第7話
夢穂は何が起きたかわからずしばらく固まっていたが、その間も影雪はおかまいなしに白米と一緒に指をはむはむしていた。
本日二度目となる悲鳴が上がる前に、影雪の額に
白い和紙に達筆で走り書きしたそれを投じたのは業華だ。
「影雪……今度そのようなことをすれば、狐用の札で滅しますよ」
影雪は札に操られるようにのけぞると、僅かに身体を浮かせ、後ろの畳に尻もちをついた。
「断りもなく夢穂に触れるとは許しませんよ、ちなみに本人だけでなく、この業華お兄ちゃんの許可も必要ですからね」
「お兄ちゃーん!」とすがりつく夢穂の頭を、よしよしと言いながら撫でる業華。
その間影雪は額の札を剥がそうとしたが、思うように行かないので早々にあきらめていた。
「おにぎり、美味い」
口の周りに米粒をつけながら真剣に言う影雪に、怒る気も失せる夢穂。
しかし業華の札がついたままなのに、自由に口が利けるところを見ると、何か特別な力でもあるのかと思った。
「影雪はバカではないのでしょうが、いささかマイペースが過ぎますね」
気を取り直して畳に鎮座し、繊細なガラス細工の酒器で中身をお猪口に注ぐ。
透明感のある
揺れる水模様を眺めながら、業華はゆっくりと口を開いた。
「私はあやかしの世界とこの世界を行き来できる
「右目の模様がその切符みたいなものなのよね?」
右目周辺に入った紋様を指差して言う夢穂に、業華が頷く。
「通紋が出たのなら道の通過は可能でしょうが……」
業華は話の途中で、影雪の額に貼られた札を引っ剥がした。
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