第17話 ログ視点・三日目

 翌朝、日が上がると共に僕は森を歩き出す。

 まだ食料はあるけど、狩りの練習も始めようと思う。他にも水場を探さないといけないし、火をつける練習もしなくちゃいけない。

 火をつけるのは魔法を使えば簡単なんだけど、もう魔法の修行はずっとやっていないから、無理だ。父さんに教わった通り、木をすりあわせる方法で火を作らなくちゃいけない。

 やっぱり僕はいろいろ足りないのだと思う。


 水場を探しながら森の中を散策していると、昨日の森とは違う事に気づいた。僕の知っている草木がない。まるで植生が変わったかのように、明らかに毒のありそうなキノコや草が生えている。

 少しここから離れようと思い、更に森の奥へと入っていく。だけどどうにも歩きにくい。

 木の根がせり上がっていてでこぼこだし、光があまり入らなそうなところでも草が茂っていて、かき分けないと前に進めない。

 突然、危険を感じて横を見ると巨大なヘビが僕に飛びかかろうとしていた。僕は走って逃げ出した。蛇が追いかけてくる。

 昨日はこんなに危険を感じなかった。むしろドノゴ村の周辺にあった森と同じように平和な感じがした。

 ヘビから逃げ切ると、今度は前の茂みががさがさ音を立てた。大型獣のような音だ。ダークドッグのことが思い返される。今大型の動物と戦うのは避けたい。僕は更にそこから逃げるハメになった。

 ところが、どう進んでも立ち止まると何かが襲いかかってくる。具体的な姿は見えずに、こすれる音やうなり声が聞こえる。

 何か森全体に敵意をもたれている気がした。

 そうこうしているうちに僕は森の外の草原に出てしまった。草原の中を走っていると急に今までの圧力が無くなった。

 僕はやっと身に迫る危機を脱したことを感じた。

 森を振り返ると女の人の笑い声が聞こえた。僕の頭にうるさいくらいに響く。


 僕は理解した。昨日追い払った魔獣が意趣返しに僕を森から追い払ったんだ。名前は忘れたが、森の主人を気取る魔獣が居ると聞いたことがある。僕は肩を落とした。

 まぁ、仕方がない。ここからは草原を歩いて行こう。森にこだわる理由は無い。今回は追い出されただけで済んだけど、本当に目の前に魔獣が現れたら対処できないのだから。



 草原を少し進んだところで騒ぎの音が聞こえた。街道の方だ。

 町と町を繋ぐ街道は整備されていても管理はされていない。どうしても行き交う人を狙う盗賊が多くなる。

 僕は迷う。あれが盗賊なら、このまま進むと襲撃後の彼らと鉢合わせる可能性があるからだ。しかし音から逃げる方向だと昨日の町に戻ることになる。

 戻って別の道を進むという選択肢もあるけれど、僕は前に進むことを選んだ。

 何か特別な理由があったわけじゃない。もちろん僕がその騒ぎを止められるとか、うぬぼれているつもりもない。単純に戻るのが嫌。それだけのことだ。その代わり十分に注意して進もうと思った。

 僕は草原をゆっくり進んで、その問題の場所を見つけた。

 少し離れた街道に馬車がある。しばらくの間見ていたけど、変化は無かった。

 多分襲撃された後。ということだろう。盗賊達は去ったんだと思う。

 僕はその馬車に向かうことにした。


 到着して様子を見ると、予想通り、そこは襲撃された跡だった。馬車はあるけど馬はいなかった。一頭だけ馬が倒れて死んでいた。馬車を引いていた馬なのかそれ以外なのかはわからない。

 そしてその周りで人々が倒れていた。

 風に血の臭いが乗って漂い、僕の背中がぞわぞわと震えた。

 斬られて死んだと思われる老兵士が二人いた。そして首を絞められて死んだと思われる中年くらいの女性が一人。

 何か自分の未来のような気がして目が離せなかった。弱い者は殺される。


 馬車の中は空。

 変に思う。たった三人で街道を進むものだろうか。よほど急いでいたのか。

 死んだ馬はこの老兵死のものだとして、残りの兵士も馬も連れて行かれたということだろうか。村から離れたことがなく、父さんから冒険話を聞いていただけの僕には、これが普通なのか異常なのか判断できなかった。

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