第2話

 ――ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 あんなバケモノ爺に答えるんじゃなかった。

 殺される。ゼッタイ、殺される。

 黒い熊と爺に食われる。

「声も出せないか、人の子。」

 ニヤニヤと爺が笑っている。

「ガアアアアオオオォォォ」

 熊が、この世のものとは思えない雄たけびを上げる。足がすくむ。でも、これだけの大声が上がれば、だれか通報してくれるかもしれない。

「ガアアアア。」

 熊が声をあげながら、私めがけて突っ込んできた。

「さぁ。逃げ惑え――!人間!」

 私は大きな桜を背に逃げていく。熊も私のすぐ後を追っかけてくる。


 走り続けて何分たっただろうか。どういうことか、いくら走っても、さっきいた公園にたどり着かない。

「グオオオ!」

 もうすぐ後ろまで熊が来ている。そして、熊は前足をおおきく振りかぶり、私に向けて爪を下ろしてくる。間一髪でそれを大きくよける。

「おお。やるのう、人の子。ほれ、褒美じゃ。」

 爺は、また花びらをフーっとふくと、それは小刀の形になった。爺はその刀をぽいっと私の方に投げてきた。

 ――どうする。罠かもしれない。でも、取り敢えず拾わないと……戦えない。戦うのか、アレと。

 再び、熊は大きく手を振りかぶると、私に襲い掛かってくる。私は咄嗟、地面に落ちている小刀を拾い上げて、迫ってくる熊の手を交わしながら刺す。

「グググオオオオオオ!」

 熊の手からは、血ではなく黒い瘴気みたいなのがあふれ出ている。

 ――よし。何とか使えた。これなら戦えるかも。

 そう思ったのも束の間。本気になった熊の反撃がくる。熊のパンチを小刀で抑えようとする。しかし、熊の力に押し負けて、私の身体は宙を舞う。3メートルくらい飛んだのか、重力に引っ張られ、私の身体は背中から落ちた。

 ――痛い痛い痛い痛い。これ、死んだわ。こんな訳の分からないヤツらに殺されるなんて。

 全身に鈍器で殴られたような痛みが伝わる。手も足も指も動かそうとすると、針で刺されるような痛みが走る。

「カッカッカ。楽しかったぞ。人の子。これで終いじゃ。やれ、熊。」

 熊は頷くようなしぐさをしてから、私に向き直る。

 ――死ぬのか。

 ――いやだ。いやだ。いやだ。

 ――死ぬのは嫌だ。……でも、それ以上に。

 ――ただ、殺されるのは嫌だ。死ぬなら、戦って死んでやる!

 私はフラフラと痛む身体を起こしながら、小刀を両手でギュッと持ち直す。

「クソが!かかってこい、このデカ物!」

「ググァァァァァ!」

 熊は雄叫びをあげながら、私にとどめを刺しに来る。

「うおおおおおおお!」

 私も熊に向かって小刀を突き刺そうとする。

 小刀と熊の手がぶつかる。熊の手が小刀をぽっきりと折れてしまった。

 ――終わった。もう逃げられない。

 私はギュッと目を瞑る。


 「筋肉制圧!!!」


 目を開けると、熊の脳天を殴りつけている少女がいた。


 「ヒーロー見参!!」

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