四週目
高橋さんとプールで遊んでから一週間が経過した。
本当は毎日会いたいって言われたけど、大会直前の水泳部員に遊べる余裕があるはずがない。
LIMEは交換してるから毎日の様に連絡は来るものの、その内容は部活で朝が早いとか、今日は友達が何したとか、そういった日常系の内容ばかり。
寂しいとか、好きだとか、そういった彼カノでやり取りする様な内容は一切来ていないのだから、友達の延長線にいる存在、それが今の僕なのだろう。多分。
「そんで? 結局
クラスメイトの
色黒のちょっと不良っぽい感じの健斗だけど、中身はオタクな明るい奴だ。
逆立てた髪型は足りない身長を足しているのだとかで、絶対に譲らないと豪語している。
「どこにも進んでないよ、先週二人でプールに行ったくらいかな」
「は? 二人でプールとか、一回殴ってもいい?」
「ゲームの中ならね。ほら、よそ見してるから場外に卵にして放り出すぞ」
「あ、ちょ、待て! 奏音のヨシオ強すぎるんだよ! 復帰阻止上手すぎだろ!」
大乱闘スマッシュシスターズ。
もうこのゲームも発売から相当経ってるからね、誰だってこのぐらい出来る。
他にも陣取り色塗りゲームもあるけど、あれは熱中しすぎてヤバイ。
「うああああぁ、負けたー! もうやんね! 奏音とは遊ばねぇし!」
「はいはい、それじゃちょっと休憩にでもする?」
「そうだな……っていうかよ、そもそもどうやって高橋さんとあんな仲になれたのよ? 奏音がコンタクトにしてきて急にモテ始めたってなら理解できるんだけどよ、あの感じだとその前から仲良かっただろ?」
コントローラーを充電器に戻しながら、僕は「そうだね」と答える。
「彼女と一緒にコンタクトレンズを買いに行ったんだ、他にも洋服とかも見てもらったし」
「……いつの話よ?」
「いつって言われると、結構前だよ? 期末テスト終わった辺りで約束したんだよね」
期末テストが今月頭だったから、もう三週間くらい前になる。
翌週に二人で買い物に行って、それでプールに行く約束をその日にしたんだっけ。
「知らねぇ間に色々としてんだな……ん? その前はどうなんだ?」
「その前って?」
「いやよ、美化委員で一緒だったのは知ってるんだけどよ、その時はそんなに仲良くなかっただろ? あれは確か五月中頃か?」
「無駄に良く見てるね……確かに、あの時はそんなにでもなかったかな」
校外清掃も男女で分かれてたし、事務的な打ち合わせをしたぐらいで終わってる。
エナの影響を受けて、ちょっとだけ会話が上手になった程度だったかな。
「じゃあ六月だな、具体的に教えてみ?」
「健斗に教えると広まりそうだから、やめとく」
「いやいや、そこ大事なとこじゃね? ウチのクラス可愛いのいっぱいいるのに、誰も交際しなかっただろ? 夏休みなのに野郎だけで花火見に行こうとか言ってる奴もいるんだぜ? 灰色すぎんだろウチのクラス! 男子校かっての! そこに現れた救世主が奏音と高橋さんなんだよ! マジ頼む! 俺の青春を彩り鮮やかなものにするために、何かヒントをくれ!」
土下座までして、どこまで飢えてんだこの男は。
「おかしいと思ったんだよ、急に家で遊びたいとかさ」
「こんなの学校じゃ言えねぇし」
「家でも言わなくてもいいよ」
「そんなつれねぇこと言うなよ! 俺にも彼女が欲しいんだよ! いいや、女友達でもいい! 頼む奏音! 大親友の彼女の連れって結構アリっていうだろ⁉ 美味しいパスタ作ってんのとかいねぇの!?」
意味分かんないし、パスタ作るなら自分で作るし。
薗田君、家庭的なタイプな子が好きなのかな?
「あ、そういや健斗って顔広いんでしょ?」
「おうよ、写真部入ってるからな。取材で全学年相手に回ってるぜ」
「その中でさ、先週プールに行った三年生の集団とか、いたりしないかな?」
僕は他学年に知り合いはほとんどいないけど、写真部の健斗なら何か知ってるかも。
そこからエナに辿り着く情報とかあったら儲けものだ。
「別に、プライベートまで食い込んでる訳じゃねぇからな。サッカー部の試合に今度くっ付いていくから、それなりに聞いといてやるけど……それが何の役に立つんだ?」
「ちょっとね、先週行ったプールでそれっぽいのがいたから、気になっただけ」
「ほぉん……まぁ、OK、分かった。その代わり約束だからな、高橋さんの友達がいたら必ず俺に紹介すること! それを飲めばなんでも引き受けてやる!」
分かったよと苦笑交じりで返答するも、高橋さんの友達とか今のとこ一人も知らないな。
クラスメイトじゃ仲良さそうにしてる子は結構いるけど、特定の子って言うと、誰だろ?
「さってと」
健斗が帰った後、僕は改めて自作のクラスメイト一覧を眺める。
エナが誰か知りたくて作った、最初期に作成したものだ。
この一覧から、確実に外していける子を外していく。
とりあえず高橋さんはない、彼女がエナだとしたら相当に策士だ。
更に言えば、同様に水泳部の女子もなしと言えよう。
事情を知る高橋さんがエナの存在に気づかないとは思えない。
高橋さんに近い子もなしだろうな、プライベートでも良く遊ぶと思うし。
「となると……そんなにいないのかも」
クラスメイトであることは確かだ。
何故なら僕がコンタクトである事を知り、高橋さんの名前まで告げてくれた
更に言えば、エナはコンタクトを使用していない。
だからこそプールでの「見えてないの?」発言に繋がる。
メガネ着用も無し、さすがにそれくらいは僕の眼でも分かる。
「……七人、か」
それでも、確認するには多い人数だ。
しかもエナの黙秘は筋金入りの、それこそ女優レベルの演技派なのも想定できる。
僕との関係を把握した高橋さんですら未だに誰だか分かっていないのだから、相当だ。
「あれ? でも待てよ、高橋さんがエナの事を喋ってなかった、とも言ってたよな」
となると、それなりに近いのか? 近いのにバレてないってこと?
ダメだ、順調にいってたと思ってたのに、なんか振り出しに戻った感じ。
頭をワシャワシャしながら、二十四人の女子を相手に、逡巡を重ね続ける。
★
『とりあえずサッカー部はねぇな、先週の土曜日も部活だったってよ』
「そっか、ありがとう」
『約束忘れんなよ! パスタだからな、パス――』
通話終了っと。
サッカー部は無しか、結構ありそうな感じしてたんだけどな。
それでも、数ある内の一つは潰れてくれた。
少しづつでいい、少しづつ積み上げていこう。
エナという女の子は、間違いなく存在するのだから。
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