第3話「犬と猫、どっち派?」


「犬と猫、どっち派?」


 昼下がりの教室。先生に急用ができたため急遽生まれた自習時間、僕がぼんやり教科書を眺めていると隣からそう声をかけられた。

 一応、僕に声をかけているのだと確認するためにチラリと横に目を向けると、パチリと目が合った。


「……難しい問いかけだね。それに答えを出すにはあと数年かかるかもしれない」

「そんな難問を出したつもりないんだけど?」

「だって、犬は可愛い。猫も可愛い。従順な犬もいいし、自由奔放な猫も素晴らしい。犬と散歩するのも、猫とこたつで丸くなるのもいい──決められるわけないよね?」

「そうかな?」

「じゃあ藤木さんはどっち派なの?」

「私? ペンギン」

「第三勢力はズルでは?」

「だって犬猫よりも好きだし。ほら、可愛いでしょ」


 そう言って僕に見せてきたのは、コウテイペンギンが描かれたシャープペン。確かに可愛い。


「ペンギンも可愛いけど……それがありならハムスターとかも選択肢に入れるべきじゃない?」

「たしかに。あと何入れる? チンチラとか?」

「いいね。ウサギとオウムとかも入れよう」

「豪華になってきたね。じゃあ子熊とチベットスナギツネも追加で」

「普通のキツネじゃなくてチベットスナギツネなんだ……」

「私、そっちの方が好きだし。あの微妙な顔がいい」

「印象には残るけれども……じゃあ僕はリスとラッコで」

「可愛いが集まってきたじゃん。それじゃあ……」

「待って、いつの間にか趣旨変わってない?」


 頭の中が可愛いで埋め尽くされてきたところでふと正気に戻る。

 藤木さんの方はまだ理性がキュートの中にトリップしているようで、頓珍漢なことを言い始める。


「ん? 最高のカワイイ動物園を作ろうって話じゃないの?」

「そんな話は断じてしていない。

 ってか、最初の犬派か猫派か問う問題は結局何だったの?」

「ああ、それね。今度ゲームのイベントで犬派と猫派の陣営に分かれるイベントがあって、そのチームどうするかの参考にする」

「あー、そういうことね」

「ちなみに、どっちがいいと思う?」

「んーーーーー…………ギリギリで猫」

「じゃあ犬派陣営で行くか」

「人の話聞いてた?」

「だってこのゲーム人の少ない方の陣営に着いた方が有利なんだもん」

「なるほど。つまり普通の人の感覚を知りたかったわけか」

「普通の人……?」

「あれ、なんでそんな不思議そうな顔するの?」

「普通……普通、か?」

「え、待って、僕普通って思われないようなこと何かした?」

「神のみぞ知る」

「ねぇ藤木さん!? ねぇってば!」


 以降、スマホでゲームを始めた藤木さんを問い詰めてみたのだが、帰ってきたのは一番金になると言われる沈黙だけだった。

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