第1話 令和の時代からこんばんは
それは突然だった。
パジャマ姿でテレビを見ていただけ。
ちょっとテレビのチャンネルをかえようとしただけだった。
使い慣れたリモコンを手にとって、ボタンも見ずに押した、その瞬間
「設定画面に移行します」
その時テレビから女性の機械的な声が何か聞こえたけれどよく聞き取れなかった。
テレビ画面が一瞬暗くなった後、青い背景に英語が並んでいる。
パソコンのエラー画面、ブルースクリーンになってしまった。
このテレビ、まだ壊れるには早くないかな、と思った私はリモコンのチャンネルボタンをいろいろ適当に押してみた。
画面に変化はなかった。
電源ボタンを押しても、リモコンの電池をかえてもうんともすんともしない。
ダメだ。
これ、完全に壊れたやつだ。
そう投げやりになった私がさじを投げてリモコンを手放した時
「かしこまりました。あなたの
今度はしっかり聞き取れた。
しっかりと聞き取れた上で何を言ってるのかわからなかった。
え?今なんて言った?
何を確定って言った?受理って何?
その時の私はコンピューターウィルスとかバグとかなんとか詐欺とかに怯えてた。
「位置、異世界。国、
え?
「起動開始」
瞬間、私の目の前が真っ白になる。
それは徐々に広がり白い光に呑み込まれるみたいになった。
あまりの眩しさに思わず目を
動くことも悲鳴をあげることすらできず、私はそのまま立ちつくしていた。
少しの間、そのままだったけれど、少しずつ 少しずつ白さは収まっていく。
気づけば、目の前は真っ暗になった。
ほのかに香る匂いがなにかはわからない。
肌にあたる風がまるで外にいるようだった。
その時、私が目を瞑っていたことを思い出した。
家の中が今どうなってしまっているのだろう。
あの強い白い光はなんだったんだろう。
私は今、どうなってしまっているんだろう。
何もわからないまま、私は恐る恐る目を開いた。
「ちょっと待ってよ……」
自分でも誰に言っているのかはわからない。
それでも口からついて出てしまった言葉。
私の目の前に広がっていた光景はおよそ自分が想像したものではなかった。
「ここ……どこ……?」
夕焼けの中、私はテレビやマンガ、ゲームでしか見たことのない平安時代の町並みが
「ここは
突然の声に
そこにはやはりテレビやゲームでしか見たことない和服姿の
頭には
「北山?」
「はい。
彼はニコリと笑みを深くする。
「なにやらこちらから大きな力の動きを感じて確認に来てみましたが、もう何も感じませんね」
そう彼は言うと心配そうに眉を寄せながら困ったように辺りを見回した。
そして呆然としている私に一歩、近づいて気遣うように優しく微笑った。
「さて、不思議な
困っている。
確かに今とても。
家でテレビ見てただけなのに、こんな見たこともない場所にいて、イケメンの前なのにすっぴんのパジャマ姿だし。
これはどういう状況なんだろう。
巷で流行っている異世界転生とかでももう少し状況説明されている気がする。
そして死ぬような状況ではなかったと思うし。
そういえばあのテレビ、召喚とか異世界とか平安とか言ってた気がする。
異世界、召喚?
どう考えても現実的じゃない。
夢なら醒めてほしい。
どうしてここに連れてこられたの?
これからどうしたらいい?
どうやったら家に帰れる?
このクエストのクリア条件は何?
頭を悩ませる問題は山積みだけれどひとまず何よりも解決しなくてはいけない問題は
「めっちゃ困ってます。家に帰れない、帰り方もわからない。人生迷子状態です。拾ってください」
私がそう言うと少し驚いたように目をパチクリさせてから、ふふっ、と
「おやおや、少し山に
彼は優しい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと手を私にさしだした。
「何はともあれ、もうすぐ夜になります。夜の山は危ない。私の屋敷においでなさい。そこでゆっくりお話をしましょう」
彼はそう一言、口にしたところで少し
「そうだ。今回は私だったから良かったですけれど、お嬢さん?おいそれと
彼の強い口調ではないが有無言わせぬ物言いにコクコクと素直に頷いた。
彼は満足そうに微笑むと、また歩きだす。
私の手をしっかりと握ってくれているその手に安堵しながら私は大人しくついていった。
彼の家って遠いのかな?
歩き始めて、ふと何気なくそう思った時
「着きましたよ?中へどうぞ」
その声に驚いて前を見るとそこには立派なお屋敷があった。
辺りを見回すと光景は一変していた。
今の今まで山の中だったというのに。
先程、山の上から一望していた平安時代の町並みの中に自分がいた。
不思議な状況にキョロキョロと周りを見ていると彼の笑い声がして彼をみつめた。
「私、陰陽師でして。驚かしてしまったなら申し訳ありませんでした」
彼に誘われるまま、屋敷に入った。
屋敷の中も、まるでそれこそ平安時代を舞台としたドラマや映画のロケ地にでも来ているようだった。
そんなことを考えている間に彼がお茶を出してくれたのでお礼を言って口に運ぶ。
思ったよりも乾いていた喉をほんの少し温かいお茶が優しく潤してくれた。
「さて、お嬢さん。それでは少しお話をしましょうか。貴女のことを話せる範囲で教えていただけますか?」
彼にそう言われて、信じてもらえないかもしれないが今の自分の状況を全て話した。
彼はそれに何度も頷きながらしっかり話を聞いてくれた。
疑ったり、馬鹿にしたりはせず、時に考え込むような仕草をしながら。
そして彼は
「おそらくその女性の言った言葉が全てなのかもしれません。ここは貴女の世界ではなく、時代も違う場所。あなたは何らかの事故か、誰かの
彼は申し訳ない顔をして言葉を続けた。
「申し訳ありません。今の私には貴女をお家に帰してあげられる力はありませんね。手がかりが少なすぎる」
私は小さく首を横に振った。
彼はそんな私を見て、少し困ったように笑って言った。
「それでも、貴女を拾ったのは私。私には貴女を助ける義務があります。お家に帰すことはできませんがこの世界で生きていく上で必要なことは私におまかせください」
彼の優しく心強い言葉に私は少し泣きそうになった。
どうしたらいいかわからないまま、このまま一人放り出されるかもしれないと覚悟していたから。
「あ……り……ありがとう……ございますっ!」
俯きながら声を絞り出すように言った私の頭を優しく撫でながら彼は微笑った。
「私は晴明、安倍晴明と申します。お嬢さん、私の弟子におなりなさい。私が誰より近くで貴女を守れるように」
聞いたことのある名前に、顔を上げて彼をみつめた。
「ただ、一つお願いがあります。お嬢さん、私が守るにあたって一番近くで守れるのは弟子なんですけど」
彼の言葉の続きを待っていると、彼は言いにくそうにしながら言葉を続けた。
「基本、陰陽師は男しかなりません。貴族も陰陽師も役職は基本全て男です。
「私が男のふりをして陰陽師になって師匠のそばにいればいいってことですかね?」
私がそう言うと
「し、師匠ですか!?いや、大きな声をだしてすみません。呼ばれたことがなかったので驚いてしまって。……そうですね。そういうことです。貴女はそれでいいですか?」
彼は少し咳払いをしてから、いつもの
私が強く頷くと彼は笑みを深くした。
そして少し照れたように笑う。
「……私は今とても嬉しいですよ。愛弟子」
私も嬉しくて彼に笑い返す。
こうして私は
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