トビラ開けて
もえごろう
トビラ開けて
僕の部屋にはトビラがある。
部屋に扉があるのは当たり前ではないかと思うだろうが、みんなが想像する”扉”とは違う。通常、部屋にある扉と別にトビラがあるのだ…。
ああ、今日もトビラの向こうから声がする。「トビラ開けて」と。
こいつが現れたのはおよそ1年前、僕が不登校になった1週間ほど後だった。クラスで起きたいじめのせいで学校に行けなくなった。
あの子が自殺してしまうほどの酷いいじめだったとニュースで見た。トビラが現れたのはあの子が死んだ翌日でもあった。
実は僕もそのいじめの被害者の1人。クラスで寄ってたかってあの子と僕2人を酷い目に合わせた。
内容は至って典型的なやつだ。物を隠したり、殴る蹴る。僕は先に虐められてたあの子を庇って標的になった。
後悔はしてないけど。
あの子は僕が学校に来なくなっても登校してたのか教室で真っ赤に死んだ。みんなへの腹いせかまだ誰もいない早朝の教室で。これなら見て見ぬふりした先生も逃げられない。
ヤッテヤッタな。僕はあの子の勇気が恨めしいほどだ。
あの子はいつもどんなに酷いことをされても泣いたりしなかった。強がってた。
そんなあの子が哀れに見えて僕は助けてやったんだ。案の定いじめの標的になったけど。
そのおかげであの子は少しは笑うようになった。僕があの子の心のトビラを開いたんだ。
そうやってあの子のことを思い出してたらトビラの向こうからまたあの声がした。
「トビラ開けて」
…およそ1年も毎日毎日、毎日毎日、いい加減頭がおかしくなりそうだ。僕だって被害者なのに。
無性に腹が立った僕は初めてトビラに返事を返した。
「開けないよ、もし開けたら僕を殺すんだろ?」
早朝の学校にあの子を呼び出して話をしたことを思い出した。いじめが辛くなって僕だけが逃げたことどう感じてるのか気になって。
「僕は大丈夫だよ」
あの子は言った。笑って言ったんだ。本当に強い心を持ってる。やっぱり君が恨めしいよ。僕は隠し持っていた包丁で君を刺した。
「トビラ開けて」
またあの子が言う。
開けてやるもんか。僕はあの子を無視して扉を開けた。そろそろ晩御飯の時間だ。カレーのいい匂いがした。
トビラ開けて もえごろう @moegoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます