隣の席の女子と、徒然なるままに。
海ノ10
第1話「1たす1は?」
高校の短い休み時間ほど使い方に困る時間もない。そう僕は思っている。
友人がいないわけではないけど、休み時間の度に席に行くのは面倒くさいので行かない。
毎時間トイレに立つ必要もない。
席を明け渡す理由もない。
というわけで、僕は高確率で自分の席に座ってぼんやりとスマホを触って時間を潰すのだ。
これがなかなか楽しい。SNSでいろんな情報が流れるのを見ると面白そうなゲームとか漫画とか映画が見つかるし、それに飽きたらスマホを触っているフリをして教室の人間観察をすればいい。「あいつはあの子のことが好きなんだな」とか、色々わかってきて小説が一つ書けるのではないかと思うくらいには充実した青春成分を摂取できる。
……自分で青春をすればいい? それができる性格なら自分の席に根を張る生活は送っていない。
ふと、窓から風が吹き込んできてカーテンが動く。それで何かあるわけではないが、動くものがあると自然とそちらに視線が向く。
「……ねぇ、思ったことがあるんだけど」
近くから声が聞こえて、僕は窓の方を見ていた顔を180度近く回し廊下側を見る。
すると、隣の席に座る
クラスで一番かはわからないが、可愛い子は誰かと聞かれたら名前が上がるくらいは整った顔立ちに、落ち着いた声。ショートボブの髪は艶のある黒色をしている。クールで一匹狼的な雰囲気を醸し出しているため人と話しているところを見ることは少ないが、密かに人気があるクラスメイト。
「どうしたの?」
隣の席なので、話をするのは初めてではない。だから僕に話しかけているのだとすぐに理解して、そう尋ねた。
「『1足す1は?』って聞かれて、『田んぼの田』って答えるやつあるよね」
「ああ、あるね」
『1+1=』を重ね合わせると漢字の田になるというあれだ。
小さい頃はよく聞いたものだが、それがどうしたというのだろうか。
「あれってさ、すごくくだらないと思うの。しょうもないし何が楽しいのか……人間性を疑う」
「びっくりするくらいディスるじゃん。親の仇にその質問されたの?」
「あれは私がまだ
「驚くほど私怨」
「私怨ですけど問題でも?」
「僕に圧をかけるな……で? そのむかつく引っかけ質問がどうしたって話?」
「いや、ただむかつくなぁって思ったから」
「……それだけ?」
「それだけですけど問題でも?」
「だから圧をかけるな。微妙に怖いから」
元が美人なだけに圧をかけられると微妙に恐怖を感じるからやめてほしい。
というか、オチも何もない話を聞かされて僕はどうすればいいのだろう。
「そっちは何かないの? むかつく話とか」
「急に僕に話題振るね……んー……そうだな……」
とは言っても、あんまり何かに対してイラついたりすることがない。いや、イラついたりむかつくことはあれど、割とすぐ忘れる性格なので覚えていないだけだ。
とはいえ話を振られた手前何も言わないのはよろしくない。
一生懸命頭を振り絞って記憶を掘り起こして……一つ、最適なことを見つけた。
「そうだね。あれは僕がまだ──」
「あ、チャイム鳴った。先生来るよ」
「……今が一番イラっときたかも」
記憶中枢から捻り出した渾身のネタを無碍にされたこの恨みはどこに向ければいいのだろうか。
とりあえず、八つ当たりに世界史の教科書に出てきたよくわからん人物の肖像画に髭の落書きを付け足しておいた。
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