第10話 ベアトリスの弟子とり

 ベアトリスは勢いよく浴場の扉を開ける。ログが驚いた顔でベアトリスを見ていた。

「はい、痴話げんかは終わりにしましょうね」

 ログとレクシアは風呂で言い合いをしていた。それもかなり険悪な感じで。魔法で外から会話を聞いていたベアトリスは仲裁するために風呂に入ったのである。

「レクシア。あなた、幼いのに世慣れしていて頭が良いわね」

 ベアトリスは言う。喧嘩の内容は、レクシアがベアトリスの弟子に志願し、それをログが止めようとしているというもの。

 ログはこの町でレクシアを守るために働こうとしていた。しかし、レクシアの方はベアトリスに弟子入りし、冒険者として生きていこうとした。それで喧嘩になっていたのだ。

「レクシアは渡さない」

 ログがレクシアの前に立つ。彼の兄らしい行為にほほえましいと思いながら、ベアトリスはむしろレクシアに引導を渡すつもりだった。こんな足手まといの兄妹を身近に置いておくつもりなど無い。昼の○○は彼女達にとってはいたずらの延長だ。

「坊やは黙っていなさいな」


 まずはログを黙らせる。そしてベアトリスはログの後ろから顔を出しているレクシアに向かって話した。

「レクシアは私が聞いているのを知っていて話してたのよね」

 レクシアが答える。

「空気を聞く魔法があるから。私にはできないけど」

 知識だけはあるようだ。かなり優れた魔術師に指導を受けたのだろう。

 レクシアはベアトリスの魔法が自分に近いと思っているようだが、ベアトリスから見れば全然違う。

「つまり、お兄さんに言ったんじゃなくて、私への告白だと受け取って良いわけね。ちなみに少しだけハズレよ。私の魔法はレクシアと同質というほど近くはないの。私は魔術師というよりは魔女だから」

 するとレクシアはログを押しのけて前に出た。どうやら芯の強い子のようだ。ダークドッグに襲われて倒れていた少女とは思えない。

「私に魔法を教えてください」

 しかし、ベアトリスに肯定する気は無い。

「私、女も大好きなんだけど、今はオスの方が不足しているのよね」

「どんなことでもします。私のことを好きにしてください」

 レクシアがベアトリスににじり寄った。これはきっぱり言わないとダメらしい。ベアトリスは真面目な顔を作って少し厳しい口調で言った。

「坊やの言う通り、足手まといは困るわ。私達は冒険者なの。魔獣退治や用心棒が仕事なわけ。戦えないあなた達は完全に邪魔なのよ。ここまで連れてきてあげただけでも感謝してちょうだい」

 ベアトリスにとっては精一杯の冷たい言葉のはずだった。だがレクシアには全く効果が無かった。

「足手まといにならないように努力するから。一緒に連れてって」

 そしてレクシアはベアトリスに抱きついてきた。


 ベアトリスは困ってしまった。ここまで素直に慕われたことはない。慕われるように仕向けたことなら何度もあるが。おかげで、ちょっと気分が良くなってしまった。

「そろそろご飯の時間ね。今日は泊まっていっていいわよ。今夜だけは襲わないでいてあげるわ。みんなにもそう言っておく」

 ベアトリスはごまかすように言って風呂場から出た。

 内心まずいと思いながら、キャロンとアクアの元に戻ると、キャロン達に相談する前にレクシアが追って出てきた。

 レクシアに抱きつかれるベアトリスを見て、キャロンとアクアは驚いたような顔をする。ベアトリスは苦笑するしかなかった。



「・・・ってわけよ」

 深夜。キャロン、ベアトリス、アクアは、布団を出て、再度打ち合わせを行っていた。

 あの後のレクシアはものすごくしつこかった。キャロンもアクアも全く眼中になく、ベアトリスにしがみついて、弟子にしてくれと頼み込んだ。

 夕食を部屋に持ち込んで食べさせたが、弟子にしてくれないと食べないと、訳のわからない脅迫までしてきた。

 それはベッドに入ってからも続き、とうとうベアトリスは強制的に魔法でレクシアを眠らせてしまった。

 現在レクシアはベアトリスに抱きついているつもりで寝ており、ログは椅子で一人眠っている。聞かれては困るのでログにもベアトリスは眠りの魔法をかけておいた。


「妙に好かれたな。ベアトリス」

 アクアがからかうように言う。ベアトリスはこめかみに指を当てた。

「どう考えても好かれる要素はないんだけど」

 むしろひどいことをしたという自信ならある。罪悪感はないが。

「魔術師らしいと思われたんだろう。アクアは魔術師に見えないし、私は一応魔術師っぽくはあるが、体格が戦士側だからな。レクシアは魔術師にあこがれがあるようだ。おまえの弟子になれば魔術師になれると思ったんだ。まぁ、間違いではない」

 キャロンが言う。

「そうね。魔術師になるんなら、誰かに教わる必要があるわよね。でも、仕事中にそんなお願いされても困るわよ。それに十七の私が師匠ってあり得ないでしょ!」

「おまえもまんざらじゃなさそうじゃねぇか」

 ベアトリスの独白にアクアが言う。ベアトリスはむすっとした顔で答えた。

「まぁ、レクシアは可愛いからね。私、美形は好きよ。幼女嗜好って事は無いけど、一応あの子は許容範囲内ね」

「だったら、明日の調査は私とアクアでやるから、一日レクシアに修行をつけてみたらどうだ? その結果、使えないと判断して追い出せばいい。それなら納得するだろう」

 ベアトリスはため息をつく。

「そうね。みんなには迷惑をかけるけど、キャロンの提案に甘えるわ。明日の行動は二人に任せて、レクシアに魔法を教えてみるわね」

「十七で師匠って格好良いな。私も誰か弟子にしようかな。私は十八だから、ベアトリスには敵わないけどな」

 アクアが笑う。

「人ごとだと思って」

 ベアトリスは口を尖らせたが、その時のアクアは自分でフラグを立てたことに気づいていなかった。


 翌朝、朝からしがみつくレクシアに、ベアトリスがその日だけという約束で修行をつけることを伝えたとき、ログの顔は絶望にゆがんだ。

 部屋に持ち運んできた朝食を取ると、ログは皆に何も言わず。宿を出て行った。それを見ていたレクシアは表情を固めてしまった。


 ベアトリスはレクシアと自分を結界で見えないようにしてから、部屋を出て行った。

 キャロンとアクアもその後で、部屋を出た。

 そのままの足で、再度順風亭を訪れる。情報集めは冒険者の宿が一番いい。ここでグレスタ城に関する聞き込みを始めようとした。

「どこから行く?」

「受付でスピナに聞いてみたいところだが、今はいないな。まず、どんな依頼があるかを確認してみよう」

 二人は掲示板に張り出されている依頼書をチェックする。この仕組みはダグリシアと変わらないらしい。

「意外と町の外の仕事が多いな」

「ああ、ダグリシアだと、人捜しとか、強盗を捕まえるとかの仕事もあるんだけどな」


 キャロン達が依頼書をチェックしていると、後ろから声をかけられた。

「あ、キャロンさん」

 キャロンがふりかえるとスピナが依頼書の束を持って立っていた。

「たぶん依頼の受け方はダグリシアと変わらないと思いますけど、一応言っておくと、新しい掲示は朝八時に張り出します。ちょうど今ですね。だからそこにあるのは昨日から残っているものとなります」

 そしてスピナはキャロンの横を通って前に出て、新しい依頼書を上の方に張り出し、古い依頼書は下に下げて張り直していった。

 冒険者達が集まってくるので、いったんキャロン達はその場を離れた。依頼を受けるつもりだったわけではない。


 しかし背の高いキャロンは遠目で依頼を見て声を上げた。

「グレスタ城だと?」

 張り出された依頼書の中にその名があった。

 ある冒険者がその依頼書に手を伸ばしたので、すぐに割り込んでその依頼書を横から奪い取った。

「お、おい!」

 手を伸ばしていた冒険者が非難の声を上げる。

「悪いが、早い者勝ちだ」

 キャロンが手に取った依頼書をアクアものぞき込む。

「城の調査?」

 アクアがつぶやいた。

「まさか、いきなり当たりを引いたか」

「どうやらこの仕事、私達に都合良く進むようになっているようだぜ」

 アクアとキャロンは早速受付に行く。しかしすでに列ができているので、ちょっと待つ必要がありそうだ。

「ダグリシアの依頼書とはちょっと違うな。あまり詳細が書かれていない」

「ゼロ、スラッシュ、五ゴールド?。なんだこれ」

 二人で依頼書を見ながら言い合う。

 ダグリシアの依頼書はかなり詳細な内容まで書かれている。曖昧な依頼書だと誰も受けないからだ。この依頼書にはグレスタ城の調査としか書かれていない。


 そのうちキャロンの番がやってきた。

 受付の女性に渡そうとすると、スピナがやってきた。

「何か、戸惑っているみたいでしたから、説明がてら依頼を確認させてもらいます」

 スピナが言って、その女性の横に座る。列を捌くために、キャロンとアクアについては専属で対応してくれるようだ。

 列に並ぶのが嫌でソーニーを無理矢理呼びつけることはあるが、向こうから優先してくれるのはありがたい。キャロンはそっとスピナの手を掴んだ。

「ありがとう。お礼にあんたと今夜デートがしたい」

 真顔で言うキャロンにスピナが戸惑う。

「私も混ぜろ、おまえだけずるいぞ」

 アクアは言うが、キャロンはその手を放さずにアクアを見て答える。

「早い者勝ちだ」

「あの、依頼の話ですよね」

 スピナがキャロンの手をそっと押し返す。

「仕方がない、先にそちらの話を片付けよう」

 キャロンは言った。


 スピナは内心後悔する。親切のつもりで声をかけたが、これは墓穴を掘ったのでは、と。

 しかしスピナは気を取り直して説明する。

「この依頼は、昨日の夕方に出されたものです。基本的に依頼は何時に受理されても翌朝に張り出されます。そしてこの依頼の詳細ですが」

 スピナは席を外し、後ろの箱から紙を選び出して持ってきた。

「えーと、詳細は直接話したいとのことです。もちろんその結果この依頼を受けなくてもかまいませんし、相手に断られることもあります」

 アクアが少し驚きながら言う。

「早い者勝ちで受けられるわけじゃないのかよ」

「仕事との相性もありますし、依頼を出す側も受ける側も納得して仕事を進める方が効率的ですから。依頼書には概要と、報酬、そして依頼に当たっての特記条件を書くようになっています。この方は直接詳細を話すことを望んでいますが、たいていは冒険者の宿で詳細書を預かっていますので、こちらで条件に合うか判断させてもらいます」

 キャロンが感心したように言う。

「グレスタの冒険者の宿はかなりやることが多そうだな」

「そうですね。常に人が足りません。ダグリシアでは違うんですか?」

 スピナが言う。

「ダグリシアでは依頼と報酬の受け渡しだけだな。冒険者の宿は依頼内容をそんなによく見ていない。だから初めから依頼書に詳細な内容が書いてあって、それで納得した者が受ける」

「場所が変わるとやり方も違うんですね」

 キャロンの答えにスピナが感想を言う。


「それよりよ、この報酬の所のスラッシュは何だ?」

 アクアが割り込んだ。ゼロと五ゴールドの関係がよくわからない。

「それは前金無しで成功報酬を五ゴールド払うという意味ですね」

「「前金がない!?」」

 二人は声を揃えて驚く。

 ダグリシアでは報酬は完全に前払いだ。後からお金を払おうとする貴族などいない。仕事の成果をどんなに示しても、僅かなミスやいいがかりのネタを見つけて、報酬を踏み倒す。だから貴族相手にお金をもらわずに働くのはかなりの愚行と言える。

 しかしスピナは笑う。

「当たり前じゃないですか。普通成功しないとお金なんてもらえませんよ。前金があるのは準備が大変になりそうな依頼くらいですね。今回は調査依頼ですから。前金があることの方が珍しいと思います」

「それだと、仕事をしたあとに難癖をつけられて、一銭ももらえないと言うことがおきそうだが」

 キャロンが言う。しかしスピナは首をかしげた。

「冒険者の宿で、依頼を受けた段階で依頼者から報酬の全部か一部を預かることになっていますから、成功したときに払わないなんて事は無いですよ。もちろん失敗したときは依頼者に返すので、依頼者も損はないです」

「それだと、冒険者の宿で報酬を盗めるじゃねぇか」

 アクアが言うとさすがにスピナはむすっとした顔をした。

「そんな事しませんよ。もちろん仲介手数料は別途もらっていますし、やっぱり信用が一番です」

「だいぶんダグリシアとは違うのだな」

 キャロンはダグリシアでしか仕事を受けたことがない。討伐などで遠征することもあるが、遠征先では冒険者の宿で情報集めはしても依頼は受けなかった。


「まぁいい」

 キャロンは言葉を続けた。

「このグレスタ城調査を受けたいんだ。どうすればいい?」

「今から先方に連絡しますので、少し待って頂くことになると思います。会って話したいという依頼者はグレスタでもかなり珍しいんですよ」

 スピナはそう言って、手続きを進めた。

 時間がかかるようなので、キャロンとアクアは喫茶スペースの長いすに行って座った。

 そこで順風亭の内部を眺める。

「あんたはダグリシア以外でも仕事をしていたんだろ。他の冒険者の宿ではどうだったんだ。ここのやり方の方が普通なのか」

 アクアが天井を見上げる。

「あの頃は仕事を受けてたっていっても、報酬も内容も見ていなかったしなぁ。男がいるかどうかで選んでいたし、もしかしたら金も受け取り忘れてたかも知れねぇ」

「つまりあまり覚えていないと言うことか」

「そうだな。それより、なんか物足りねぇっつうか」

 アクアが周りを見ながら言った。ダグリシアの冒険者の宿とは異なり、すさんだ雰囲気はない。

「ひりひりしてはいないな。冒険者達も結構のんびりしている」


 そんな話をしていると一人の男が近づいてきた。たくましい体付きの戦士然とした男だ。アクアの横に腰を下ろす。

「あんたらよそから来たんだろ」

「ああ、ダグリシアから来たんだ。よろしくな。まだこっちの事は良くわからねぇんだ。色々教えてくれよ」

 早速アクアは笑顔で男にすり寄った。男の太ももに手を置く。

 すると後ろからキャロンに引きはがされた。

「仕事中だろ。私を差し置いて男にこびを売るな」

 しかしアクアはキャロンを振り払う。

「早い者勝ちだ」

 その男はちょっと引き気味の顔でそんなやりとりを見ていたが、話を続けた。

「俺はカーランクルズ。ここグレスタでは結構長いぜ。わからないことがあったら何でも聞いてくれ」

「ああ、たくさん聞きたいな。おまえはソロか」

「いや、男三人のチームだよ。あんたらは戦士と魔術師かな。試しにパーティを組んでみるかい。俺以外は斥候と射手でね。前衛は大歓迎だ」

「良いね。今受けている仕事が終わったら、ぜひ一緒にやりたいぜ。まずは今夜当たり、集まらないか」

 ぐいぐい来るアクアに、カーランクルズは少し慌てる。露出と容姿に引かれて声をかけたが、こんなに積極的に来るとは思わなかった。


「キャロンさん、アクアさん」

 窓口から声がかかる。

「おい、呼ばれたぞ」

 キャロンがアクアの肩を掴んで再度カーランクルズから引き離した。アクアはキャロンを振り返って言った。

「キャロンも一緒にどうだ」

 するとキャロンは真顔で答えた。

「私はスピナを落とすことに決めたから、そっちには参加しない」

 キャロンはアクアの腕を取って立ち上がった。

「また後でな」

 アクアはカーランクルズに手を振って、その場を後にした。


 二人が窓口に行くと、スピナはカウンターの上に地図を広げた。

「今日の午後一時にこの屋敷に行ってください。モンテスさんという方です」

 順風亭の場所と目的地に印をつける。

「午後一時? 結構遅いな」

 アクアが言うとスピナが答えた。

「問い合わせたところ、執事のバロウズさんから連絡がありまして、いつも午前中は散歩をしているため、一時以降にならないと帰ってこないとのことです」

「気ままな奴だな」

「気ままというか、日課なのでしょう。とにかく依頼人の希望ですから、午後一時にこちらに向かってください」

 スピナが言う。

「この辺りは貴族街なのか。私達が行っても問題ないのか」

「貴族街、ですか。まぁ、確かに貴族の方達が住んでいる地域ではあります。でも、別に誰が通っても問題はないですよ。ダグリシアは違うんですか?」

 スピナが不思議そうに言うとキャロンは答えた。

「ダグリシアでは貴族街は貴族しかいないな。平民が紛れ込むとかなり注目される。逆に平民街には物好きの貴族しか寄りつかない。基本的に平民と貴族は対立しているし、お互い騙し合いをしているような関係だ」

「なんか落ち着かない環境ですね。グレスタではそんなことはありませんよ。もちろんねたみや理不尽がないとはいいませんが」

「場所が変わると文化も変わると言うが、グレスタはかなり温和な地域なのだな」

 キャロンは素直に感心した。この冒険者の宿の温和な雰囲気の理由が分かったような気がする。

「それでもだいぶん変わりましたよ。もともとグレスタ伯が治めていた頃は治安も良くて活気もありました。現在はダグリスから派遣された、何とかという貴族の人がグレスタを治めていることになっていますが、ほとんどグレスタにいないようですし、そのせいか、だんだん荒れてきています」


 地図を見ていたアクアが割り込んだ。

「おい、スピナ。この依頼にあるグレスタ城というのはどこにあるんだ? まさかこの町中なのか」

 もしグレスタ城というのが町中にあるというのなら、この依頼は外れである。グレスタ城とは違う郊外の廃城を探さなくてはいけない。町中にオウナイ一味のアジトがあるとは思えない。先に確認しておけば良かったのだが、グレスタ城にオウナイ一味がいるという路線で進んでしまっていた。

「えっ。グレスタ城は行ったことはないですが、確か北に二、三十キロくらい離れたところにあったかと思います。詳しいことはわからないので、モンテスさんに聞いて頂いた方が良いかと思います」

 とりあえずは外れではなかったようだ。アクアは少し安心する。

「じゃあ、グレスタ城以外、郊外に廃墟のようなものはあるか」

 キャロンが続けた。スピナは少し考える。

「あるのかも知れませんけど、良くは知りませんね。南の鉱山の向こうに住居跡があるとか、そういう廃村の話なら魔獣退治の依頼にもありますのでいくつかわかるのですが、城のような廃墟となると、すぐには思い出せません。もし必要なら調べますよ。ちょっと料金をいただくことになりますが」

「いや大丈夫だ。十分役に立った。やっぱりスピナは色々知っているんだな。私はここのことが全くわからない。夕方でも良いんだがもっと教えてくれないか」

 キャロンが再度スピナの手を掴む。

 スピナが驚いて手を引こうとするが、キャロンはスピナの手を放さなかった。

「おまえもずるいだろ。もう終わりだ」

 アクアがキャロンを引っ張り、スピナから引き離した。

「まぁ、まずはモンテスに会ってからだな。じゃあ、スピナ。また後で会おう」

 そしてアクアとキャロンは順風亭を出て行った。

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