第10話

 先にベイ・ブリッジへ着いたブリュエット氏と私は、橋の湾側に車を停め、連中が来るのを待っていた。

 

幸い今夜は月がない。


 湾からの風も弱まった。


 彼方に、街明かりを背にしたエンジェル島のシルエットがかすかに見える。

 マスタングのヘッドライトが橋の中央を照らし続けていて、視界に広がる街の夜景から切り離されたように、我々の周囲だけが闇に包まれていた。


「そろそろ時間です。用意は?」


「うむ。出来ている」


 ブリュエット氏はライトをかざした。


 約束の7時を十分ほど回ったところで、橋の向こうに二台のキャデラックが滑るように現れた。


「来たぞ」


 ブリュエット氏が武者震いをしたようだ。


「しくじれば皆殺しです。気をつけて」


 私はそう耳打ちして、彼を運転席から送り出した。


「さあ、行って」


 ブリュエット氏はライトを点け、ヘッドライトの光の輪の中へ立った。


 頭上高くかかげ、左右に振る。


 前のキャデラックから、男が一人降りた。


 それから、もう一人。


 シルエットからすると女だ。


 男はライトを振った。


「ジェシィは無事か!」


 ブリュエット氏が叫んだ。


 二人の降り立ったキャデラックのヘッドライトの中に、もう二人が立った。


 そして、後の車からはコートをまとった長身の影が一つ。


 ライトの中へと進み出たその男は、まぎれもなくエディ・バニヤーだった。


「御覧の通り無事だよ。それにしても、馬鹿正直に一人で来るとはな。いい度胸だ、褒めてやる」


 バニヤーは葉巻をくわえた。


 連中からは、ハンドルの下に隠れているこちらの姿は見えないはずだ。


 夜の闇と橋の距離だけが味方だった。


「フランク、まだ遅くないわ。お願いだから考え直して!」


 ジェシィの声は私にも聞こえた。


「聞いたかね、ブリュエット。いい娘さんじゃないか。この子を悲しませないためにも、さあ、さっさと始めよう」


 バニヤーの投げ捨てた葉巻が、明かりの中で弧を描いた。


 それを合図にライトを持った男がジェシィを連れて歩き出した。


 ブリュエット氏のライトも橋の中央へ向かって進んで行く。


 ゆっくりと、だが確実に相寄る二つの光。


 私はハンドルに手をかけたままじっと待った。


 サムはうまくやってくれるだろうか。

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