第4話「今日眠そうだね」



 数学の時間が終わり次の授業で今日の学校は終わりになる休み時間、僕は珍しく机に突っ伏していた。

 というのも、昨夜ふと昔読んだ漫画をもう一度読みたくなってしまい、1巻から読み始めたら止まらなくなって気が着くと外が白み始めていたのだ。

 そのためさっきの授業も死ぬほど眠くて記憶がない。たぶんほとんど寝てた。

 今もほとんど寝ているようなものだし。


「宇都美くん、今日眠そうだね」


 と、ダウナーな雰囲気を纏った声が僕の右の鼓膜を震わせる。

 頭を机に乗せたまま顔だけそちらに向けて「まぁね」と返事をした。


「ほとんど徹夜で学校きたから眠くて」

「何してたらそんなことに……?」

「家にあった漫画、読み返したくなって読んでたら朝だった」

「ちなみに何読んでたの?」

「大秘宝を探し求める海賊の漫画」

「出てる巻数的に徹夜になるのわかったよね?」

「少しだけ読んで止めるつもりだったんだよ……」


 でも止まらねぇんだ、面白すぎてよ……。

 作者は本当に天才だと思う。次の巻はいつだったかな。


「面白いのはわかるけど、徹夜はどうかと……ノートも取れなくなるのはダメだよ」

「全くもっておっしゃる通りです」


 母親からは何も言われなかったのに、クラスメイトから苦言を呈されるとはこれいかに。


「まぁ……1日くらいノート取らなくても大丈夫」

「世界史はノート集めるけど?」

「…………後で誰かの見せてもらう」


 僕だって、ノートを見せてくれる人間もいないような寂しい男ではない。あとで写すのは面倒だけど。


「はぁ……スマホ貸して」

「え、いいけど」

「ロック」

「えー……ほい」

「……要求したの私だけど、警戒心なさすぎじゃない?」

「別に見られて困るものないし」


 呆れたように言う藤木さんだが、僕からしたらそこまで警戒する理由がない。ほとんど写真は入ってないし、クレジットカードとか支払いに使えそうなものは入れていない。ただ連絡したりゲームしたりするための機械だ。


「だとしても警戒しようね……ほら、友達登録したよ」

「ん? あー……何故?」

「後で今日の分のノート写真撮って送ってあげる」

「え、マジ?」

「うん。特別」

「ありがとう。藤木さん、字綺麗だから助かる」


 男友達はノートも字も綺麗じゃない人が多くて、ノートの文字を解読する必要があったりして少し困っていたのだ。

 藤木さんのノートを見る機会はないものの、小テストの採点が隣の席と交換して行うタイプの授業の時にペアになるため、時の綺麗さは知っているのだ。


「そんなに綺麗じゃないよ。普通」

「そんなこと……ふわぁ……ないと思うけど」

「自然にあくび挟んできたね」

「眠いんだから仕方ないじゃん」

「とりあえず寝たら? 放課後に起こしてあげる」

「授業中は寝かせておいてくれるんだ……優しいね」


 寝かせてくれるらしいので、腕を枕に机に突っ伏す。

 隣から視線を感じているので寝にくいかとも思ったが、あまりの眠さにすぐ眠りについてしまった。



◆ ◇ ◆



 夜。目を擦りながら風呂に入ってあとは寝るだけになった僕は、机の上に置いておいたスマホに通知が来ていることに気がついた。

 なんだろうと思ってロックを解除すると、見慣れないアイコンの人からメッセージが来ていた。

 アカウント名は「ふじき」。そういえば昼間藤木さんとフレンドになったな。眠かったから断片的にしか覚えてないけど。


『今日の分のノート』


 という簡潔なメッセージと数枚の写真が送られてきていた。

 中を確認するとわざわざ光源と角度を調整して見やすく撮られたノートが科目ごとにまとめて送信されている。


『ありがとう本当に助かる。何かお礼するよ』

『いらない。今日はもういいものもらったから』


 と返信があったものの、特にあげたものに心当たりのなかった僕は、明日何か買って行こうと決意しつつ、寝るためにベッドに飛び込んだ。

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