三週目の①
八月の第三週、僕の姿は県内の運動公園にあった。
今日のバイトは休まさせてもらい、高橋さんの応援へと駆けつける事に。
『絶対に応援に来てね! 私、本気で頑張るから!』
こんな熱いメッセージまで貰ったら、行くしかない。
学校行事の一つだからと、夏休みにも関わらず制服に袖を通す。
思えば高橋さんへのお返しって、まだ何も出来ていないんだよな。
バイトのお陰で財布は潤ってるし、何か買ってあげてもいいかも。
そんなことを考えながら大会会場へと到着すると、怒号の様な声援が聞こえてくる。
保護者の人たちかな、皆同じ色の半そでを着用して一心不乱に応援してて、なんか凄い。
プールを見下ろすような形の二階席、屋外だから太陽が結構厳しい。
高橋さんが出場するのは200mの個人、それとリレーか。
どこにいるのかな? みんな水着姿だし、あまりキョロキョロするのは良くないかも。
「お、やっぱり来たか空渡」
「あれ? 園田君、来てたんだ」
「あたりめぇだろ、俺写真部だぞ? 大会がある所には足を運ぶんだよ。それに競泳だぞ? 女子の水着だぞ? 外すわけねぇだろうがッ!」
そんなに力強く言わなくても。
確かに園田君、ワイシャツの袖の部分に写真部って腕章をつけてる。
「なんだ、なら一緒に来れば良かったな」
「俺一応学校の応援だからな、水泳部のバスに乗っての移動だから、ムリだぞ」
「じゃあ帰りも別か。残念。それよりもさ、ウチの学校ってどこで待機してるか分かる?」
「空渡……お前ぜってー残念がってないだろ。別にいいけどよ。ウチの学校はほれ、ここから見て右側のエリアだぞ。とはいえプールサイドには選手以外入れないから、大人しくウチの学校の応援団の所で応援しとけって。そんじゃ、俺は撮影があるから、またな! ああそうそう、高橋さんの写真、欲しかったら後でコピーしてといてやるからな!」
そんなこと大声で言う必要ないだろうに。
撮影か……写真部は校内新聞用の写真を掲載するから、どこでも入れるんだな。
情報屋としては便利この上ない、でも、園田君だから精度は低そう。
それにしても、ウチの学校に応援団なんかあったっけ? と、思い見てみると。
なるほど、身内の方々ですか。
僕の両親と同じぐらいの年齢の人たちが、旗を振っていたりメガホンで叫んでいたり。
自分の子供が頑張っていたら、応援したくもなるよね。
高橋さんのご両親もいたりするのかな? でも、いたとしても何と挨拶していいのやら。
無駄に気まずい空気が流れるだけの様な気もするし、敢えて距離を取る方が吉か。
「あ、あの、空渡、君」
「……え? あ、国見さん?」
集団から離れようとしたら、僕の背後には国見さんの姿があった。
先日のヘアアレンジから変わり、今日は髪を下しただけの静かめな感じだ。
「この前はお疲れ様、国見さんも応援に来てたんだね」
「あ、はい、友達が選手として参加してて、応援して欲しいって言われて、その」
「そうなんだ……え、もしかして、その友達って高橋さん?」
顔を赤らめながらも、必死になってウンウンって頷いてる。
撮影時の可愛らしい衣装もいいけど、やっぱり制服姿も可愛い。
結構暑いのに白いサマーセーター一枚着ている辺りは、国見さんっぽい感じがする。
「他にも、何人かで来てるんです。けど、空渡君がいるの、見えて」
「そうだったんだ。一人で来たのってもしかして僕だけなのかな」
「うふふっ……もしかしたら、そう、かもしれない、ですね」
口元に手を当てて微笑んでいて、国見さんの笑顔ってなんだか可愛らしいな。
全体的に可愛いが凝縮された感じがする、モデルの時も自然と可愛い仕草になってたし。
「立ち話もなんだから、適当に座る?」
「……は、はい」
家族応援団からは少し離れた場所に座ると、国見さんも僕の横にちょこんと座る。
プールの方を見ると、現時点で活躍してるのは違う高校の男子たちの様子だ。
少し遠い高台にも水着姿の高校生が見えるから、飛び込みの大会も同時開催しているのかも。
「僕もね、今日は高橋さんに呼ばれて応援に来てるんだ」
「そう、だったんですか」
「うん、高橋さんとは色々とあってね、応援だけじゃなく恩返しもしないとって考えてるんだけどさ。彼女水泳部だから、夏休み中はずっと練習で会う事も出来なくて。何かプレゼントでもしてあげようかなって思うんだけど、国見さん的には、高橋さんは何を貰ったら喜ぶと思うかな?」
高橋さんの女子力って結構高いから、ある程度のものは既に持ってそうな気がする。
友達の国見さんなら、何か僕の知らない情報があるかなって思っての質問だったのだけど。
「え、っと。そう、ですね。みえぽんは……あ、ごめんなさい、みえぽん、高橋さんの事です」
「あはは、本当にみえぽんって呼ばれてるんだね。LIMEのアカウントもその名前だったし」
「知ってる、んですか……じゃ、じゃあ、そのままでいきますね」
こんなこと会話してるって知ったら、高橋さんまた悲鳴を上げそうだけど。
「みえぽん、唇が渇く事が多いって、聞きますので、リップとか喜ぶかも、しれません」
「リップか、なるほど」
「他にも、スキンケア系が喜ぶと、思います。化粧水とか、お肌が潤う系がいいと、思います」
「へぇ……僕じゃ候補にも上がらないよ。ありがとう、国見さんに聞いて良かった」
水泳で水に触れ続けるからかな? とにかく、そっち系が喜ばれるならそれにしよう。
化粧水か……どういうのがあるんだろう、後でドラッグストアで見てみようかな。
「あの、空渡君」
「うん」
「空渡君は、その……みえぽんと、お付き合いしているので、しょう、か?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます