第27話 ログ視点・五日目

 今日はキャロンに連れ出された。アクアに頼まれたらしい。

 昨日はアクアに魔法の修行もしろと言われた。キャロンはたぶん魔術師なので、今日は本格的に魔法の修行をするのかもしれない。

 しかしその思いはすぐに裏切られる。

「まずは昨日と同じでいい。服は全部脱げ」

 キャロンは僕を昨日の場所に連れてくると、素っ気なく言った。

 なぜ全裸にならないといけないのかさっぱりわからないけど、もう慣れた。僕は全裸になると少し気合いを入れて剣を振り始めた。

 昨日よりは剣の動きがしっくりくる気がした。夢中で振っていると昨日よりも早く時間が過ぎた。

「もういいよ」

 キャロンの声で我に返るとすでに太陽は真上まで上がっていた。

 僕は座り込む。集中力が切れると一気に疲れた。剣を持つ手がしびれている。

「アクアには聞いていたが、まぁ、面白い型だな。午後は服を着て私と打ち合おうか」

 僕は少しびっくりする。

「キャロンって剣が使えるの?」

「剣? 剣というか……。それを言うなら私達は全員魔法無しでも戦える」

 僕は更に驚く。

「アクアが戦士でベアトリスが魔術師でしょ」

「違うな。私達は全員、言ってみれば魔法戦士とでもなるか」

「魔法戦士……」

 聞いたことはある。剣を使いながら魔法も自在に操る最強の戦士だ。

「ちょっと大げさか」

 キャロンはうーんとうなる。そして袋から干し肉を出して僕に投げた。食べながら話そうと言うことらしい。

 僕は服を着てから、地面に座った。

「あんたもそうだが、世の中の奴らはみんな類型にはめたがる」

「類型ってどういうこと?」

「つまり、戦士、格闘家、斥候、射手、魔術師とか」

「それは間違っているの?」

「単純なことだ。剣を使えるからと言って戦士である必要はない。身が軽くて手先が器用だからと言って斥候である必要はない。時に戦士であり、時に格闘家であり、時に魔術師であっても良い。自分に使える能力は最大限伸ばしておいて、それを最適なタイミングで使うだけだ」

 そういえばアクアも言っていた。使える力は使えるようにしておいた方が良いと。

「たとえばベアトリスは○○だからあんな格好をしているだけで、格闘技に秀でているぞ。武器はそれほど上手くないけどな」

「え、そうなの?」

「ベアトリスは魔法全般に強いわけじゃなくて、魔女系の魔法が得意だ。反面魔法使い系の魔法はそれほど使えないようだ」

「魔法の系統って僕にはわからない」

「これも傾向の話だが、魔女系っていうのは精神効果を与えるような魔法だ。魔法使い系というのは攻撃や防御の魔法になるかな。専門的にはいろいろ分類されているが、こう言うのは名乗りに近い。どの魔法がどの系統かなど明確に決まってはいない」

 レクシアは魔法使い系を求めていた。レクシアは魔力付与が使えるけど、あれはどんな系統なのだろう。

「キャロンも魔法を使えるんだよね」

「私のは以前見せた」

 僕は気がついた。ダークドッグを貫いたのはキャロンの魔法だった。

「魔法使い系なの?」

「傾向とすればそうだろう。でもこだわりは無い。そもそもベアトリスは結界を張る能力も高い。あれは魔女系とは言えない」

「アクアも魔法を?」

 僕は疑問だった。僕は魔力の匂いがわかる。だから、キャロンとベアトリスが魔術師だと言うことはわかっていた。でもアクアは違う。アクアからは全く魔力の匂いがしない。

「あいつは魔力が根本的に多い。そのせいで強すぎる魔法しか使えない」

「アクアはあんなにすごい戦士なのに? それにアクアからは魔力が感じられないよ」


 キャロンが少し微笑んだような気がした。

「おまえは魔力が見えるのか。あいつの魔力は強すぎて使い勝手が悪い。それにあいつは魔力があふれないように自分で封じている」

「封じている?」

 キャロンは少し考えるような仕草をした。

「アクアのことは本人に聞け。おまえはアクアの弟子だろう」

 キャロンは立ち上がった。ちょうど食事が終わったところだ。

「そろそろやるか。そうそう、あんたはまだ勘違いしている。アクアがすごい戦士なんじゃない。アクアすごい戦士なのさ」

 僕はキャロンと打ち合って、その言葉の意味を、身をもって知らされた。


 僕は体中あざだらけになり、とうとうキャロンに肩を抱かれながらやっと歩ける状態で町に帰ってきた。

 キャロンは厳しく、僕を一切休ませなかった。痛みや疲れを言い訳にするなと言われ続け、ほぼ拷問のような時間を過ごした。僕の剣は一度もキャロンの杖に当たることはなく、キャロンの杖は容赦なく僕の体を打ち付けた。どこにも魔法要素は無かった。昨日の話はなんだったんだろう。

 門の前でマントを羽織った二人の女性に会う。もちろんベアトリスとレクシア。

「そっちは激しかったようね」

 ベアトリスが言う。しかし傍らのレクシアもなんだかふらふらしている。

「そっちもな」

「あら、レクシアの場合は……」

 素早くレクシアはベアトリスの口を押さえた。

「それは、あとで」

 レクシアは体の方はなんともないようだった。何があったんだろう。

 僕らは宿に戻った。

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