夜の町を巡るもの

孤兎葉野 あや

夜の町を巡るもの

「街灯がほとんど無くなってきたし、

 今夜は月も出てないから、って感じになってきたね。」

「だからこそ、見回りをしてるんでしょ。

 私は霊的なもの専門だから、物理も強そうなあんたも一緒にね。」

家々の明かりはほとんどが落ち、町も眠りについたと感じられる深夜の通りを、

二人の少女が、言葉を交わしながら行く。


「うんうん。まあ、私もから、そっちもお任せあれ。」

「それを言われると、自分の存在意義が怪しくなってくるのよね・・・」


「まあまあ、神社の家に生まれて、こういう見回りも率先してやってるって、

 美園は凄いと思うよ。私も力を持つまでは、想像もつかなかったし。」

「そ、そう・・・? まあ、最近は霊的な可能性がある騒ぎを聞く機会が多いから、

 少し増やしてはいるんだけどね。

 あとは、あ、あんたがいれば安心して出来るってのも、正直あるわ。」


「ミソノさん、ちょっと顔が赤いのでは?」

「それは、言わないであげたほうが良いかな・・・」

「おい、そこ。何をこっそり話してた?」

自らの知らぬところで、交わされたと思しき言葉を察し、

美園がじろりと視線を向けた。


「えー、なんでもないよー・・・って、何か横切った?」

「うん? 霊的なものは何も感じなかったけど、野良猫とかじゃないの?」


「いや、猫ならさすがに驚きはしないけど、

 尻尾の形とか、多分違ったんだよなあ。」

「それはそれで気になるけど、本来の目的としてはどう思う?」


「そっちのほうは、私も無いと思うけど・・・ソフィアはどう?」

「はい、アカリ。念のため探索魔法サーチを・・・・・・お待たせしました。

 確かに小動物らしき気配はありますが、

 霊的な存在や、それに操られたものがいる感じはしませんね。」

ファンタジーの世界から飛び出してきたような、神官服を纏った少女が、

うっすらと姿を現し、もう一人の少女と言葉を交わした。


「ありがとう、ソフィア!

 それなら、本当に見慣れない動物がいただけみたいだね。」

「どういたしまして、アカリ。」


「・・・それは良かったけど、よくよく考えたら、

 霊的な存在とか、操るどころか完全に意思疎通してるのとか、

 私のすぐ隣にいるのよね。」

「えー、だって私は異世界帰りだし。」

「私もアカリに付いてきちゃいましたし。」

頭を抱える美園の隣で、二人が笑顔で言った。


「うん、それは重々承知してるけど、普通に霊的なものに出くわすより、

 よっぽどレア度が高いやつが、身近にいることを思い知らされるわ。」

「あはは、今更今更。」

「はい、アカリに同感です。」



*****



「一通り歩き回ったけど、危なそうな霊も人も、今夜はいない感じかな?」

「そうね。この辺にいないのなら、何よりだわ。」


「私も怪しい気配は感じませんでした。

 しかし、こちらの世界の町を探索するというのは、楽しさも覚えるものですね。」

「うんうん、私もソフィアのところに行ったばかりの頃は、

 色々なものが新鮮だったよ。」


「・・・楽しそうなところ悪いけど、

 あんたがさっき言ってた、見慣れない小動物、思い当たる節が一つあったわ。」

「えっ、なになに?」


「最近、神社絡みの人達から小耳に挟んだのよ。

 この辺でも外来種の動物が・・・そう、確かハクビシンが目撃されてるって。」

「ハクビシンね・・・ちょっと検索すると・・・

 あっ、さっき見た動物の尻尾、確かにこんな感じかも。」


「そっか・・・危険な霊を探しに来て、外来種を見付けちゃったわね。」

「ガイライシュ・・・とは何でしょうか?」


「えっとね、ソフィアのところで似たような話だと、

 遠くのほうから、今までいなかった種類の魔獣が何匹も流れてきて、

 被害の恐れとか対策があまり知られてないから、ちょっと大変って感じかな。」

「そ、それは確かに大変です・・・!」


「まあ、魔獣みたいな被害が、こっちの世界で出るわけじゃないけど、

 その外来種が生存競争に強いと、今まで慣れ親しんできた動物が数を減らしたり、

 直接的にか間接的にか、農作物に被害が出るなんて話も聞くね。」


「なるほど・・・こちらの世界も大変なのですね。」

「うん。程度の差こそあれ、そういうところで悩むのは、

 向こうもこっちも同じかなあ。」


「お二人さん、盛り上がってるところ悪いけど、

 夜更かしは体力にもお肌にも響くわ。そろそろ帰ってお休みにしない?」

「そうだね、私達も帰ろうか、ソフィア。」

「はい、アカリ。」

深夜の町角で、三人が手を振り合い、やがて静けさが辺りを包んだ。

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夜の町を巡るもの 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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