第7話「友達」



「お前、藤木さんと仲良いよな」

「何、急に」


 昼休み。教室で菓子パンを食べていると、友人(?)の鈴木すずきが空いていた前の席に座って開口一番そう言った。


「いや、休み時間とかたまに話してるから」

「あー……席隣だしね」

「だとしてもよ、藤木さんあんまり人と話さないタイプだろ? だから意外でさ。会話とか続くのか?」

「意外と面白い人だよ」


 誰も座っていない隣の席を見ながらそう返す。購買に何かを買いに行ったのだろうか。


「へぇ……それはマジで意外だ。無表情で冗談とか言わなそうなのにな」

「人は見かけによらないってことだね」

「お前みたいにな」

「え、どこが? 僕ほど見た目通りな人もいないと思うけど」

「一見すると顔はいいし人当たりよくてまともそうなのに、実際は変人じゃねえか」

「待って、僕が変人なのは共通認識なの?」

「もちろん」

「何故だ」


 解せぬ。僕が何をしたというのだ。変なことは一つもしてないというのに……。


「僕ほど普通な人はいないよ?」

「本当に普通のやつはそんなこと言わない」

「変人扱いされたから答えただけなのに……」

「そもそもな、普通高校生ってのは群れるんだよ。個人差はあるけどな。大体いつものグループってのがあって、そこの中で遊ぶわけ」

「まぁそういう人は多そうだよね」


 同じ部活だとか、席が近かったとか、中学が一緒だとか。どこか接点がある人同士で仲良しグループを組んでいることが多いように見える。


「それがどうしたの?」

「お前はどうだ? 特定の仲良い人もいないのに、何故かどこのグループからも遊びに誘われないか?」

「仲良しグループ以外の人とも遊ぶの普通でしょ?」

「普通、そこで身内ノリについていけなくて気まずくなるんだよ」

「そんなもんかなぁ?」


 あんまりそういうの気にせずに遊べるタイプなのでよくわからない。少しノリについていけない瞬間があっても、一人でいる時間だと思えば別に嫌ではないし。


「だってさ、いちいちグループとか気にしてたら面倒じゃない?」

「気にする気にしないってことでもないんだが……価値観が違う」

「よくわからん」


 別に誘われるから行ってるだけだし、みんな何を気にしてるのかよくわからん。楽しくならそうなら断るだけだし。


「あれか、お前が変人だから藤木さんも話しかけやすいのか」

「だから変人じゃないって」

「最初の話に戻るけど、お前らってどこか遊びきったりすんの?」

「無視かよ……藤木さんとどこか遊びに行くかって?

 行ったことないよ。誘われてないし」

「お前から誘えばいいじゃん」

「向こうの興味あるところ知らないし、そもそも友達っていうか……知り合いとか隣人みないな感じだから、遊びに誘うって雰囲気でもないんだよね……って、どうしたの?」


 急に頭の上に何かが乗せられて、そのままぐしゃぐしゃっと髪を掻き乱すように動く。軽く後ろを見てみると、そこには藤木さんがいて、どうもどうやら右手で僕の頭を荒い手つきで撫でているようだった。おかげでどんどん髪が乱れていくのがわかる。


「あの、藤木さん?」

「…………」

「なにか言ってくれないと困るんだけど」

「……友達」

「へ?」

「私と宇都美くんは友達。オーケー?」

「あ、うん。藤木さんがそれでいいなら」

「よし」


 何か満足したようで、乱れた僕の髪を放置したまま再びどこかへ去っていく藤木さん。


「急にどうしたんだろうね?」

「ああ……」


 髪を手櫛で直しながらそう言うと、何故か鈴木の反応が鈍い。


「どうしたの?」

「いや……なんでもない。ほら、細いんだから飯を食え、飯を。」

「いや、もう買ってたやつ無くなるんだけど」


 その後再度尋ねてみても、何が気になっていたのかははぐらかされてわからないままだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る