十月

一週目

 ――月曜日。


 コートまではいらないけど、それでも朝晩はボチボチ冷える。

 紅葉にはまだまだだけど、冬制服に袖を通すとやっぱり夏の終わりを意識する。

 

 十月、来週には文化祭なのに、僕は相も変わらずクラスで浮いた存在だ。


 色々と変わっているのに、高橋さんと僕の関係は何も変わらない。

 変わりようがないよね、もうマイナス以下なんだろうし。


 国見さんも何も変わらず、撮影の時以外は近寄ろうともしない。

 LIMEに書いてまで送る内容もないし、今は完全に放置状態だ。


 一時はアイドルみたいな状態にもなったものの、今はラブレターの一つも来ない。

 旬が過ぎた一発芸人みたいな気分を、なぜか哀愁と共に感じてるよ。


「えー、ここで皆さんに提案があります」


 LHRの時間、文化祭委員の二人が前に出たかと思ったら、何かを発表するらしい。

 文化祭の準備に割り当てられた時間のはずなのに、どうしたのかな。


「ウチのクラスって、教室全部を使った立体迷路って決まってましたけど、ここ最近になって違う方がいいんじゃないかって意見がチラホラと上がってきてまして……ね、森林もりばやし君」

「うん、川海かわうみさんの言う通り、ほとんど同じ準備でもっといい事が出来るんじゃないかってなってね。迷路として使おうとした机や椅子、それと壁紙や照明、音響セットを利用して、パリコレをやってみようかなって思うのですが、皆さんどうでしょうか?」


 パリコレ? パリコレって、パリコレ? 

 あの、洋服とか着てモデルさんが歩く、あれ?


「おー、いいんじゃないか? 撮影なら俺やるぞ? それに余ってるカメラ用意して、撮影体験なんてのも出来そうだしな」

「GOODだよ! 園田君それ良いアイデアだ!」

「あとね、何よりウチのクラスって、現役のモデルさんが二人もいるでしょ?」


 すわっと、皆の注目が僕と国見さんに集まる。

 現役モデルと言えば、モデルですけど。

 

「使わない手はないと思うのよね、他のクラスじゃ絶対に出来ない事が今なら出来る。ちなみにモデルは二人だけじゃなくて、自信のある人は誰でも参加できるようにしたいって思ってるの。高橋さんもスタイル物凄くいいし、イイと思うんだけどな」


 ……何となく察したぞ、これ、最近の嫌な雰囲気のクラスを何とかしようっていうアレだ。

 剣呑とした空気がどうしても漂ってたもんね、樋口さんとか完全に敵だし。


「今更変えるのなんて無しでしょ、夏休みから段ボール集めたりしてたのに?」


 樋口さん、早速噛みついてきたね、怖い怖い。


「段ボールはそのまま活用できるし、BGMも直ぐに変えられるでしょ? フィルムを貼れば照明だってカラフルになるし、机を積み上げてそれっぽくも出来る。スピーカーも迷惑にならない程度の音量なら問題ないって先生にも確認とってあるの……あとは、肝心かなめの二人がどうか、ってとこなんだけど」


 わざわざ名前まで上げられた高橋さんが何と思うか、の方が重要だと思うんだけど。

 それを口に出して言うとまた角が立ちそうだし、かといって諸手を挙げて賛成するのもな。

 

「イイと思うよ、皆がやりたい事をするのが一番だよ。ね、空渡君」


 高橋さん、久しぶりに僕を見てくれたけど……言葉が、重い。

 でも、免罪符を得られたのなら、やるだけやるべきだよな。

 もしかしたら仲直りとはいかなくとも、ちょっとは改善出来るかもしれないし。


「あ、でも私はモデルしないからね。受付とか、手伝いならするから」

「……ありがと、みえぽん。じゃあまずは空渡君、モデル、どう?」


 断れる訳ないでしょ。


「いいよ、大丈夫」

「よし! じゃあ後一人、国見さんは?」


 後ろの席に座った国見さん、頬杖ついたまま何か考えてるっぽいけど。

 まさか、断るのか? でも、国見さんなら十分ありえる。


 ふぅ……とため息ついて、いつもみたいに腕と足を組んでから。


「いいよ、その代わり、めっちゃお金取ってね」


 ニヒルな笑みを浮かべながら、国見さんは川海さんと森林君を見る。

 珍しい、国見さんがそんなこと言うなんて。


「ぃよっし! 現役モデルの二人に加えてオリンピック強化選手の店子とあっちゃ、栗宮くりみや高文化祭功労賞は間違いなしだ! さっそく準備に取り掛かるよ! 設営班は黒板の両サイドに机積み上げて!」

「教室中央にはステージを作るから、目張りだけしとこ! あと衣装もだけど、これはレンタルするから、私と一緒にモデル希望者は先生のとこ行くよ! さー忙しくなってきたよー! 一年二組のみんな、がんばろー!」


 山林君と川海さん、自分達の意見が通って嬉しいみたいだな。 

 確かに、僕が逆の立場だったら同じこと考えるかも。

 モデルが二人もクラスにいるなんて、普通じゃないもんな。


 僕達以外にも数人の男女が「やってみる!」って立候補して、全部で八人。

 これだけいれば短時間の公開でも、それっぽく見えそうだな。 


「それにしても、僕はてっきり国見さんは断るかと思ったよ」

「……そう? 私は高橋さんの方が驚いたけどね」

「うん、彼女がまさか協力してくれるとは思わなかった」

「協力というか、承認というか。でも、これを契機に少しは変わってくれるかもね」


 職員室へと向かう足が軽くなる、何気に国見さんも無視しなかったし。

 マイナスからゼロに、それだけでも進歩と言ってもイイ。

 最近は学校に来ること自体が億劫になってたけど、ちょっとだけやる気出たかも。


――翌週。


 下駄箱に手紙? 久しぶりだな。

 うわ、可愛らしい丸文字、これ絶対女子だ。


『折り入って相談したいことがあります。今日の放課後、講堂裏で待ってます』

『二年三組 煤原すすはら七夕ななた


 でも、面識のない子だ。しかも二年生、一個上の先輩か。

 煤原先輩か……今日はリハーサルとかで忙しいけど、相談ごとくらいなら問題ないかな。

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