第6話「問題6」
春も終わり初夏と呼ぶのに相応しい気温になってきた今日この頃。
僕といえば数Aが急遽自習になりぼんやりと課題を解いていた。
まぁ、大した量もないしあと一問で終わるのだけれど。
「ねぇ、宇都美くん」
「ん?」
騒がしい教室。うっかりすると聞き逃しそうな声量で名前を呼ばれる。
「昨日の夜何食べた?」
「夕飯……? なんだったかな。ああ、あれだ。冷凍餃子」
あれは便利なものだ。フライパンで火を通すだけでできるし、美味しい。
冷凍食品がある現代に生まれてよかったと心底思う。
「私の家は昨日カレーだったんだけど、うっかり買うやつ間違えちゃって」
「ふむふむ」
「普段中辛なのに辛口だったんだよ。しかも期間限定で辛味多めのやつ。まぁ痛かった」
「それはご愁傷様」
「辛味は痛覚だって話あるけど、本当なんだって実感した。
宇都美くんは辛いの食べれる?」
「……これは持論なんだけどね、辛いものって人の食べ物じゃないと思うんだ」
「私も辛いの苦手だから同意するけど、いろんな人を敵に回しすぎじゃない?」
だって、辛味って痛いだけだし。美味しいって気持ちがこれっぽっちもわからん。みんなそんなに痛いのが好きなのか?
そもそも痛いってことは体から警告が出されている状態な訳で、そんなもの食べるなと言いたい。
「だって……良さがわからないし。僕には甘いものがあればそれでいい」
「甘いの好きなんだ」
「大好き。愛してる」
「私も甘い方が好き。ちなみに、一番好きなのは? 私は板チョコ好きなんだけど」
「んー……氷砂糖」
「は?」
「ほら、スーパーとかで果実酒とかシロップとか作る用の氷砂糖売ってるじゃん。あれ舐めたり齧ったりするのが好きかも」
「えぇ……」
ドン引き、みたいな顔でこちらを見てくる藤木さん。何故だ。
ここはぜひ藤木さんに氷砂糖の素晴らしさを伝えようではないか。
「まず、氷砂糖は甘い。それだけで神」
「甘ければいいってものでもないじゃん?」
「いーや、甘ければそれでいいね。
で、氷砂糖はコスパがいい。だって1キロの氷砂糖を買うのに1000円札出したらお釣りが来るんだよ? 他の甘味で1キロ買おうとしたらそんなもんじゃ済まない」
「そうかもしれないけどさ……なんというか、こう……もっとまともなもの食べた方がいいと思うけどな」
「失礼な。僕はまともなもの食べてるよ」
「信じられない。よく太らないね?」
「そんなに大食いってわけでもないから」
甘いものは食べるけれど量自体はそこまで多いってわけでもないし。普段の食事も男子高校生の平均くらいだと思う。
僕が細いのは単純に体質のせいだろうな。筋肉も脂肪も付かない。
「私なんてカロリー気にしてるのに……」
「太ってないじゃん」
「そうならないよう気をつけてるの! 女の子は油断するとすぐお腹が柔らかく……うぐっ」
「自分で言ってダメージ負わないで」
別にそんなダイエットとか気にしなくていいと思うのだけれど。藤木さんは細すぎて折れそうなくらいだし。
まぁ、女子に細くなりたいっていう欲望があるのはわかるし太れとは言わないけれど、男子からすれば細すぎるよりは程々に肉があった方がいいような気がする。その辺の基準も男子の理想と女子の考えで差異があるのかもしれないけれど。
「はぁ……宇都美くん、なんか嫌になったから問6教えて」
「問6……ああ、この問題ね。いいよ。そこはね──」
急に真面目に課題をやり始めた藤木さんに請われるがまま、僕は解き方を教えていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます