第2話 虚弱体質
インディゴブルーの空の東側にオレンジの楔が差し込まれる。天の支配者が月と星々から太陽へと移り替わろうとしていた。十一月であってもここは心持ち温かい気がする。
凪沙は茶封筒の中をあらためる。二万円入っていた。氏素性も知れぬ赤の他人にここまでするものだろうか。相当なお人好しだ。状況が良ければもっと美味い汁が吸えたかもしれない。凪沙はほぞを噛んだ。
「ねえこれ函館行くのに使うの?」
「ばか言わないで。これは向こうでの生活資金の足しにする。一番厄介なフェリー代はもう確保できてるし」
「そうね、凪沙の言う通り」
という割にただでさえ覇気のない
「あん」
「熱があるじゃない。どうして黙ってたの?」
「ん、大したことない、と思って」
凪沙の詰問に赤い顔で俯いて答える
「あんたの場合微熱でも大したことになるのっ」
「さっ、どっかで休みましょ」
「じゃあっちのコンビニのイートインコーナーで座って……」
「ねえふざけてるの? ちゃんと睡眠取んないとだめっ、わたしみたいに車の後部座席で済むような身体じゃないんだからあんたっ」
「……ごめんなさい」
駅前のホテルをスマホで検索し、その中でもアーリーチェックインできる一番安いホテルにチェックインした。客室に入った頃にはもう
「ごめんねお金使わせちゃって……」
布団から半分顔を出した
「いや、どっちにしても今日ここで休まないととは思ってたんだ。気にしないで」
そのつもりはなかった。
「うん。凪沙優しい」
凪沙の考えを読んでいたのか、少し涙目で微笑む
「優しくないし」
「……優しいよ」
凪沙がベッドに手をついて
「熱あるのにいいの?」
凪沙は
「うん、いいの。最近してなかったから久しぶり。三日?」
「三日を久しぶりって言うもん……?」
「ふふっ、言うもんなの」
凪沙と本来なら熱を出して寝込んでいるはずの
「ね、眠い……」
「し過ぎて吐きそう……」
と凪沙が呻く
そうなると客室に戻ってからが問題となる。要は暇なのだ。やることがない。一日で完結するようなバイトの求人もなく、二人はボーッとテレビを観て時間を潰すことになる。これは二人にとって耐えがたいことだった。もともと活発な凪沙にとっても耐え難く、絶え間なく凪沙を求める
凪沙はまだ熱発している
コインランドリーを回すとすぐそばに喫煙コーナーがあるのを見つけた。これ幸いにと凪沙はそこに滑り込む。真っ黒で細くて長い煙草に火をつけ深く吸い込む。イヤホンを耳にはめ、adoを大音量で流す。咥え煙草で脚を組み、背もたれにだらしなく寄りかかると半眼になってただ音の奔流に流される。脳が解放される。弛緩した脳に様々な思考が濁流となって逆巻く。
◆次回 第3話 追憶
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