第2話「なぜ人は争うのか」
ぼんやりと教室の声を聞いていると、わりと色々な話が聞こえてくる。
「昨日見たドラマが──」
「あの配信者に恋人が──」
「この前映画に行ったんだけど──」
「昔喧嘩した時、傷が──」
まとまりのない断片的な声だけを拾ってみると、なかなかにカオスな内容が生まれる。
その中に興味のあるワードとかが出てきたら聞き耳を立ててみたりネットで調べたりすると、SNSでトレンドを見るよりも面白い情報が得られたりする。
「
「ただの隣人に投げかけるには重い話だと思うんだけど」
藤木さんは急に僕の名前を呼ぶと、人類が未だに答えを出せずにいる超難問をぶつけてきた。
こんなの誰が答えられるんだ。ニーチェとかか?
「争ったって無駄に疲れるだけだと思うの。なのに、人は愚かにも争うのはどうしてなのかなって」
「うーん……生まれついての闘争心があるからとか?」
「進化の過程で捨てちゃえばいいのに」
「選んで捨てられるものでもないでしょ。進化の方向性選べるなら、まずはハゲと加齢臭から消すべき」
「ハゲと加齢臭そんなに許せないかなぁ? ハゲに身内殺された?」
「父さんの髪が何者かによって殺されてきてるだけだよ」
僕の髪質はふさふさの母親の方の家系に似ているから大丈夫だとは思うのでまだ冷静を保てるが、父の方はやばい。知っている父方の親戚の殆どの髪はお亡くなりになっている。
「それは……ご愁傷様。ハゲは遺伝らしいよ」
「母方は無事だから大丈夫。髪質は母親の家系似だし」
「でも毛根が似てるとは限らな──」
「母親似だから。いいね?」
「あ、うん。なんかごめん」
わかってくれたならいいんだ。僕が将来ハゲるなんてそんなことあるわけない。あるわけないんだ……。
「で、僕たちがさっきまでしてたのはなんの話だっけ? ハゲの治し方?」
「いや、そんなんじゃなくて……あれ、なんだったかな」
「忘れたね」
「だね」
まぁ雑談とはそんなものだ。過ぎ去った話題のことなんて誰も覚えちゃいない。無為な行為だと思う人もいるかもしれないが、それがいいんじゃないかと僕は思う。無駄を楽しむことこそ人生で一番大事なのだから──なんてね。
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