第24話 ログ視点・四日目

 次の朝、僕とアクア、レクシアとベアトリスは町を出て草原に向かった。キャロンは仕事を探しに行くと言っていた。

 この町は壁に囲まれているけど、街道からも森からも外れていくと、人気のない草原というか荒野というか、だだっ広くて人のいない場所に出る。

 僕はレクシア達とも別れて、町から離れた荒野の真ん中に立つ。ざっと一時間くらい町から離れて歩いたような気がする。

 人気の無い場所で、アクアが立ち止まる。

「この辺で良いか。邪魔者は来ないだろう。まずはおまえの型を見せてくれ」

 僕はうなずいて父さんに習った剣の型を振った。懐かしいと思った。以前は毎日振っていたはずなのに、すでに忘れている気がする。


 必死に振り続けていたけど何も言われなかったので、ふとアクアを見たら、アクアは草原にマットを敷いて寝転がっており、僕を見ていなかった。

「終わったよ。アクア」

 僕は少しむっとしながら言った。アクアは僕に首を向けた。

「まぁ、良いんじゃないの。それで」

「僕に剣を教えてくれるって」

 僕が言いかけるとアクアは身を起こした。

「おまえはそれでいい。今から私がいいと言うまでさっきの型を振り続けろ」

 僕はぽかんとアクアを見た。アクアは鋭く言った。

「早くやれ」

 仕方がなく、僕は父さんに習ってきた型を繰り返した。何度も何度も繰り返し。

 たまにアクアをちらりと見た。でも彼女は寝転がったまま何も言わない。こっちを見もしない。僕はムキになって同じ型を繰り返した。


 そして、同じ事を繰り返していると僕は後ろから蹴り飛ばされた。

「な、何するんだ」

 僕が振り返ると、怒った顔でアクアが立っている。

「剣に力がこもっていない。全力で振れなかったら型じゃなくてただの踊りだ。回数を重ねるたびに雑になってきている。まじめにやれ」

 いきなり身が引き締まる思いがした。僕はもう一度しっかり基礎を思い出しながら型を振り続けた。

 その特訓は昼近くまで続いた。腕がどんどん重くなって、早く終わって欲しいと思ったけど、中途半端なことをしたらまた蹴られると思ってやけくそで振っていた。

 とうとう僕は剣をつかんでいられなくなって剣を落としてしまった。指に力が入らない。


「まぁ、もういいか」

 やっとアクアが言った。実際もう僕の腕は上がらない。でもアクアは今度は蹴ってこなかった。

「疲れたろ」

 アクアが僕の前に立つ。本当にへとへとだ。膝を突いて倒れ込みたい。

「おまえに私の戦い方を教えても役にたたない。余計なことをして今のスタイルを崩しても意味がないしな。まずはその型を自分のものにしな。見たところ、まだまだおまえはその型を身につけていない。無意識でも全力で振り込めるまで突き詰めろ」

「それで、僕は戦えるようになるの?」

 僕はつぶやく。アクアが笑った。

「無理だね。おまえの親はどうやら人との戦いに慣れていたようだ。もともとどっかの騎士か軍人だったんじゃないか? 動きに自由さがないんだよ。よく言えば英雄タイプの使い手なんだろうがな。成人ならそれでいいだろうが、おまえの体格だと身につけても使い切れないな」

 アクアは残酷に言う。

「だったら続ける意味はあるの?」


 しかしアクアは即答する。

「あるな。技って言うのは足し算なんだ。いろいろ身につければどれも役にたつ。だが中途半端なら使えない。今、その型を捨てればそいつはおまえの武器にならない。その型を身につけた上で別なものを学べ」

 僕はうなずいた。彼女は師なのだから言われたことに従おう。

「ところでいつまで剣を下に落としておく気だ。剣を大切にできないやつは早死にすると、親父に言われなかったか」

 僕は慌てて剣をつかもうとした。でも指が言うことを聞かない。さっきまで強く握って振っていたから、握力がなくなっている。

「仕方がないやつだな。指を動かせるようにしてやるか」

 アクアはにやりと笑って僕にそう言った。



 それから僕はまたエッチなことをされたけど、午前中の修行はそれで終わりのようだった。

「そろそろ昼飯か。ベアトリスを探しに行こうぜ」

 アクアはさっさと歩き出した。

「えっ? どうして?」

 僕は尋ねるけど、アクアは答えてくれなかった。仕方がなく僕は着いていく。

 しばらく行くと横に張ったロープの上で一人の女性がポーズをとっていた。それを下からもう一人の女性が見上げていた。

 近寄ってみるとロープの上にいたのはレクシア。それを下から見ていたのはベアトリスだった。レクシアは一糸まとわぬ全裸だった。

「ほぅ。良いとこに来たわね」

「え、あ、いや」

 僕らに気づいたベアトリスが言うと、レクシアもそれに気づいて慌て出す。

「こらレクシア、集中! 落ちたら怪我するわよ。意識を保って体を浮かせる」

「は、はい」

 レクシアは器用に体勢を立て直し、再びロープの上に立つ。

「妙なことやっているな。宙に浮くのは高度すぎないか」

 アクアが言った。

「高度なの?」

 僕がつぶやく。

「おまえは空飛ぶ人間を見たことがないだろ」

「え、まぁ」

「体を浮かせるっていうのは結構魔力を使うんだよ」

 どうやら今のロープの上に立つ、というのはバランスだけの問題じゃないらしい。


 それから、ベアトリスはレクシアにいたずらしてロープから落とした。でも、レクシアは浮き上がり、足から地面に降りた。ベアトリスの魔法だと思う。やはりベアトリスはすごい魔術師のようだ。

「はい、午前中終了」

 ベアトリスはレクシアに近づくと抱き寄せて、僕らの方に歩いてきた。

「なんで裸なの?」

 僕はドキドキしながらベアトリスに尋ねる。

「え、私の趣味だけど」

「趣味?」

 かなりがっかりな答えだった。

「いいね。私もこれからはそうしよう」

 アクアが言う。

「ちょっと待ってよ。危ないじゃないか」

「注意力の修行になるだろ。今朝みたいに集中力を欠いていたら自分で○○を切り落としちゃうかもな」

 アクアが笑った。ベアトリスが真顔になって言う。

「でも、どうしてここに来たの」

「一緒に飯食おうぜ。ぞれから相談」

「じゃあ、お昼にしましょう」

 ベアトリスは地面に布を広げる。アクアは袋から干し肉を取り出した。

「あの、私も服を……」

 一人全裸のレクシアが言うが、ベアトリスは下を指さすのみ。そのまま座れと言うことらしい。

 あきらめてレクシアは座る。

「もっとこっち」

 ベアトリスはレクシアを抱き寄せた。

「食欲と○○はイコールなんだから、昼休みは○○の時間よ」



 それはエッチすぎてひどい食事時間だった。一息ついたところでベアトリスが言った。

「で、相談って何?」

 アクアが答える。

「ログは魔力がある」

「今気がついたの。たぶん根本的な力はレクシア以上でしょうね」

 途端にレクシアは激しく身を震わせた。

「おやおや、ショックだったかしら? なんならもう修行、やめる?」

 ベアトリスはレクシアをあやすような格好で抱きながら語りかける。

「嫌です。私は魔術師になるんです!」

 レクシアはかたくなだ。でも、僕も気がついていた。魔力には特有の匂いがある。だから僕は魔力の強い人とそうじゃない人がわかる。昔から僕はこの匂いに敏感だった。母さんからは強い魔力の匂いがした、レクシアからは何も感じない。

 キャロンとベアトリスも弱いながら何となく匂いが感じられた。弱いのはきっとわからないようにしているからだ。本当はかなり強い魔力を持っているに違いない。

「さすが頑固者。それでこそレクシアだわ。根性はログよりずっと上ね」

 僕はむっとする。

 アクアが横で言った。

「まぁ、魔力に素質は関係ないからな。ただの特徴だ。体が大きい奴や小さい奴、筋肉が付きやすい奴や太りやすい奴。そういったのと同じことさ。体が大きければ有利だろうが、決してそれだけで強いわけじゃない。実際ログが屠ったあの盗賊達はログより大きかったわけだしな」

 言われてみればその通りだ。彼らは僕より体力があったし、力も強かったはずだ。でも僕は倒すことができた。僕の方が素質があったかと言われればそうではない気がする。

「レクシアは魔力も小さいし魔法との相性も悪いけど、だからといって魔法の使い手になれないわけじゃない。そういうことよ」

 ベアトリスは続けた。


「でも使える力は使えるようにした方が良い」

 アクアが言って僕を見る。

「え、つまり」

「おまえ、午後は魔法の修行をしろ」

 アクアの言っている意味がわからなかった。僕は戦士の修行をしに来たはずだ。

「ふーん、なるほど」

 ベアトリスはつぶやく。

「じゃあ、交換しようか。レクシアは剣は使えないけど身体能力は高いのよね。さっきの修行でもレクシアは魔法を使っていたけど、ほとんどは体のバランス感覚だったから」

「私は魔法が!」

 レクシアは叫ぶが、ベアトリスはレクシアの口元に顔を近づける。

「あなたは私のなんだっけ」

「……弟子です」

「弟子は師匠の命令には?」

「わかりました」

「話は決まった」

 アクアが立ち上がる。

「今日の午後は交換して修行だ。明日からも私達だけでやる必要は無いだろう。キャロンとも相談しようぜ」

 僕にはアクアがただサボりたいだけのように感じられたが、言えなかった。


 食事後、僕はベアトリスの元に残された。ベアトリスはじろじろ見ながら、僕の周りを回る。

「うん、まずは全部脱ごう」

 やっぱり、と思う。どうにもこの人達は好色すぎて困る。

 ベアトリスの修行はやはりひどかった。

 ○○させ続けながら。手や足に感じる熱を意識する。それはとても精神が疲れる作業だった。

 ベアトリスが触った場所は熱く、時間が経つとだんだんそれは薄れてくる。でもそこに意識を持っていくと熱さは消えずに残り続ける。どうやら熱さを維持できているのは僕が魔力を使っているかららしい。

 ベアトリスは僕の体を指先でつついて、そこに熱さを集中させるように言った。でも○○しながらだ。

 だんだんとベアトリスは光で支持するようになった。光る場所に僕は熱さを動かさなくてはいけなかった。

 魔力の操作はかなり大昔にやめてしまっていたから、僕はすごく苦労した。

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