第9話 ログ視点・一日目の夜
僕らは背中を押されるまま風呂に入った。いろいろ考えることがある。
僕らはもくもくと体を洗った。
でもただ考えているわけにはいかない。この先のことを話し合わないと。たぶんそれを見込んで彼女たちは僕らを二人きりにしてくれたんだろう。
僕は立ち上がって湯船をでた。レクシアも立ち上がる。僕はレクシアを見てしっかり言った。
「ここがどこかはわからないけど、僕ら、この町で働こう」
すぐにでも村に戻って父さんや母さんの安否を確かめたい。でもそれは現実的じゃない。まずは何でも良いからお金を貯めなくちゃいけない。グレスタに行ってグレスタ伯を探すのもその後だ。
「だけど、お兄ちゃんはお父さんみたいな戦士になりたいって。町に出たら冒険者になるって言ってたよね」
レクシアが僕に言う。でも僕の答えはもう決まっている。
「レクシアを守れないなら僕には無理だよ」
僕らは冒険者に憧れていた。僕は戦士、レクシアは魔術師を目指して父さんや母さんに習って修行した。父さんは何でも教えてくれたから、僕はもう一人でもある程度できるんじゃないかと思っていた。でもそれは違った。戦士なんてほど遠い。今はまず、この町で生きることが重要だ。冒険者を夢見ることより、まず働ける場所を探さなくてはいけない。
「私は……」
すると、レクシアが言いよどむ。
「どうしたの?」
いつもは僕に従ってくれるのに何か歯切れが悪い。僕が不思議そうに見ていたら、レクシアは意を決して言い切った。
「私、ベアトリスさんの弟子になる」
「え?」
それは予想外の答えだった。僕は戸惑う。
「あの人の魔法は私と同質だと思ったの。私は攻撃の魔法とか使えないし、あの人も使っていなかった。だから、あの人に習えば、私はもっと魔法を使えるようになると思うの」
僕は驚いた。そして少し腹が立った。僕はレクシアの為になら、どんな仕事でもやろうと思っていた。でも、レクシアはまだ夢を見ようとしている。魔術師として冒険者になる夢を。
「ベアトリスさんが聞いてくれるかな」
少し意地の悪い言い方をした。でも本心だ。彼女たちは恩人であっても善人ではないと思う。
レクシアはうつむく。
「私は、○○しかない。気に入ってくれるかわからないけど」
「足手まといなのに、僕らをそばに置いてくれるとは思えないよ」
僕にはレクシアの選択が正しいとはとても思えない。
キャロンのダークドッグを一撃で葬った手腕。ベアトリスの結界を作る絶大な魔力。確かに彼女達は一流の戦士達のようだ。
だが、彼女達は僕らが殺されそうになる瞬間まで見殺しにしていた。そして弱い僕達を脅して陵辱した。救ってくれたことには感謝できるけど、早々に彼女達から離れるべきだ。
僕が説得しようとしたら、レクシアは更に言ってきた。
「私は決めたの。お兄ちゃんは関係ない」
反対する僕が気に入らなかったようだ。多少ムキになっている気がする。でも僕も腹が立っている。レクシアはまだ子供だ。信頼する人を間違っている。
「僕はレクシアのために!」
でも僕の言葉はレクシアに遮られた。
「ベアトリスさんなら守ってくれる」
僕の頭に血が上った。
「それが本音なんだね。僕はレクシアを守れないから必要ないって事だろ」
僕は悔しさでいっぱいになった。結局僕よりもベアトリスを選んだって事だ。僕は役立たずだから。
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