第12話 オウナイ一味の計画
オウナイは朝方、部下達を集めて今後の指示を下した。
昨日今日で尽きる物資ではないので、まだ遊び暮らしていても良いのだが、今後のためには早く動き出す必要がある。
「俺達は少人数でグレスタに入り込む。まずは門を通らずに行き来できるルートを探すことにする。なければ門番を仲間に引き込むしかないが、できれば避けたい。それまでは特定の人間だけがグレスタに入るぞ。ベガー、ホーボー。いけるか」
やせぎすの男が立ち上がった。
「ダグリシアと同じ手順でさね。しっかり調べてきますよ」
背の高い丸刈りの男も立ち上がった。
「ま、みんなが来れるように下準備は進めておきますわ」
町に入るには自己証明書がいる。この二人は商人ギルドのカードを持っているので、どこの町でも出入りがしやすい。
他の人間もそれぞれ盗んだり偽装したりしたカードを持っているが、バレる可能性がある物はあまり使いたくない。
「二、三日は潜入したまま調査してこい。それからスカム、ウィンプ、ルーザー」
別の三人が立ち上がる。
「おまえ達はグレスタの外周を回って、それなりにつけ込めるところがないか探れ」
背の低い、老けた顔の男が答えた。
「わかりやした」
他の二人もうなずく。
「残りの奴らはこの周辺の調査と見張りだ。何か合ったら俺のところに報告に来るんだぞ」
オウナイは盗賊達に言った。それを合図にそれぞれが動き出す。
明確な役割がある者はともかく、周辺の調査と見張りは大して重要な仕事ではない。
城の周りは森しかなく、多少入り込んで調べても何も見つけられない。むしろ野生の動物や魔獣に会うと対処できないので、早々に戻ることになる。
城内は何もないただの箱で、調度品も家具も何一つない。城の塔のてっぺんは見晴らしが良いので、何人もの盗賊達が見に行ったが、やはり見えるのは森ばかり。城に繋がる道すら森に埋もれて見えないので見張り台としての役目も果たさない。
階段の位置がばらばらで上に上りにくく、住み着くには二階以下が妥当だった。
それから暇をもてあました盗賊達は、一階の広間でばくちを始めた。
その頃、オウナイとカイチックとエイクメイは集めてきた宝物類の整理をしていた。
かなりの数があり、整理にも時間がかかる。
オウナイとカイチックはそれなりの審美眼もあり、価値の順に整理していく。エイクメイには違いがよくわからないが、言われたように並べていく。
「高級品にこだわりすぎましたね。こうしてみると、すぐに換金できるものが思いの外少ない」
カイチックが言う。
「まぁ、貴族どもの宝物庫の中から短時間で盗み出そうとすれば、良い物になっちまうのは仕方がないな」
「すぐに換金できないって、どういうことだ。買いたたかれるって事か」
エイクメイが言う。
「違います。高級品というのは名のある物が多い。つまり市場に出回れば、誰が売ったのかを調査されかねないと言うことです。裏ルートで貴族に売るのが最適なのですが、それにはしっかりと相手を調べないといけない」
「高級な宝物を安く買いたたかれた上に身バレするのは馬鹿だろう。だからすぐには売れないんだ。一応ゴルグ領の貴族にならつてはあるが、ちと遠すぎる」
エイクメイはよくわからないような顔をしていたが、それ以上口答えはしなかった。
オウナイとカイチックは会話を続ける。
「手っ取り早く、手頃な商人を味方につけたいな」
「そうですね。できれば外商の商人が良い。グレスタの人間ではない方が良いでしょう」
エイクメイはまた首をかしげた。
「ダグリシアの時みたいに貴族から奪い取るんだろ。何で商人と手を組むんだ」
オウナイは顔をしかめる。
「貴族は狙わん。この城を離れるときは襲うだろうが、まだその時じゃない」
エイクメイはよくわからず、カイチックを見た。
「初めにしなくてはならないのは換金の目処をつけることです。これ以上財宝類をため込んでも意味はないでしょう。それに、この城は町から遠いとはいえ、一直線で町に着く場所です。トラブルがあればすぐに兵士が駆けつけてきます。この城に私達がいることは決して知られてはいけないのです。知るものは速やかに消すべきです」
やはりエイクメイにはカイチックの言うことがよくわからなかった。財宝をため込んでも意味が無いとか、場所が悪いとか言われても、盗賊なんだから奪うのが仕事なのだし、金のより多く持っている奴から盗み出すのが正しいはずだ。
「そうか」
しかしエイクメイは口答えしない。二人に口答えしても呆れられることの方が多い。
「さて、少し休んでから続きをやるぞ。すぐに金になるモノは明日にでも売っぱらいたいしな」
オウナイは話を終わらせた。
そして、昼下がり。盗賊達はやることがなくなり自由に過ごしていた。オウナイ達は財宝類の整理を終えて、仮眠を取っていた。
そこにその女が現れた。
外で見張りをしながら、カードゲームに興じていた盗賊達が気がついた。小柄で赤髪。ビキニアーマーをつけた女がこちらに歩いてくる。
「女だ。それもいい女」
「裸と同じ格好じゃねぇか」
腰に剣をつけているが、抜きもしないで歩いてくる。何か少しおどおどした様子だ。
男達は立ち上がった。
「おい、お嬢ちゃん。何のようだ。道に迷ったか」
女は立ち止まる。そして少し身をすくめる。
「あの、私、冒険者なんですけど、この城の調査を依頼されまして。それで、あなた達はどなたでしょう」
二人は顔を見合わせた。そして笑みを浮かべる。
「調査か。丁度良い。俺達も今、中を調べていたところさ。案内してやるよ」
そして二人は小柄な女を左右から囲み腕を掴んだ。
「えっ、何を」
「案内してやるよ。行こうぜ」
女性は少し抵抗するが、男達は腕を放さない。そしてその女性は城の中に連れ込まれた。
下が騒がしくなり、オウナイは目を覚ました。カイチックも隣で起きる。
エイクメイが扉を開けて駆け込んできた。
「父さん。ちょっと来てくれ」
「何だ」
オウナイとカイチックはすぐに立ち上がり、武装してからエイクメイに付いていく。
階段を降りていくと、盗賊達が大いに騒いでいる。
「何があったんだ」
「見ればわかるよ」
三人は階段を降りてすぐに気がついた。女が襲われている。服らしきものもはぎ取られていた。
「近くで女でも攫ってきたのか。余計なことをしやがって」
オウナイが吐き捨てるように言う。
「いや、どうやらこの城を調査に来た冒険者みたいだ」
エイクメイがいうと、オウナイは眉を寄せる。
「冒険者が来たか。これは問題だな。あの女は生かして帰せねぇが、依頼した奴も口止めしねぇといけねぇ。まぁ、あの調子なら、あの女はヤリ殺されておしまいだろう。死ぬ前に依頼人だけでも吐かせるか」
「俺はああいうのは嫌だな。がっついてて醜いよ」
小柄な女性に群がっている盗賊達を見ながら、エイクメイが顔をしかめる。
「慣れることだな。あいつらも女なんてしばらく抱いていなかっただろう。丁度良いカモって事だ」
しかしその時カイチックがいきなり前に出た。そして呪文を唱える。
「おまえ達、すぐにそこをどきなさい。巻き込まれますよ!」
そしてカイチックが大声を出した。何人かの盗賊が振り返って、自分達の方に魔法を飛ばそうとしているカイチックを見た。
「わっ、危ねぇ」
盗賊達の声が伝染し、今まで女に夢中になっていた男達もカイチックの方を見た。大きな光の投げ槍が宙に浮いている。
「うわぁー、死にたくねぇ」
「ダメだ、逃げろ」
盗賊達が逃げ出し、倒れた裸の女性だけが残される。そしてその女性が身を起こした瞬間、カイチックの光の槍が彼女の胸に突き刺さった。
女性は再び倒れる。辺りはシンと静まった。
「おい、いきなり殺すことはないだろう。聞きたいこともあったんだぞ」
カイチックの行動にオウナイが言う。
「依頼を受けた冒険者がたった一人でここに来るわけはないでしょう。彼女以外に誰かがいます。探してください」
しかしカイチックは平然と答えた。
その時、死んだはずの女性が身を起こした。
「なに!」
カイチックは目を見開く。女性は素早く立ち上がると、転がっていたビキニアーマーと剣を掴み出口に走り出した。
「止めろ、逃がすな!」
オウナイが叫ぶ。しかし女性は身軽に飛び回ると、盗賊の間を縫って扉から逃げ出した。武装もしていない上、パンツもつけていなかった男達ばかりなので、対応が遅い。
「追え!」
エイクメイが走り出した。盗賊達はやっと身支度を始めるが、先に扉から出られたのはエイクメイだった。
そしてエイクメイは道に出て辺りを見渡す。すでに女性の姿はなかった。
「くそっ」
恐らく街道を下ったはずだ。走っては追いつけない。エイクメイは馬を使うために城に戻ろうとした。その時になってぞろぞろと盗賊達が出てくる。
「城の周りを探せ、俺は馬で道を行く」
盗賊達は周りに散っていった。エイクメイが厩の方に回ろうとしたとき、声がした。
「いた。女だ」
エイクメイは全力でそちらに走った。そして集まっていた盗賊達の所に行く。
しかしそこには女などはいなかった。
「女はどこに行った!」
エイクメイが尋ねると、盗賊は狼狽しながら言った。
「壁に手をつけている女がいたんだ。でも、俺が声を上げたら空を飛んで逃げた」
「空を飛んだ?」
「さっきの女とは違う。青い髪のでかい女だ」
そこにオウナイとカイチックも駆けつけてきた。
「おまえら、しっかり捕まえたんだろうな!」
「それが・・・」
エイクメイはオウナイに説明した。オウナイは顔をしかめる。
「すぐに追いかけろ!」
オウナイの怒号で、盗賊達はちりぢりに走っていった。
オウナイとカイチックだけがその場に残される。
「空飛ぶ魔法なんてあるのか?」
カイチックは鼻で笑った。
「そんな事したらあっという間に魔力が切れて墜落するでしょうね。人間の持つ魔力で空を飛び続けることは不可能です。恐らく跳ねたのでしょう。風をまとうことで大きくジャンプすることはできます。奴らはよくものを見ていない」
「なるほどな。ところでおまえの攻撃魔法にあの女は耐えていたが、どういうことだ?」
するとカイチックは嫌な顔をした。
「恐らくアンチマジックの装備を身につけていたのでしょう」
「そうか? 何もつけていなかったように見えたが」
「髪留めやブレスレットなど、目立たない装備などいくらでもあります。それにしても私の攻撃に耐えきるとはかなり強い魔道具ですね。油断できません」
二人は城の中に戻っていった。
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