二週目

 火曜日に期末テストを終えて、全ての科目が金曜日には返却された。

 点数に一喜一憂してるクラスメイトの中、僕は一人想像以上の結果に驚く。


「うわ、凄い、クラス一位じゃん!」


 放課後、約束だからと、僕の横には一緒に帰る高橋さんの姿があった。

 水泳部は大丈夫なのかと聞いたら、補修で半分以上が休みで、今日は部活が無いのだとか。

 八月には大会もあるのに何やってんだろうねと、彼女は白い歯を見せて微笑む。


「エナちゃんにも頑張り、届いてると思うよ」

「だといいんだけど。それよりも、今日は付き合って貰って平気なの?」

「いいよ、約束だって言ったでしょ。それに買い物とかなら普通に付き合うし」


 僕と一緒にいる所を見られて、変な噂でも立ったら……って心配するのは、僕だけなのかな。

 当たり前の様に高橋さんは僕の横を歩き、どことなく嬉しそうにこちらを見る。


「それに、今日はコンタクト記念日でしょ?」

「うん、両親にお願いして、眼科代とレンズ代も貰えたし。他にも洋服とかも新調したいかな、あまり服とか意識して買ってこなかったから、そこら辺のアドバイス貰えたら助かるかも」

「OKー、いいよ、私目線で評価してあげるからね」

「お手柔らかに頼みます」

「任せときなさい、泥船に乗ったつもりで安心していいよ」


 とんって自分の胸を叩く高橋さん。

 泥船? って突っ込んだら、顔真っ赤にして「私は泳げるから!」って反論してきたけど。

 それって僕は沈みっぱなしなんじゃないかなと、思わず苦笑する。


 二人で駅まで向かい、そのまま電車に乗り込みターミナル駅へと向かう。

 エナと一緒に来た時には何にも見えなかったこの駅も、眼鏡ありなら何の問題もない。


「コンタクトレンズは初めてですか?」

「はい、あの、僕の視力0.01以下なんですけど、大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だと思いますよ。とりあえず、一度視力検査しますからね」


 待合室に高橋さんを残して、僕は一人診察室へと向かう。

 メガネを購入する時は、店員さんが視力検査とかして終わりだけど。

 コンタクトレンズは眼科で診て貰わないとダメなんだとか。


「レンズを付ける練習もしますからね、はい、目を開けて」

「…………あ、ついた」

「どうですか? 見え方に問題はありますか?」

「いえ、ない、です」


 驚くほどに良く見える、眼鏡との違いと言えば、やっぱりフレームが視界に入らない事か。 

 あとは、どんなことをしても曇らない、これが思っていた以上に大きい。

  

 一旦メガネに戻るも、在庫があるとの事で即日購入。

 思っていたよりも早く、僕の手元にコンタクトレンズが届いてくれた。


 待合室でスマホをいじっていた高橋さんと合流し、二人でフードコートへと向かう。

 時間は既に午後六時近いけど、それでもここは空いていた。

 平日だからかな? 何はともあれ、ちょっと疲れてたから椅子に座れて良かった。


「父さんはメガネ派なんだけど、母さんはコンタクトレンズ派なんだ」


 テーブルに置いたコンタクトレンズを見ながら、昨日喜んでいた母さんを思い出す。

 両親共に視力が悪いからこそ、僕のお願いをこうもあっさりと聞いてくれたのだろう。

 安い買い物じゃないのに……両親には感謝しないと。


「そうなんだ。ご両親とも目が良くないんだね」

「うん、だから視力って遺伝なのかなって思ってる」

「でも、これで視力1.0になるんだもんね。コンタクトって凄いね」


 毎日使うものだからという事で、一か月に一回で交換するタイプのレンズを選択した。

 専用の保存液とか色々と購入したけど、何はともあれ装着しないと始まらない。

 

「なんか、ドキドキするね」

「うん、自分の眼に物を入れるとか、ちょっと怖いかも」


 何回かの失敗ののち、ふっと自分の眼にレンズがぴったりと張り付いてくれた。

 瞬間、目の前にある高橋さんの笑顔に、思わずドキッとする。


「わ、やっぱり空渡君はコンタクト一択だよ」

「そう、かな?」

「うん、全然違う。超カッコいい」


 まだ、ちょっと目に慣れないけど。

 でも、そのうち慣れてくれるかな。


 大きな買い物が済んだ後、続いて洋服を一緒に見て回ることに。

 こんな僕に付き合ってくれるなんて、高橋さんってかなりいい人だ。


「空渡君ってさ」

「うん」

「実はモテるでしょ?」

「え? いや、そんなことはないよ」


 試着室で着替えを終えた僕を見て、突然何を言い出すかと思ったら。

 コンタクトレンズにして洋服を変えただけで、人間そんなに変わらない。

 エナもそうだったけど、高橋さんも僕に気を使ってくれてるんだろうな。

 

「出来ないこと多いし、一緒にいたら疲れるだけだと思うよ」

「出来ないことって、例えば?」

「そうだね……高橋さんの身近なもので例えると、泳ぐこととか」

「え、空渡君、泳げないの?」


 自慢じゃないが泳げない。

 目が悪いからっていうのもあるのかもだけど、泳ぎはからきしだ。


「じゃ、じゃあさ、空渡君」

「うん」

「今週は部活とかでダメだけど、来週から夏休み入るでしょ? そうしたらさ、私と一緒にプールとか……どうかな?」


 クリアな視界で、高橋さんが後ろ手にモジモジとしながら提案する。


「水泳部の高橋さんと一緒に? え、だって、僕本当に泳げないよ?」

「だ、だから、私が泳ぎを教えてあげるって言ってるの。エナちゃん戻って来た時に、泳げた方がきっと喜ばれるよ?」


 エナが戻ってくる時って、多分恋愛成就した時だと思うけど。

 って、ダメだろ、吹っ切らないと。

 部屋に引き籠ってるよりも、運動第一だ。


「あ、ごめ、私、なに言ってるんだろ」

「ううん、いいよ」


 思えば、クラスメイトの女の子とプールなんて、生まれて始めてだ。

 僕みたいな男を誘ってくれる高橋さんには、感謝しかない。


「来週の土曜日、スパルタでお願いします」

「かっこいぃ……あ、うっ、うん。こほん。宜しい、スパルタで教えてしんぜようぞ!」


 頬を赤らめながらも、来週の約束をしてくれた高橋さん。

 なんだかとても仲が良くなった気がするけど……まだ、僕の中にはエナがいる。

 不思議だよね、顔も名前も分からないのに、なんでかな。

 随分と女々しい自分に、ちょっと腹が立った。






――

多分今日、寝ちゃってまともな時間に更新できなさそうなので……。

こんな時間に更新すいません。

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