掃除屋稼業
令狐冲三
第1話
「自由業の魂は骨董品だ。そのココロは?……高すぎて金じゃ買えねえんだよ」
カウボーイ・ビバップ「よせあつめブルース」
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難しい位置に残っている。
ビリヤード台のナインボールをサイドポケットへ落とすため、私は身を乗り出した。
頭の中で、手玉がいろんな角度で転がった。
なので、彼らがいつ二階へ上がってきたか知らないし、台の向こうに立っていることも、的玉がポケットに落ちるまで気づかなかった。
男は二人いた。
一人はがっしりした体格で、黒っぽいスーツに幅広のストライプのネクタイ。
グレーがかった髪色で、くわえ煙草の指先にはきれいにマニキュアが施されていた。
もう一人はチンピラ然とした小柄な若者で、ブルーのスポーツジャケットを羽織って、白いシャツの胸元を大きくはだけている。
黒いサングラスの顔は、私より五つは若いだろう。
ブロンドの髪を短めに刈り上げていた。
「おい、掃除屋」
スーツの男が呼んだ。
フロアを見回したが、私の他には誰もいない。
「掃除屋だろ、お前」
「この辺じゃそう呼ばれてる」
私は台のポケットから黄色いナインボールを取り出し、連中に気づかれぬようズボンのポケットに滑り込ませた。
「仕事だ」と、彼は吸っていた煙草を台に擦りつけた。
ジュッと音を立ててラシャが焦げ、煙が立った。
「表の車で一緒に来てもらおう」
「どこのビル掃除だね?」
私の問いかけに、スーツの男は唇を歪めた。
「あいにく、くだらんジョークに付き合ってる暇はないんでね」
サングラスの若者へ顎をしゃくる。
私がそっちへ目を遣ると、若者の手にはいつしか拳銃が握られていた。
「おいおい、短気はよせよ。俺を撃ったら仕事が片づかなくなる」
「いざとなれば、お前の代役なんぞいくらでもいる。それを忘れんことだ」
スーツの男がドアを開け放つと、下へ続く階段が現れた。
「さあ、出ろ」
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