第2話

 スーツの男に率いられる格好で、私たちは下のバーへ降りた。


 サングラスの若者が背後から銃口を突きつけている。


 バーのフロアも無人だった。


 カウンターの向こうにも人影はない。


「なあ。あんたらが店に来た時、バーテンはいなかったのか?」


「バーテン? そういや、さっきまではいたっけな。そいつにお前のことを聞いたんだ。大方、客もねえんで遊びに行っちまったんだろ」


「そうか。いたのか」


 私はポケットの中のナインボールを握り締めた。


「いい機会だ。あそこから一本もらっていこうぜ。どうせ誰もいないんだし」


 私がカウンターの方へ踏み出すと、


「待ちな」


 若者が銃口を押しつける。


「おかしなマネをするんじゃねえ。ちょっとでも動いたらあの世行きだぜ」


 蛇が唸るような嗄れ声だった。


「堅いこと言うなよ。酒がなくちゃ仕事どころじゃねえんだ。頼むよ、飲ませてくれ」


 私は這いつくばって懇願した。


「世話のやける奴だな。しょうがねえ、一本だけだぞ」


 スーツの男が顎をしゃくると、若者は渋々銃を手渡し、カウンターへ歩いて行った。


「安物はゴメンだぜ。そこの一番上のだ」


「うるせえ。テメエにゃこいつで十分だ」


 彼はめんどくさそうに安酒の並んだ下の段へ手を伸ばした。


「サム、今だ!」


 叫びざま、私は右のテーブルの列へ飛び込んだ。


 スーツの男が振り向きざまに一発撃った。


 狙いが高めにずれて、壁に当たった。


 駆け出そうとした若者の後頭部へ、カウンターの下からぬっと立ち上がった長身の黒人が、酒瓶を叩きつけた。


 砕けた瓶から流れ出たウイスキーが、純白のシャツを褐色に染め上げた。


 一瞬よろめきつつも、彼はなお振り返って殴りかかろうとする。


 サムはその胸倉をつかみ、相手の勢いを利用して後ろの棚へ投げ飛ばした。


 長身を拳銃が狙っていた。


「伏せろっ!」


 私は怒鳴ってテーブルの下から立ち上がり、ポケットの黄色いビリヤード玉を、銃を構えた男の方へ思い切り投げつけた。


 どこかへ当たればいいと闇雲に投げた玉が運良く相手の手首に命中し、拳銃が床に転がった。

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