんな拍手して抱き締め合って喜んでて、僕も頑張って良かったなってパチパチと拍手。

 一人輪から外れてたら、僕に気づいた国見さんがとことことやってきた。

 

「なんで後方彼氏面してるのよ」

「いやいや、頑張ったのは森林君と川海さんでしょ」

「そうかもね……そういえば聞いた? あの二人、付き合うんだってさ」

「え、そうなの? 文化祭が芽生えさせた愛、なのかな」

「なに言ってんの。元々狙う気満々だったじゃない」

「どっちが? そういうの全然気づかないんだよね」

「まぁ、空渡君じゃあ気づけないよね」

「何その言い方……」

「はいはい、じゃあまた水曜日にね」


 言いたい事を言えたのか、国見さんは僕よりも更に後方に下がって壁に寄りかかる。

 数々の発表も終了し、後夜祭も特にないままに粛々と文化祭は幕を閉じる事に。


 帰宅した後、僕は斎藤さんの言いつけの通り、国見さんと煤原さんのランウェイを確認する。 

 二人の歩き方、佇まい、仕草、そういうのを全部見比べた結果。


「……煤原先輩の方が、見せ方が上手い……?」


 歓声の差、それも如実に出てる気がする。

 どちらが有名かと言えば、間違いなく既に雑誌デビューしてる国見さんの方なのに。

 知名度の差があるにも関わらず、煤原先輩の方が見ていて映えるのだ。


 観客との距離が近いというのもあるかもしれない、座り込んで手を振ったりしてるし。

 国見さんは機械的な感じがするんだよな、なんていうか事務的な感じ。

 煤原さんは人懐っこい感じがして、とても自然体な感じがするんだ。


 こういうのを知れって事なのかな……?


『続いては、我が栗宮高校最高峰のイケメン、空渡――』


 おっと、自分は見たくないですよっと。

 ……もう一回、水着のシーンを見ておこうかな。

 この時だけ、国見さんも自然体になってる感じがするし。

 自然体っていうか、恥ずかしがってるだけかもしれないけど。

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