第32話 オウナイ一味の最期
翌朝、ログとレクシアに仕事の話を伝えた後、五人は宿を後にした。
五人と言っても、泊まっているのは二人と言うことになっているので、堂々と外にでられるのはアクアとキャロンだけ。
ログとレクシアはいつも通りベアトリスの認識を消す魔法で裏口からそっと外に出る。これはベアトリスと手を繋いでいる間だけ有効なので、ベアトリスの両手がふさがってしまうのが欠点である。
もちろん町の門を出るときも同じだ。ログとレクシアの存在は完全に隠されていた。
「歩いて行けば昼前には着くだろう。ログとレクシアは私の魔法で強化してやる。じゃないと、城に着く頃には倒れてしまうだろうからな」
キャロンはそう言ってログとレクシアに魔法をかけた。ログとレクシアは緊張した顔で三人の美女達に着いていく。
歩きながら、ログはキャロンに話しかけた。
「この依頼をした人はどんな人なの」
「冒険者は依頼内容を人に話してはいけない。・・・だが、おまえ達には必要か」
キャロンはモンテスのことを話した。そしてついでに城の生い立ちも説明する。
「盗賊が住み着いたのは最近なの?」
今度はアクアが答えた。
「一月前はいなかったらしいぞ。この城はもうずっと使われていないんだ。依頼者のジジイは月に一回くらい散歩がてら来ていたようだな」
それからもログは色々と尋ねてきた。どうやら初めての冒険で気が逸っているようだ。
そして、太陽が上に昇りきる前に、五人は城に着いた。
ログが緊張した面持ちで再度キャロンに尋ねる。
「何でこんな寂しい森の中にあるの」
森の中にひっそり佇む小さな城は怪しい雰囲気がある。もう何度も来ているキャロン達はあまり気にならないが。
「何十年も城としては使われていない。元々この周りに町があったようだぞ。手狭になったから発展するためにあの場所に移動したんだ。領主も城じゃなくて町の中の館に住んでいたようだ」
アクア達は城に近づいていく。
ログとレクシアは疑問に感じた。盗賊がいるのなら見張りがいるはずだ。これだけ堂々と近づいてバレないわけはない。しかし彼女たちは気にした様子がない。
城の手前でベアトリスは立ち止まり、ログに装飾剣を、レクシアに装飾杖を渡した。
「これ渡しとくわね」
「これは?」
ログもレクシアも困惑していた。何しろこれらは実用品ではない。あくまで飾るためのものである。渡されても使用に耐えられるかわかったものじゃない。
ベアトリスは苦笑した。
「重くなくて手頃な奴がそれしか見つからなかったのよ。魔法が付与してあるから、見た目はあれだけど、ちゃんと普通の剣として使えるくらいの強度はあるわよ。杖の方も多少の魔法のサポートはできるようにしてあるから」
「どうせ危険はないんだ。御守りのつもりで持っていなよ」
アクアが言う。
ログとレクシアの任務は危険は無いと言うことになっている。彼らの役割は上の階から下って、城の内部に異常が無いか確認してくることなのである。城に住み着いた盗賊をキャロン達が討伐し、それと並行してログ達が調査する。
もし盗賊が来たらログ達には隠れるように伝えてある。
ベアトリスが言った。
「うん、まだ全員中にいるわね。だけど昼を過ぎたらどこかに行くかもしれないわ。早速始めましょう」
「じゃあ、行くぞ。準備しろ」
ログとレクシアの持ち物を全て荷物袋の中に入れ、キャロンが背負った。そしてログとレクシアを抱き合わせる。
キャロンの飛行魔法で一気に塔のてっぺんに行く予定なのだが、キャロンの飛行魔法は自分以外の物を運ぶように設定していない。だから、この二人を荷物として抱えて飛ぶ。以前と違うのはベアトリスの結界で包まれていないので、ベアトリスのサポートを得られないことだ。だから二人には一つにまとまっていてもらう必要がある。
「落とされたくないだろ。もっと強く抱き合え」
キャロンは二人に命令する。兄妹は更にしっかり抱き合った。実際には冗談だ。それほど強く抱き合わなくても、風の魔法で支えるから大丈夫なのだ。
「うーん、まだよね。じゃあ、もっと完全に繋がっちゃえば良いわ」
ベアトリスが調子に乗る。
「おっ、それは良いな」
アクアも便乗した。
「じゃあ、時間が無いから急いで○○になれ」
キャロンも二人の意図を覚って、あおる。
ここでも三人の悪のりが大々的に発揮された。
ログとレクシアを抱えて飛ぶキャロンを、アクアとベアトリスが見送る。
「あーあ、これであの二人の○○も見納めなのね」
「さんざん楽しんだんだから、良いだろ。私はさすがにもう飽きた」
キャロンが塔の頂上に入った。空気がきしむ音がした。ベアトリスが言う。
「結界が壊れたわ」
ベアトリスの作った結界はキャロンが突っ込めば壊れるようにしてあった。
その時、城の屋根から小さな動物が降りてきた。そしてよたよたしながら森に逃げていく。
「あれが霧の魔獣か。ずいぶん弱っていたな」
「城に霧がかかっていなかったくらいだから、もう死ぬ寸前だったんじゃないかしら。二回りくらい小さくなっていたし。あと一時間保ったかどうか」
「まぁ、魔獣なんだから殺されなかっただけで運が良かったんだろ。行こうぜ」
アクアとベアトリスは、城に向かって走り出した。
*
カイチックが駆け寄ってくる。
「何か魔法をかけられたのですか。誰に会ったのです」
「わからない。誰にも・・・」
その時カイチックは空気が揺れるのを感じた。
「ん、何だ。これは」
カイチックは声を上げた。エイクメイは驚いてカイチックを見る。カイチックは周りを真剣な目で見渡した。
「これは、魔法をかけられていたのか」
「どうした、カイチック。エイクメイに続いておまえも変になっちまったか」
オウナイが言う。
しかしカイチックは厳しい表情で声を上げた。
「何かの攻撃を受けています。皆さん。武装してください」
しかしみんなはすぐに動かない。
「おい、野郎ども、カイチックの言うことがわからないのか、すぐに戦闘準備だ!」
オウナイはすぐにカイチックの意図を読み取って命令する。
オウナイにもカイチックが何を言っているのかはわからない。しかし長年一緒に行動してきて、カイチックが冗談を言うような人間ではないと知っている。
全員がわらわらと動き出す。それでもエイクメイはおろおろとしていた。
オウナイはカイチックのそばによる。
「何があった」
「正確にはわかりません。しかし、ここにいた全員が魔法の影響下にあったのは間違いないでしょう。道具を使った儀式魔法の可能性があります。そもそもエイクメイとホーボーが戻ってきたこと自体が異常です」
盗賊達が武装して集まってきた。ちょうどその時、正面の扉が開く。
「よう、久しぶり」
「元気してた。良い夢は見られたかしら」
一人は紅毛でビキニアーマーの小柄な女性。もう一人は長い黒髪でローブをまとった女性だった。
「貴様、あのときの!」
盗賊達が叫ぶ。
「あっ!」
エイクメイは黒髪の女性を見て記憶を取り戻した。グレスタへの道で出会った女性。
ベアトリスはエイクメイを見てにんまり笑う。
「チェリーボーイちゃん。初体験はどうだった」
そこにオウナイが割り込んでくる。
「そっちの女が例の仲間か。二人揃って来てくれるなんて、ご苦労なことだな。手間が省けたぜ」
「油断しないように。彼女達は卑劣な魔法を使うようです」
カイチックが言う。
「手間を省いたのはこっちの方だぜ。とりあえず全員集めたかったんでな。ちりぢりになっていると面倒だろ。こうして集めちまえば、あとは全員ぶっ殺せば良いだけだ」
「そうそう。とりあえず、もう逃げられないようにしたから」
アクアとベアトリスが言う。
「まさか、結界魔法か。邪道な魔法ばかりを」
「魔法に邪道も正当もないのよ。そんなんだから私に良いように操られるの」
盗賊達はアクアとベアトリスを囲った。アクアの背後から一人の盗賊が斬りかかる。
それが戦いの合図となった。
アクアは剣を打ち返すと、その勢いで男の懐に潜り込み、剣を突き上げた。男は首を貫かれて倒れる。
背後から斬りかかってきた盗賊の剣をアクアはぎりぎりで避け、勢いのまま横に振り抜いて男の首を切り落とした。
アクアは盗賊達の剣を恐れず至近距離で、剣を振り回す。そうすると盗賊達は同士討ちを恐れてうまく攻撃できないのだ。
アクアの剣で横から切りかかってきた盗賊の腕が飛ぶ。アクアは正面の男に腹に剣を突き立て、すぐに蹴り飛ばした。男は内臓をこぼしながら倒れた。
「弱い、弱すぎる。もっと真面目にやれよ」
アクアが吠えた。
ベアトリスもまた、囲まれていた。次々と剣が振り下ろされる。しかしベアトリスはゆらりゆらりとその剣を避ける。
どの盗賊の剣もベアトリスには当たらなかった。ベアトリスは一人の男の剣を避けて、その手を握る。
「はい、痺れちゃいましょう」
鋭い電撃を受けて、その男は剣を落として倒れた。ベアトリスはその男の喉を踏みつぶした。
「女の子に乱暴しちゃダメよ」
ベアトリスは笑う。
「こいつら、戦い慣れしてやがる。おまえら、いったん離れろ!」
戦況の悪さにオウナイが叫んだ。
技術の無い盗賊達が闇雲にかかっていっても被害が増えるだけだ。オウナイは彼らに剣を指南したが、彼らが真面目に修行をしたわけはなく、無抵抗な農民達を殺すのに十分な力をつけたところで技術が止まっている。冒険者や衛兵達と斬り合う能力があるわけじゃない。ましてや乱戦での立ち回り方など当然理解していない。
再度アクアとベアトリスの周りに空間ができる。
「私の出番ですね」
カイチックは素早く呪文を唱えて杖を振った。
横薙ぎの風が二人に襲いかかった。盗賊達は慌てて逃げた。しかし、逃げ遅れた盗賊の二人がその風で胴体を裂かれて転がった。致命傷ではないようだが腹を押さえてうめいている。
「おい、気をつけろ」
オウナイがカイチックに叱責する。
しかしカイチックはまっすぐ前を見たまま固まっていた。
「何だと?」
「なかなかの威力だな。まぁ、私の肌には傷をつけられないみたいだが」
切り裂く風の攻撃を受けたアクアはまるで何事もなかったかのように立っている。
「乙女にそんな攻撃はダメよ」
カイチックの背後でベアトリスの声がした。ベアトリスも切り裂く風の攻撃を受けたはずなのにその場から消えていた。
「何をした。貴様ら!」
カイチックが二人から離れるように動きながら叫ぶ。
「私は何もしていないぜ。単におまえの攻撃が柔だっただけだ」
「ここは私の結界内なのよね。魔法の攻撃を避けるくらい訳ないわよ」
「くそっ!」
オウナイも二人から避けるように動いた。そして盗賊達に目配せする。何人かの盗賊が二階へ逃げていった。
「奴らを囲え」
オウナイが叫ぶと、盗賊達は剣を構えたままアクアとベアトリスを囲った。
戦力的にはかなり格上のようだが、相手は二人しかいない。まだ勝算はある。
「お頭、ダメだ。上に行けない」
その時、二階に逃げた盗賊が戻ってきた。
「だから、私の結界の中だって言っているでしょ。一人も逃がさないわよ」
盗賊達に囲まれたまま、ベアトリスはにやりと笑った。
その時、扉が開いてまた別の人間が入ってきた。
青い髪を結んだたくましい体付きの女性だった。
「あいつは! あいつが赤髪女の仲間だ!」
エイクメイが叫ぶ。
「何だと。あの黒髪が仲間だと言わなかったか」
オウナイが言う。
「違う。あの黒髪の女は今朝初めて出会った女だ。赤髪女の片割れはあいつなんだ」
キャロンは中に入るなり辺りを見渡す。
「アクア、ベアトリス。何を遊んでいる。面倒だからもっと減らしておいてくれ」
アクアが答えた。
「こいつらがあまりかかってこなかったんでな。ま、こっちから行けばすぐさ」
「私は結界を張るのに忙しいの。醜男の相手はアクアとキャロンでやってちょうだい」
ベアトリスは肩をすくめる。
キャロンが前に出た。その隙を突いて後ろに回った盗賊が、扉から出ようとするが、扉は開かなかった。
キャロンはそれを横目で見る。
「器用だな。外からは入れて中からは出られない魔法結界か」
「そうよ。だから私達も外に出られないの」
キャロンは扉を開けようと必死になっている盗賊に向かって手のひらを突き立てると、火球を打って殺した。
盗賊達がどよめく。
「ちょっと待て。話し合いをしようじゃねぇか」
オウナイが両手を挙げて言う。
「ちょっと、父さん。何を言っているんだ」
エイクメイは抗議するが、オウナイはエイクメイを後ろに追いやって前に出た。
キャロンも前に進んでくる。盗賊達が更に後ろに下がった。
「おまえら、冒険者だろ。この城を調査して、住み着いている奴を追っ払おうってわけだ。俺達の負けだ。大人しく出て行く。おまえ達の依頼料の十倍支払うから、それで終わりにしてくれ」
「何を言うんだ。せっかくのお宝だぞ!」
エイクメイはまた前に出ようとしたが、それをカイチックが押さえる。
「俺達は結構金を貯め込んでいる。冒険者は金で依頼を受けるんだろ。わざわざ危険な事しなくても儲けられるんだ。文句はないだろ」
かまわずオウナイが続けた。
キャロンは笑った。
「勘違いをしているようだな。確かに私達はグレスタで依頼を受けた。調査依頼と討伐依頼だ。ちなみにおまえ達は順風亭で依頼を探していたようだが、討伐依頼の方は指命依頼にしてもらったんで、張り出されていない」
オウナイは舌打ちする。冒険者の宿を見張っていても何も出てこなかったはずだ。つまり、先回りされていたって事だ。
「だから、その依頼料の十倍払うって言っているんだよ。その依頼者だって、俺達がここを出て行けば文句ねぇだろ」
オウナイは叫ぶように言う。しかしキャロンは笑みを崩さなかった。
「それが勘違いだと言っているんだ。私達が先に依頼を受けたのはダグリシアだ。その内容は奪われた財宝類全てを回収すること、そして盗賊の生死は問わない」
オウナイの顔が青ざめる。
「ダグリシア、だと」
「付け加えるとよ。ダグリシアでおまえ達の仲間を殺したのは私だぜ。まさか、そのせいですぐに逃げられるとは思わなかったけどな。わざわざここまで遠征しなくちゃならない羽目になったぜ」
アクアが言った。
「そういうわけだから。命乞いを聞くつもりは全くなし。殲滅よ。せ・ん・め・つ。お宝も全部回収させてもらうわね」
ベアトリスは嬉しそうに言った。三人が横に並ぶ。
「じゃあ、始めようか」
キャロンは一歩前に踏み出す。
そこからは一方的な殺戮だった。
アクアの剣が問答無用に盗賊達の首を飛ばしていく。キャロンの魔法で盗賊達は切り裂かれていく。ベアトリスは戦闘に参加する気は無いようで、ちょろちょろと逃げ回っているだけだ。
このままでは本当に殲滅されてしまう。
オウナイは盗賊達を後ろに下がらせ、自らがアクアに斬りかかった。
「ウォー!」
魔法の方はどうにもならないが、赤毛の女性なら倒せると踏んだ。確かに配下の盗賊では手も足も出ない戦士だが、騎士の剣を突き詰めたオウナイから見れば、彼女の剣は甘すぎる。対人に特化されていない。
オウナイとアクアは剣を激しく打ち合った。
「それなりにいける口だな」
「てめぇとは年期が違うんだよ」
オウナイの剣の勢いは更に増す。激しいオウナイの攻めに、だんだんアクアは防戦一方になっていった。オウナイの剣が体をかすめ始める。
「おらおら、むき出しの肌が傷だらけになるぜ」
アクアは剣をはじき飛ばされないようにするだけで精一杯だった。一瞬オウナイが引いたので、思わず前に踏み出すが、それは罠だった。
「終わりだ!」
アクアの剣はオウナイの防具で弾かれ、オウナイの剣がアクアの腹を鋭く薙いだ。
アクアは後ろに吹き飛ばされた。
カイチックはキャロンに対して、次々と攻撃魔法を放った。キャロンはそれを迂回しながら、防御魔法で防ぎ、電撃や熱線などの攻撃魔法を返していく。
しかし、攻撃魔法の威力自体はカイチックの方が勝っていた。雷の矢はキャロンの防御をはね飛ばし、魔法の剪断は体術で避けるしかなかった。
宮廷魔術師団副隊長の頃から、カイチックは魔法は攻撃魔法以外に必要ないと考えていた。だから、攻撃魔法の威力は強烈である。アクアがこれに耐えられること自体がおかしいのだ。
「攻撃魔法のみが真の魔法なのです。あなたのように他の魔法にうつつを抜かしているから、威力が弱いのですよ」
「なるほど。確かに私の攻撃魔法はあんたの足下にも及ばないようだ。少しだけ見直したよ。しかし、お仲間がどんどんダメージを受けているが、いいのか」
キャロンは魔法の盾でカイチックの攻撃魔法を弾きながら、言い返した。
カイチックは周りの被害を考えずに、矢継ぎ早に炎や雷を打ってきていた。盗賊達は逃げ惑っているが、キャロンが動き回るので、被害は増える。
「そうですね。逃げられない魔法でも使いましょうか。それで終わりです」
カイチックはそばにいた盗賊二人の肩を叩いた。
「え」
「何です。カイチックさん」
すると、二人はいきなり走り出す。
「うゎ、なんだ」
「体が勝手に!」
二人は二手に分かれて、キャロンの左右を大きく回る。
「人間ボウガンと言ったところですかな。ほら、後ろから来ますよ」
そしてカイチックは魔法を唱え始める。キャロンの逃げ道を塞いで、大技で決めるつもりのようだ。
「なるほど。受けるとまずそうな魔法だな」
キャロンがつぶやいた。
エイクメイは逃げるベアトリスを追いかけながら剣を振っていった。
「こら、逃げるな」
「チェリーちゃん。ここまでおいで」
ベアトリスはからかうように腰を振って、エイクメイをあおる。正面に盗賊達が立ちふさがっても、素早くその隙を抜けて行く。そのせいでエイクメイの剣が盗賊達に当たってしまい、エイクメイが謝罪するという喜劇が起こる。
ベアトリスはキャロンとアクアを見て顔をしかめた。
「ねぇ、いつまで遊んでいるの。早く退治してよね」
アクアは倒れなかった。下がったその場で剣を構える。
「何だと?」
オウナイは目を剥いた。確かに腹を薙いだはずなのに、斬れた様子がない。
アクアは軽く腹をさする。
「やっと私から攻撃できるぜ」
アクアは走り出した。そのままの勢いでオウナイに向かって斜め上段から振りかぶる。
「馬鹿にするな!」
その正直すぎる剣を、オウナイは剣で弾き落とそうとした。
しかし、剣には何の手応えもなかった、そしてオウナイの体は右肩から左脇腹までまっすぐに斬られていた。
「な、にが」
アクアは血を流しながら倒れるオウナイの前に立つ。
「私も魔術師なんだよ。剣に魔力を込めると、どんな金属も斬ることができるのさ。私の剣を剣や防具で防ぐことは無理だぜ」
キャロンは杖を槍のように立てて、広範囲に水を飛ばした。カイチックはさすがに避けきれずに水浸しになる。カイチックはそれでも呪文を止めなかった。キャロンの上空に黒い雲のような物ができた。
「その程度で集中力を切らす私ではない。これで終わりです」
後ろ左右から剣を構えた盗賊達が飛びかかってくる。
「止めてくれ!」
「助けてくれ!」
キャロンがその二人に向かって杖を降り、飛び出た風の刃で切り裂いて殺す。その時、上空の雲から光が飛び出した。
しかし、すぐにその雲は霧散して消えた。光もキャロンに届く前に消えた。
「な、なぜ」
その瞬間カイチックは膝を突いて倒れた。何が起こったのかわからない。
キャロンがゆっくり近づいてきた。
「私がかけた水には魔力を強制的に吸い出す仕掛けを施しておいた。おまえが大技を仕掛けるのを待っていたんだよ。あの雲の魔法がおまえの全ての魔力を吸収して壊れた」
「呪文を唱えたのに私の魔力が全て吸い出されるわけが・・・」
「ああ、細かい説明が必要か。あの水の効力は呪文の効率を著しく落とすことだ、そのせいで発動した魔法の維持のために、その人間の魔力を強制的に吸い出してしまう。面白い仕掛けだろ。私のオリジナルだ。あの雲は確か賢者ローダースが作った魔法だったな。思い出したよ」
そしてキャロンは杖を振りかぶると、まだ動きがとれないカイチックの頭を殴った。
「この杖は頑丈に作っていてな。武器としても使える」
カイチックの頭は陥没し、カイチックは口から血を吐いて倒れた。
エイクメイの剣は味方を切り裂いていた。ベアトリスを狙っているはずなのに、なぜか剣を振ると仲間の盗賊を斬ってしまう。
エイクメイは立ち止まって。周りを見渡した。当たりは血に染まっている。生きている仲間を探そうとするが見当たらない。そして、父親とカイチックが倒れているのを見た。
「父さん、カイチック・・・」
「私はここよ」
そばでベアトリスの声がした。エイクメイが剣を振ると、なぜかその件は自分の腹を突き刺していた。
「はい、当たり」
エイクメイは自分の命が消えるのを感じた。
盗賊全員の息の根を止めて、三人は集まった。
「遅いわよ。何でアクアは正直に打ち合うのよ。いつも通り普通に斬れば一瞬で終わるじゃないの」
ベアトリスがアクアをにらむ。
「私より剣の腕が上の相手と打ち合う機会は少ないじゃねぇか。少しは練習させろよ。そんな事言うなら、キャロンだってやたらと時間かけていたぞ」
アクアが答えた。
「ああいう攻撃魔法フリークを相手にすると、どうしても攻撃魔法以外で殺したくなるんだ。その方が屈辱的だろう。まさか搦め手の魔法で負けた上に、殴り殺されるとは思っていなかっただろうな」
キャロンがにやりと笑った。
「性格悪っ」
ベアトリスが言うと、キャロンもベアトリスに目を向けた。
「そもそもあんたは戦ってすらいなかっただろうが。私とアクアとカイチックの暴走で殲滅したようなものだぞ」
「だって、私、魔女だし。それに結界を維持したり盗賊を捕まえたりと、いろいろやる事はあったのよ」
ベアトリスが口を尖らせる。
キャロンが念を押す。
「ログ達への盗賊達はちゃんと捕まえているんだろうな」
キャロンが言う。
「大丈夫、逃げようとした盗賊四人をちゃんと結界に閉じ込めておいたわ」
キャロンはふっと息をつく。少し時間はかかったが予定通りだ。
「よし、じゃあ、宝を荷台に積み込むんだ。急ごう」
「二階だな」
「今この部屋の結界を解くわね」
ベアトリスが合図すると、アクアは階段を駆け上がっていった。そしてベアトリスは宙を見ながらつぶやく。
「ログ達は三階に降りてきたわ」
この城で起こることをベアトリスは読み取ることができる。やっていることは以前のキャロンの魔法に似ているが、方法はまるで違う。ベアトリスは壁に魔法文字を記載することで、城全体を擬似的な魔道具に変えていた。霧の魔獣から十分に魔力をもらっているので、改めてベアトリスが魔力を消費する必要が無い。
「だったらあまり時間が無いな。そろそろ、捕まえた盗賊達を開放しよう」
「オッケー」
ベアトリスは呪文を唱える。キャロンは手紙を書き始めた。
「ログ宛の手紙?」
「生き残れたらな。さすがに四人相手だと五分五分だ。勝てれば報酬がもらえる。勝てなければ死ぬ。それが冒険者だろう」
「なんか、キャロンは冷たいわよね。あんなに可愛い子達なのに」
ベアトリスは言いながら目を閉じて盗賊達やログ達の動きを追っていた。
「よし、できた」
キャロンは手紙を壁に貼り付け、大きな首掛けのメダルをその下に置く。
「私はアクアの手伝いに行ってくる。ベアトリスはタイミングを見計らって、ログと盗賊達をぶつけろ。隠し扉の開け方はわかるな」
「キャロンの魔法は把握したから大丈夫。今ちょうど、四階の奥の部屋にログが入ったわ。盗賊達は三階まで来た。音でログのいる方に誘い出している」
「任せた」
キャロンは二階に走っていった。
ベアトリスは目をつぶってつぶやいた。
「レクシア、ログ、死なないでね」
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