ACT.1 アンチヒーロー⑦



休戦の申し出により一時的ではあるが、ヴァンドラが野営している拠点地へと赴く事となった二人。


意識を失っていた他の勇者や部隊長にも事情を説明し、拠点地までの道のりを同行する事となる。


現在は山岳地帯の森林エリアを下山し、草原エリアに入った。素晴らしい景色に心地良い風がマッチして一行の足取りは軽やかだ。


一部を除いては。



「ねぇ」


「・・・」


「ねえってば」


「・・・」



天候の動向などに興味すら示さない不機嫌極まりないアズリューリュに対し、総司はまるで誰もいないかのような態度で黙々と歩を進めていく。



「勝手なことしないでもらいたいんですけど?あのまま行ってたら確実に倒せてましたよね?」


「・・・あのまま行ってたら確実にオマエがやられていたな」


「は、はぁ?神の使いである私が人間風情にやられるわけないじゃないですか」


「力量、技術、経験。どれを取っても段違いでオマエの方が劣っている。現に、あの男は少しも本気になっていない」



自信過剰過ぎる相方の言い分に客観的視点で呟く。当人は納得行かないようで一方的に噛み付くが、必要以上の事は基本的に流して多くを語らない事を徹底する。


それでもコイツはなんで?どうして?としつこく聞いて来る。もう一度、頭を締め付けてやろうかという気にもなるが、今は辞めておこう。


巨漢がこちらの歩行ペースに合わせて近寄って来るのが分かる。



「あまり寄らないでもらえますか?殺したくなるので」


『ガハハ!物騒な事言うじゃないの。とりあえず自己紹介しようと思ってんだ」


「必要ありません。仲良しこよしになるつもりはあり」


『俺はヴァンドラ・ハレル、傭兵業と勇者の兼任しているしがないジジィだ』


「だから聞いてないと」


「御厨総司」


『呼び捨てでいいか?俺の事もそれでいいからよ』


「私を無視するなんていいど」


「構わない。こちらからも聞きたい事がある」



チーン。


総司とヴァンドラの会話にどうにかしてでも水を差したかったアズリューリュは気付けば会話にすら入れてもらえずに凹みまくる。


心の鐘の音が響きまくる。



『その前にどうしても聞いておきたい事があるんだが、先にいいか?』


「構わない」


『お前はハイルドウェイの生まれじゃない』



軽いノリで確信に迫る言葉に総司は無機質な表情で接した。


ヴァンドラの表情は笑みで溢れてはいる、でも言葉にのしかかる重みに笑いは無いと総司は直感で思った。



『んで、そっちの嬢ちゃんはそもそも俺らとは違う種族。あの時の姉さんと同種って事なら神の使者って立ち位置であってるかい?』


「・・・そう、そうそうそう!!やっと私の存在を肯定してくれる人が出てきましたかぁ」



可否を模索していた途中にも関わらず、自分の存在を認められた事によって己の感情を全開に出すアズリューリュに総司は一つ溜息を吐く。


・・・何故、コイツを押し付けた?神よ。



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