二週目と一日②

 ――午後一時より、一般の方の入場が可能となります。チケットをお持ちでない方の入場は出来ませんので、入場の際は生徒から預かったチケットをご準備の上、入場口へとお並び下さい――


 よし、ついに午後の部門が始まったぞ。

 父兄だけじゃなく他校の生徒さんも来るからね、気合入れないと。


「改めまして進行役の川海です! じゃあ皆、リハーサル通りで宜しくね! 空渡君が一番出番多いからね、着替えはカーレースのタイヤ交換バリに速度重視で行くから頑張って! あと、飛び入り参加で二年三組の煤原先輩も参加する事になったから、ローテーションの再確認を宜しく! じゃあそろそろ始まるよ、お客さんの入りは満員御礼! 張り切っていこー!」


 既にBGMはガンガンに鳴り響いていて、教室内の照明もググっと下げられている。

 カラフルなスポットライトにモデルを照らす白色の照明は、まさにパリコレそのもの。

 

 モデルとしての撮影はしたことあるけど、ランウェイを歩いた事はもちろんない。

 一応事前に動画を観て歩き方の研究はしたものの、ほとんどぶっつけ本番だ。


『では一番! ネイビーニットに細身のパンツ! これからの冬コーデを意識するにはうってつけのジャケットを羽織るは、なんとanyanにも掲載された事のある現役高校生モデル! 噂には既に他雑誌の撮影も終えているとかいないとか! 我がクラスが誇るイケメン! 空渡奏音だー!』


――っっ!!!!!!!!!!!!!

――奏音くーん!!!!!!

――やっばい! なに超イケメンじゃん!!!!

――こっち向いてー!!!!

――写真、写真撮らないと!!!!!


 うお、最前列に僕の団扇持ってる子達までいるぞ。他校の制服だけど、どういうこと? 

 マイクパフォーマンスって本来パリコレにはないはずなんだけど、結構受けがいいね。

 名前を憶えて貰うには打って付けかもしれないし、国見さんも喜びそうだな。


 きゅっとターンを決めると、そこでまた喝采があがる。

 くふふ……ヤバイなこれ、癖になりそうだ。


『続きまして二番手! 可愛いポンチョにウールスカート! エレガントな佇まいを添えるは学校指定のローファーだ! でも、そのギャップすらも着こなすのが現役モデル! 国見愛野ちゃんだー!』


――愛野ちゃーん!!!!!

――雑誌全部買いましたー!!!!!

――可愛いー!!!! こっちこっち向いてー!!!

――赤チャだオラー!!!!!!!!


『お金投げないで下さい! モデルへの接触は絶対禁止です!』


 凄いな国見さん、おひねり飛んできたぞ。

 声援が僕と違って男ばっかりだ、女の子受けはあんまりなのかな?

 逆を言えば僕の時に男の声援ってほとんど無かったし、需要と供給って感じかな。

 って、そんな事を考えてる暇はないな、次行かないと次。

 

「奏音君! 次はサマーで行くから、半袖とハーフパンツ、スニーカーだよ!」

「はいはい、忙しいなこれ」

「あはは、煌びやかな世界の裏側ってこんな感じなんだろうね! なんか楽しくなっちゃう!」


 川海さん、本当に楽しそう。

 山林君のマイクパフォーマンスも生き生きしてたし、これは人生観変わっちゃうかもね。


 慌てながらも笑みが浮かんでしまう。

 そんな時だ、会場から異様な喝采が上がったのは。

 

――可愛いー!!!!!!

――綺麗ー!!!!!

――え、あの子モデルじゃないの!? 新人さん!?

――おい写真撮ったか!? 絶対印刷するぞ!?


 誰だろう? 男女共に歓声が上がるなんて凄いな。


 何となしに皆の注目がランウェイの出入り口へと向いていると、そこから現れたのは突き抜けた笑顔を浮かべた煤原先輩だった。冬コーデとはいえそんなに長時間着用した訳じゃない、なのに汗をいっぱいかいていて、身体全体で楽しいが想像できてしまう。


「そらっちー! モデルやばい! 超楽しい!」


 僕の両手を握ってウサギみたいにぴょんぴょん跳ねる姿は、結構可愛いかも。

 一体どんな表情でランウェイを歩いていたんだろう、とっても気になる。


「ほら急いで! 煤原先輩の次は奏音君だよ!」

「あ、そか、行かないと」


 そしてまた歓声に包まれるんだ。

 夏コーデは肌の露出が多いから、さっきよりもシャッター音が多い気がする。

 お、園田君いるじゃない、売り上げ凄そうだねって視線を送ったら、サムズアップしてきた。

 写真もデータのみ一枚百円で販売になるし、ぼろ儲けなんじゃないかな。

 全額学校寄付になっちゃうのが悔やまれるけど。


――休憩中。

 

「ねぇねぇそらっち、今日の文化祭にスカウトって来てないの?」


 空き教室に設けられた休憩所でくたばってた僕に、煤原先輩が容赦なく問いかける。

 一時間公演の一時間休憩だから、死んだように休みたかったのに。


「とりあえず、斎藤さんはいないね」

「そかー、残念、せっかくの晴れ舞台だったのになー」


 高校生の文化祭にまで足を運ぶ、奇特なスカウトマンはいないと思うけどな。

 予め噂でもあれば別だけど……anyanの時も、行列が出来る店って噂があったもんね。

  

「もしかしたら今日の噂を聞いて、明日スカウトマンが来るかもしれないよね」 

「……そか、布石って奴だね。じゃあ明日の為に種を撒きますかー!」


 立ち上がってそのまま次回の宣伝にあちこち行くらしい。

 元気だなぁ、僕も他の人たちも寝くたばってるのに。

 

「さっきの人、空渡君の知り合い?」

「国見さん……うん、知り合いというか、知り合わされたというか」


 体操着とジャージに着替えた国見さん、まだ髪が汗で張り付いてる。

 照明が熱いんだよな、僕も汗びっしょりになっちゃったし。


「知り合わされた? スカウト意識してたみたいだけど、モデル志望なの?」

「本人はやる気の塊みたいな感じだよ、暴走気味だけどね」

「……ふぅん、それで、どうするの?」

「どうするって、一応斎藤さんと会わせてあげる約束はしたよ」

「え、紹介するんだ」

「紹介だけはね、後は斎藤さんに任せるつもり」


 ふぅん、と一言残すと、国見さんはそのまま無言になった。

 なんだろう、何かダメなところとかあったかな? 


 ……ん? メッセージがある、斎藤さんからだ。

 

『今回の文化祭で、国見愛野と煤原七夕のランウェイ、見比べておいてね』


 どういう意味だ? 二人のランウェイって、僕が見る必要あるのかな?

 今日は無理だから、明日辺りちょっとお願い出来ないか、山林君に聞いてみるか。

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