第5話
「モンタナ」の他にも三軒のナイトクラブを経営しているブリュエット氏から依頼を受けたのは、二日前のことだった。
「男が要る。すこぶる腕のたつ奴だ」
私を見るなり、彼は言い放った。
「ミステリーの読みすぎです。私立探偵が皆マーロウだと思っちゃいけない」
「いくら要りようだね?」
「一日200ドルと経費が少し。銃が要るならもう少し」
「それで私は安心が買えるというわけかな」
「依頼によりますね。まずは詳しいお話を伺わないことには、何とも言えません」
ブリュエット氏の顔に微笑が浮かび、静かに肯いた。
「妥当な答えだ。私でもそう言う」
ブリュエット氏の事務所は、店の外見からすればこぢんまりしている。
窓辺のデスク脇に飾り気のない書類棚。
床は一面グリーンのカーペットに覆われている。
おしるしばかりに飾られた壁の絵は、どれも色気のない山や湖ばかりだった。
私はブリュエット氏と向き合い、ソファに座っていた。
「このモンタナは、一年前に亡くなった友人から譲り受けたものでね。私なりに全力を傾け経営に当たってきたつもりだ。幸い店は軌道に乗り、今じゃ御覧の通り大繁盛している」
私は肯いた。
「だが、出る杭は打たれるものだ」
ブリュエット氏の表情が曇った。
彼はふと黙り込んだ。
促すことなく、私はその口が開かれるのを待った。
やがて、ブリュエット氏は言った。
「エディ・バニヤーを?」
「知ってます。泣く子も黙る街の顔役だ。市長との黒い噂もある」
「店をよこせと言ってきた。むろん断ったが、すると今度はお決まりの脅迫だ」
ブリュエット氏は、書類棚から青いファイルを取り出した。
「ひと月ほど前から実力行使に出てきおった。従業員の中には店を辞めろと脅された者もいるようだ。実際、売り上げもかなり落ちてきている」
「なるほど」
「私も店のことだけならこんなに頑固に撥ねつけたりはせん。さっさと売り渡した方が楽だとわかっている」
彼はソファから立ち上がった。
「来たまえ。その理由をお見せしよう」
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